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リスの診療所がある郊外と呼ばれる場所は森に囲まれた集落で、一見すると自然豊かな場所である。

しかし、郊外を囲う森は張りぼて程度の規模しか無く、その向こうには広大な荒地は広がっていた。

古くから、何度も何度も戦場になってきた荒野である。


「なあおい、本当にあの森の向こうに国があるのか?」


荒野の真ん中の少し小高い岩の上に、1人の女戦士が立っている。


銀色の長い髪に赤い瞳。

年は24歳で、背丈は平均より少し高い程度。

レオタードの様な形状の肌に吸い付く様な黒い服の上から、肩と腕と足、それから腰の両側を防護する部分鎧に身を包み、右手には背丈程もある巨大な大砲を装備していた。


彼女の名前はアリヒ。

今回の軍勢の総大将である。


「はい、情報が正しければ…」


アリヒの立っている岩の前にはタブレットを持った兵士が1人で、今回の作戦概要を説明している。

兵士は全身を分厚い装甲付きの黒い戦闘服で覆い、頭にはヘルメットを被り、肌を外界から完全に覆い隠していた。


「でもよ。どうしてわざわざもうぶっ潰れた国をまた襲うんだ?それも3万人って言う大人数で。」


アリヒの眼下の地面は、正面に立っている者と同じ格好の兵士達で埋め尽くされていた。


「上層部の話によりますと、彼の国には“郊外”と呼ばれる秘匿領域が存在し、国王を含めた重役がそこに避難しているらしいのです。」


兵士の話を聞き、アリヒは目を凝らして森の向こうを見てみる。

しかし薄っぺらな森の向こうには何も見えず、何処までも続く荒野だけがあった。


「ふぅん。要するに宝探しって訳か。」


アリヒは大砲を構える。


「んじゃ此処は景気付けに、1発行っときますか!【マグナム・オブ・ジャガーノート】充填開始ぃ!」


砲口に光の粒子が集まって行く。

次第に、大砲を構成する装甲板や部品の継ぎ目から白色の光が漏れ始める。


「な…何ですと!?早く周囲の者の避難を…」


兵士が事に気付いた頃には既に、砲口から太陽にも負けずとも劣らない閃光が放たれていた。


「もう遅い!発射ぁ!」


砲身から、白い光粒子が混ざった黒色の極太レーザーが放たれる。

レーザーは白い稲光と空間の歪みを伴いながら、光の半分程の速度で森目掛けて直進する。

アリヒには見えていないが、この砲撃が直撃すればゲルナシャ王国は瓦礫すら残らず灰燼に帰すだろう。


しかし、そうはならなかった。


森の前に突如、三角形の結界が出現する。

レーザー砲は結界に直撃するが、結界に波紋が出来る以上の事は起こらなかった。


「何?」


レーザーが全て結界に吸収され、周囲には暫しの沈黙が訪れる。

3秒程経過した時、結界の中心に黒色の球体が出現する。


「反射魔法だと!?クソッ、間に合うか!」


アリヒは再び大砲を構えて充填を始める。

しかし2発目が溜まり切る前に、1発目が帰ってきた。


最早これまでか。

帰ってきたレーザーは、そんな諦めかけのアリヒの僅かに頭上を通り過ぎ、遥か背後に聳える山脈まで飛んで行った。


「おい!ゲルナジャの魔法使いはコンティニュー野郎のだけの筈だろ!?ありゃ何だ!」


「わ…判りません。情報から変化があったとしか…」


その時だった。


「森より敵影を確認!数は凡そ3000です!」


「何?」


薄ぺらな森の中から、軍勢が現れた。



ーーーーーーーーーー


【トルーパーエクスマキナ】


ーーーーーーーーーー



白色の装甲の隙間から、蒼い光が漏れ出ている。

どれも大振りなマシンガンを抱えており、隊列などは組まず各々で行動していた。

わざわざ陣形を整える必要など無い。

何故なら、全てが1つの意思で動いているのだから。


「何だあれ?自立機械か?」


アリヒは、不敵な笑みを浮かべる。


「丁度良い。全部スクラップに変えてやるよ。おいお前ら、そこに居んだろ。出て来いよ。」


アリヒの背後で、4人の人物が蜃気楼の様に姿を現す。


「機械の兵士…此処にも“イーザイドの機械技師”が出没したのか?」


黒いコート。

白く長い髪。

四角い眼鏡に、覇気の無い目。

右手には、鉄製の杭を高速で打ち付けて穴を開ける巨大なドリルを持っている。

その男は、“ハダンの破壊者”と呼ばれていた。


「まあ可能性はあるんじゃないの?実際、どうやってかは知らないけど瞬間移動も出来るみたいだし。」


ブロンドで、羊の毛の様にふわふわな大量の髪。

白色のレオタードを着ているが、へそや腰、大きな胸の間に菱形の穴が空いている。

左手で斧を背に隠していたが、その金属の斧は隠しきれない程大きい。

その女の通り名は、“ジタニアのエルフ”。もっとも、本物の妖精では無いが。


「ねえ、どうして味方の前でも隠密を掛けとく必要があったの?僕の魔力も無限じゃ無いんだけど。」


銀色で油気のない髪。

爬虫類の様に良く動く瞳。

ブランケットの様に包まる、黒いローブ。

小柄で痩せ型で、更に猫背の為とても小さいその男は“フェレベールの影絵師”である。


「それは、貴女の隠密魔法が1番燃費が良いからですわよ。魔法妨害の有無を確認する為に、わざわざこの一帯を吹き飛ばす事も無いでしょう?」


小柄な身体。

金色の縦ロール。

ルビーの様な赤い瞳。

大きなピンク色のドレス。

純白のタイツに、歩きにくそうなハイヒール。

わがままお嬢様をそのまま絵に描いたようなその人物の通り名は、“スメリオの破壊兵器(ジャガーノート)”。


この4人はアリヒ直属の部下であり、4つに分かれた彼女の軍のそれぞれの将軍を務める者達だった。


「全く…此処は戦場だぞ。お前ら、もうちょっとしゃんとしろよ。」


戦場でも変わらぬ戦友の様子に、アリヒはやれやれと呆れる。


「一気に気が抜けてしまったな…どうしようか…」


「じゃあじゃあ、いつも通り重装歩兵団から行っちゃう?」


そう提案したのはジタニアのエルフ。


「いや、相手の正体が判らない以上迂闊には…」


「機械の兵団なんて恐るるに足りないわ。ねえねえもう行っていいでしょ?」


「いやまぁそうなんだが…はあ、仕方無い。

重装歩兵隊に告ぐ。全軍、侵攻開始せよ。これで良いか?」


アリヒのその言葉を聞いた瞬間、エルフは彼女に思い切り抱き着いた。


「貴女って本当に最高ね。アリヒ。」


「お…おいこら離せ!」


「ええ〜?もうちょっと〜」


「良いから行け!命令を取り消すぞ?」


「ぶー。分かったわよ。」


エルフは不満を露わにしつつも、進軍の為の配置に付く。


「おい影絵師。お前も付いてってやれ。」


「え?僕?」


「あの阿呆が狙撃でもされてしまったら目も当てられん。後方から支援してやってくれ。」


「へいへい。行きゃあいいんでしょ行きゃあ。」


そう言うと影絵師は、蜃気楼の様に消えて去る。


「さてと…どっから湧いたクズ鉄かは知らんが、お手並み拝見と行こうじゃないか。」



〜〜〜



「ご主人様?」


不安そうなトーワの声で、メルティは我に帰る。

メルティは今トーワに連れられて、イーザイド地下帝国の古着屋に来ていた。


「大丈夫…?ぼーっとして…」


「え?あ、うん。大丈夫。少し、考え事をしてただけだから。」


店内は明るいが狭く、小さな2人でも服に触れずに通路を通り抜ける事は不可能である。


「あらまあ可愛らしいお客様だ事。友達?それとも、姉妹かしら?」


服の海から上半身が突き出た状態のにこやかな中年女性が、服の海に沈む2人に話し掛ける。

この店を30年以上経営している、この店の主人である。


「主従関係。」


トーワは、自身とメルティの関係を一言で完璧に説明する。


「あらまぁ。ふふふ。」


女主人は、そんなトーワの言葉を冗談としか捉えなかった。


「それでお二人さん。今日は何を探しに来たのかしら?」


「この子に素敵なお洋服を買ってあげたいの…ワンピースしか…持ってないから…」


トーワはそう言って、メルティを指差す。


「親分として…子分の身なりはちゃんとさせてあげなきゃ…だからね。」


数秒の間を置き、メルティの口から、えっ、と漏れる。

そんな彼女にトーワは、自身といたずら心溢れる微笑みを返した。

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