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再会

「わわわ…うわぁ!?」


釣りの要領で、メルティは鎖で持ち上げられる。


「全く。猟犬様が何遊んでるんだい。」


メルティの背後、小高い丘の上に、彼女を釣り上げた犯人が居た。


猟犬と同じデザインの、女性用の軍服。

ショートボブに切りそろえられた黒髪。

体のあちこちには鎖が巻き付けられており、メルティの首を捕らえたのはそのうちの一本、右手首に巻かれている物である。

顔立ち美しい女性だった。


「るっせー年増!ずぐぶっ壊れる武器が悪いんだ!」


「あんたも絞め殺すわよ!?と言うか、それがあんたの魔法なんだからしょーがないでしょうが!」


布越しであるにも関わらず、メルティの首はがっちりと絞められている。

まるで、鎖そのものが意思を持っている様である。


「全く…で、人工物を扱うって事は、君も人工魔法使いなのかな?」


女は、目の前で宙ぶらりんのメルティに話しかける。

メルティは、鎖を握り潰して千切る。


「何!?」


落下したメルティは、数度転げるが体勢を立て直す。


「はぁ…はぁ…あ…新手ですか…」


「やぁ。新人魔法使いちゃん。人呼んであたしはへヴズの銀蛇(ぎんじゃ)。まだそこの馬鹿ほど知名度は無いけど、直ぐに聞きなれる事になるわよ!」


「…鎖を操るから、銀蛇ですか?」


「悪かったわね!何の捻りも無くて!」


銀蛇はそう言うと、右手首から鎖を伸ばす。

メルティは身構えるが、鎖は彼女の頭上を通り過ぎる。


「おいテメェ!さてはまた…」


「このあたしに歩けと言うの?敗者の分際で身の程を」


鎖は、猟犬の胴体に巻き付き釣り上げる。


「わきまえなさい!」

「うわああ!」


猟犬は宙を舞い、銀蛇の後ろに放り出される。


「悪いけどあたしに、猟犬が手を焼く相手に構ってる暇は無いの。」


銀蛇と猟犬の上空が歪む。

ステルスにより隠されていたヘリコプターが姿を現す。


「次会う時には、お互いよく知った仲で居ましょう?じゃあね。」


銀蛇の左手首の鎖が、開け放たれたヘリコプターのドアの中へと飛ばされる。

ワイヤーアクションの要領で、銀蛇は猟犬ごとヘリへと乗り込んでいった。

ヘリは方向転換すると、再びステルスに隠れて消えた。


「…」


ヘリの消えた方を眺めながら、メルティは地にぺたんと座る。


「私が…魔法使い…?」


「さあ、どうだろうなぁ。」


「わひゃあ!?」


突如真横から聞こえた声に、メルティは驚く。

その声は、人間のメルティが最後に聞いた声と同じものだった。


「あ…貴方は!」


「よぉ。数日振りだな。」


「神様ですか!?」


「…は?」


「だってだって、死んじゃいそうな私を魔法使いにして復活させるなんて、神様以外ありえないじゃ無いですか!」


「いや、あのだな、俺は全然そんなんじゃ…」


「すみません!天国ってどんな場所なんですか?地獄って本当にあるんですか?生まれ変わる先って自分で決めれるモノなんですか!?」


「ちょちょちょい!質問し過ぎだし、その…あれだ、俺もその死後を研究している身だから、現状ではなんも答えられねぇよ。」


「つまり、貴方は神様見習いなんですか?」


「みなら…まあ、そういう事になるな。」


「へぇ…」


「おい何だよ、そのあからさまに残念そうな顔は。」


男のちゃらけた若者の様な見た目と超常的な能力が、メルティの中で結び付く。


「それで見習いさん。私に何か用ですか?」


「見習いさんじゃねえ。俺の名前はジッドだ。訳あって転生現象を調べている。」


「転生現象?」


「死んだ魂が、記憶そのままに別世界で生まれ変わる現象だ。本来なら、ピアノを適当に叩いてラ・カンパネラがたまたま演奏されるのとほぼほぼ同じ確率の奇跡なわけだが、ここ最近、どういう訳かこの現象が指数関数的に増えてるんだ。」


「それって、良い事なんですか?悪い事なんですか?」


「さあな。それすらも判ってねぇ。」


ジッドが腰を下ろすと、それを受け止める様に折り畳み式のキャンプチェアが出現する。

ドリンクホルダーには汗を掻いた缶ビールが差し込まれている。


「で、だ。お前には、この世界を保護してもらいたい。」


「そこがわかりません。何で、貴方の研究とこの世界を守る事が関係あるんですか?」


ジッドは缶ビールを開け、キンキンに冷えた内容物を一気に飲み干すと、話し始める。


「此処は、俺達の観測した中じゃ最高のコンディションの世界だ。古株と言う訳でも無いのに文明レベルは先進的。固有概念の強度は強すぎず弱すぎず。おまけに座標も好都合。あとはこの忌々しい争いさえ無けりゃ完璧なんだが、そこを妥協しても捨て置くには勿体無い代物だ。」


「あの…絶妙に質問の答えになってませんけど…」


「俺は此処を実験場にしたい。此処に俺の手で、別世界からの転生者を呼び出したいんだ。だがその為には、此処が人間の住める環境である事が絶対条件だ。あいにく此処には、知力のある人外生物は居ないみたいだしな。」


メルティは頭を抱え、全脳細胞を使ってジッドの台詞を解析する。


「じゃあ、貴方が世界を救えばいいじゃ無いですか。何で私なんですか?」


「よくぞ聞いてくれた。残念な事に、俺は他の世界には“誰か”に“ちょっとしたノウハウ”を“レクチャー”する事くらいの干渉しか出来ないんだ。だからお前みたいな気の優しいロリ捕まえて、こうして取引してるって訳さ。」


「………」


命の恩人の筈なのに、どうしてか手放しで感謝出来ない。

メルティは機械の両手を眺めながら、そんな葛藤と向き合っていた。

ジッドは、メルティのそんな心の動きすらも掌握していた。


「ま、俺はありがとうなんて言う台詞が欲しくてお前を救った訳じゃねえ。あくまでもお前にこの世界でのパートナーになって欲しいだけだ。」


「つまり、私は貴方の物になるんですね?」


「は?」


「だってそうじゃ無いですか。私は貴方に、死の運命から助けられました。それってつまり、私の命は貴方の物って事じゃ無いですか。」


メルティは、ジッドに両手を向ける。


「ご命令を。マスター。」


メルティは機械としての、道具としての自分を受け入れた。


「いや、何も別にそういう訳じゃ…」


ジッドは慌てて、メルティの方を向く。

そして、自らの全てを差し出すと言う儚い覚悟を示すメルティの姿に、心を奪われる。

否、ただ趣向に刺さっただけかもしれない。


「おう、じゃあこのマスター様からの最初の命令セットだ。ロボガキ、お前は先ず自分を大切にしろ。次に、お前の人間としての感性が正しいと言う事をしろ。その場合、俺の言う事に背いても良い。守るべき物は守り、滅ぼすべき物には容赦はするな。分かったか。」


「はい!マスター!」


「よし!んじゃ次に、お前に最初のタスクを言い渡す。」


ジッドが缶を握り潰すと、それは光の粒子となって消散した。


「兵士としてのお前の帰るべき場所に帰れ。分かったか。」


「はい!」


メルティは指令を受け取ると、自軍の本拠地に向けて駆け足で向かった。


「マスター…か。へへ。悪くねえな。」


ジッドは、痕跡すら残さずこの世界から消えた。



〜〜〜



「魔法使い!?き…きき貴様!何処の国の者だ!」


拠点に帰ろうとしたメルティは、見張りに止められた。


「メルティですよ…貴方の膝を治した…」


「そんな筈があるか!似ているのは顔と髪と体格だけじゃ…」


見張りは、メルティの顔をまじまじと見つめる。


瞳の色は変わっているがその形は同じ。

その春風の様な優しい声も、いつかの夜に聞いた物と同じだった。


「…本当なのか?あのなよっちそうだった衛生兵が?」


魔法使いへの覚醒時に容姿が変わるのは、別に珍しい話では無い。

むしろ、メルティのそれはかなり原型を留めている方だった。


「こりゃ凄い!みんな聞いてくれ!新たな覚醒者だ!」


メルティの名前は、その日の内に本国まで届いた。

イーザイド帝国、二人目の魔法使いとして。

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