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再誕

「死ねぇ!」


猟犬のライフルが、紅い弾丸を放つ。

メルティに躱された弾丸は遠くの廃墟に着弾し、その建物を木っ端微塵に砕いた。


躱す際に生じた隙を狙い、後方の兵士達が発砲する。

肌の露出部には効くと言う事は、先程の一戦で割れていた。


「…!」


向かってくる弾丸を、メルティは布や手で防ぐ。


露出部に当たればダメージを受けると言う弱点は、一見すれば何かを装備する事で防ぐ事が出来そうに思える。

しかし実際の所、高火力ライフルが当たって無傷で済む装備など人類の文明には存在しなかった。


(ラチがあかない…射程が違い過ぎる…)


人間の集中力には限界がある。

いくら超人的な動体視力と判断能力を得ていても、それを操作するのがメルティの頭である事には変わり無い。

弾丸を見切ると言う重労働を続けていたメルティは、次第に疲労し始める。


(…ん?)


ふと、メルティは手の中に弾丸を握っている事に気が付く。

運良く受け止める事が出来た物だ。


メルティはそれを、思い付きで指で弾く。


弾丸は音速で放たれ、遮蔽から銃と頭を出していた兵士の眉間に直撃する。

付近の兵士達はまだそれを、運悪く流れ弾が当たったとしか認識していない。


(これなら!)


メルティは回避の合間に、布によって地面に落とされた弾丸を拾い集め、握りしめて細かなスクラップに変える。

それを振り被り、猟犬に向けて投げつけた。


「!?」


猟犬は咄嗟に地面を撃って跳躍し、斜線から外れる。

メルティお手製の散弾は、後方で援護射撃を行なっていた兵士達を襲った。


「ぎゃああああ!?」

「いでええええ!」

「う…腕がああああ!」


そのたった一発で、メルティへ向かう銃口は無くなった。

一発一発の小ささ故、戦闘不能には出来ても殺せはしなかった。


「テメェ…よくもやってくれたなぁ!」


猟犬は空中で、メルティにライフルを向ける。

引き金が引かれ紅色の弾丸が放たれると同時に、ライフルは破裂しスクラップとなった。


「…!」


攻撃の後隙中のメルティに、回避する術は無い。


弾丸は両鎖骨の間に当たり、不自然に圧縮されたエネルギーを解放し爆発する。

その衝撃はメルティの装甲でも防ぐ事は叶わず、彼女は猟犬のライフルよりも凄惨に爆散した。


猟犬は、跳躍時に地面を撃った事で生まれた小さなクレーターに着地する。


付近には、かつてメルティだった肉片と金属片と、赤と発光する水色のによるマーブル模様の油が散らばっている。

彼女の骨の役割を担っていたのは、水色の直線模様が刻まれた銀色の金属だった。


「覚醒したからって、人ってのはこうも変わるもんなのかね。」


耳が動物の物に変わったり、尻尾が生えたりした例はある。

新たな腕が生えた例もあれば、ツノが生えた例もある。

心臓が二つ増えた例もあれば、全身の筋肉が伸縮性のより高性能な物質に変わった例もある。

ただこれらは、まだ突然変異の範疇で説明できる。

覚醒しただけで人間が機械化するなど、有り得なかった。


「痛えよぉ…」

「助けてくれえ…」

「誰か…早く衛生兵を…」


「あ?」


衛生兵と言う単語を聞いた瞬間、猟犬は鬼の形相で振り返る。


「お前らはそんな覚悟で兵士をやってたのか。がっかりだぜ!」


猟犬は懐からピストルを取り出す。


「てめえらみてえな雑魚共に、これ以上戦う資格はねぇ!《特化強化・範囲性》!」


猟犬は天に向けて、一発だけ発砲する。

ピストルはその一発で壊れる。


放たれた弾丸は最高高度に達した瞬間、高速で自己複製をし、その一つ一つが大砲の弾並みに巨大化する。


「クソの役にもたたねえ雑魚共に、明日やる飯は無え!」


砲弾の雨が、野営地を襲う。


「ぎゃああああああ!」


雨は、付近一帯を窪ませる程続いた。

残ったのは野営地の残骸と、人の残骸だけだった。


「ふ…ゴミがよ。」


“バチチッ!”


猟犬の背後に、魔法陣が展開される。

魔法陣からは、メルティが現れた。


「………あ?」


猟犬はゆっくりと振り返る。

メルティは初めて現れた時と変わらぬ姿で、マーブル油の上に立っていた。


ーーーーーーーーーー


《再創造》

創造時に使用する通常素材を消費し、破壊されてしまったアーティファクトを再創造します。

崇高なブラフニウムには、森羅万象を創造する力があります。

ただ二つ作れない物は、魂とブラフニウムそのものだけです。


ーーーーーーーーーー


メルティは創造主になった瞬間、生まれながらに持っていた魔力を失った代わりに【ブラフニウム鉱石】を500個手に入れた。

【リンカネイション】一つを作るのに必要な鉱石は250個。

そしてメルティのかつての体は、少なくとも通常素材などでは無かった。


「なんで…まだ生きてんだよ…」


猟犬は、ベルトからハンドショットガンを二本抜き、交差させる様に構える。


「何度でも殺してやる!何度でもだ!」


猟犬は駆け出す。


(…え?)


メルティは、自身の体を見る。


すーすーする格好。

神話の中の登場人物の様な装飾品。

繋がってすらいないのに、あるべき場所にぴったりと固定された機械の四肢。


「いや!何!?」


メルティは、自身の体に困惑する。

いくら思い出しても、創造を使ってから先の記憶が無い。


「あ…これが、新しい体?」


ただ、地頭は良いので直ぐに状況を理解する。

むしろ猟犬の方が、今の状況を理解できていなかった。


「おい、さっきから何ブツブツ言ってんだよ!俺と戦うんじゃ無えのかよ!」


「え?」


メルティは、目の前の猟犬を視認する。

この状況に呆れた猟犬は、その足を止めていた。


「い…嫌!」


メルティは、その姿を見ただけで怯み、後退する。


「…お前、さては何も覚えて無えな?」


「え…え?え?」


メルティは周囲を見回す。

足元に、自分と同じ色の髪の毛が散らばっている。


「私…死んだ…?」


ーーーーーーーーーー


所持アイテム一覧


ーーーーーーーーーー


「無い…500個あったのに…」


知らないうちに、自分が一度死んでいる。

その事実にメルティは怯える。


「嫌…3回目なんて…3回も同じ人に…!」


猟犬の手口は、メルティも知っていた。

前の自分もさぞ苦しんだのだろうと、メルティは勝手に妄想する。


「おいテメェ良い加減にしねえとぶっ殺すぞ!」


「ひぃ!?え…えっと…」


メルティは、猟犬を良く観察する。

戦っていたと言う事は、少なからず何か痕跡は残っている筈だ。


ふと、猟犬の服に大きなシワがある事に気付く。

メルティはそれを、自分の手足と見比べる。


「わかりました…頑張ってみます…」


メルティは拳を構える。

猟犬は、にんまりと笑う。


「へへ。良いねぇ…その顔。臭うぜぇ…その恐怖、その覚悟!さっきそこに居た連中より、ずっと兵士らしいぜ!」


両手にショットガンを構え、猟犬はガン・カタの構えをとる。


「行くぜぇ…おらぁ!」


猟犬は右の銃を突き出し、引き金を引く。


「わあぁ!」


メルティはそれを躱す。

散弾が放たれ猟犬の手に反動が返るが、彼はその反動を利用して次の型に移る。


猟犬のガン・カタは、格闘術に銃の反動を利用する動きを組み合わせた半ば独自の物だった。


猟犬が左の銃を突き出した時、メルティは既に彼の脇下に回り込んでいた。


「い!?」


無防備な脇下に、鋼の右拳が突き刺さる。

吹き飛んで勢いが殺されない様に、猟犬の背には左手が添えられていた。


いくら魔法使いと言えど、無事では済まされない一撃だ。


「な…テメェ!」


猟犬は右の銃を向け、発砲する。

もしもメルティにまだ肩があったなら、命中していただろう。


メルティは一度離れ、猟犬の腹に拳を三発。

猟犬は左の銃を放つが当たらず、メルティはその間に彼の背後に回り、更に2発。

猟犬は回し蹴りを繰り出すが、メルティはしゃがんでかわし、右に回り込み右ストレート。

猟犬は怯むが、反撃しようと体勢を立て直す。

その隙をつき、メルティは左手で猟犬の顔を掴み地面に叩き付ける。


「な…んだと…」


猟犬の腕はメルティの鋼の太ももに押さえつけられ、メルティの体が直接接触していないにも関わらず彼は完全に拘束された。


「え…私、勝った?」


その時メルティの首に、後方から鎖が巻きついた。

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