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突入

先ず、四肢の二ヶ所以上の切断や五体粉砕等、常人ならば死に至る程の大きな外傷を負わせる。

次に、肉体の再生が始まる前に捕縛用の兵器にて拘束。

最後に拘束を増強し、内側からは絶対に出られなくする。

これが新体制軍の国々に共有されている、対不死者用作戦の全容だった。


「その程度の軍勢で、このあたしが止められるとでも?」


天使が2人、ジェニファの元に飛んで来る。


彼女は前方に駆けながら、薙刀の2振りで叩き斬る。


次いで彼女は歩兵の大隊に突っ込んだが、薙刀を振り回して道を切り開きそれも突破する。


突破した先に待ち構えていた三台の戦車から、無数の小型追尾ミサイルがジェニファ目掛けて放たれる。


彼女は一番最初に来た一個を踏み台にして跳躍し、空中にて全て破壊した。


「今だ。」


天使の誰かが指示を出す。

次の瞬間、ジェニファは上下左右前後を電気の壁で囲われる。


「な…!?」


彼女を閉じ込める箱の四隅には、ビーコンを持った天使が居た。


ジェニファは着地後直ぐに壁に向けて走ろうとしたが、地面から伸びる稲光に縛られて動けなくなった。

実体の無い壁と天井は徐々に近付いていき、ジェニファは小さな電気の棺に閉じ込められる事となった。


「く…変にくすぐったくて、不愉快だわ…」


八方から伸びる稲光に拘束されるジェニファ。

そんな彼女の拘束を更に強固な物にすべく、天使達が鋼鉄の壁を持ってやってくる。



ーーーーーーーーーー


デバフクレンザー起動


ーーーーーーーーーー



今まで彼女に追従するばかりで何もして来なかったドローン二機が、蒼い稲光を帯び始める。

稲光はケージの放つ電気とぶつかり合い、中和され、かき消えて行く。


「おや?ちょっと自由が効くぞ?」


ジェニファは薙刀を構え直し、箱を形成していたビーコンを破壊する。


電気の箱は消滅し、不死者は解き放たれた。


「流石メルティちゃん!ユーザーのニーズを解ってるじゃない!」


上空から天使の剣から放たれる光線での攻撃が放たれるが、ジェニファはそれを易々と回避する。


(まるで反応無し。まるで学習しない。メルティちゃんの1000倍は無機質ね。)


ジェニファは単身にて、聖イスマダラーム共和国の壁前を守護していた大隊を壊滅させた。


「はぁ…やっぱり基地の訓練場の方が楽しいわ。」



〜〜〜



「揺れるから、ボクにしっかり掴まっててよね。」


「頼まれても離してあげないよ。」


アレックスは箒にまたがり、その後ろにメルティが乗る。


「んじゃ出発!」


アレックスがそう言った瞬間、箒は静止状態から急加速し、藪から飛び出し空へと舞い上がった。


「未確認飛行物体を確認。」

「初期作戦に基づき、即時迎撃を開始する。」


神の壁の上に据え付けられた無数の砲台が、アレックスに狙いを定める。


「へへーん。そんな鈍重な大砲が、このボクに当たる訳…」


砲弾の一つが、アレックスの頭を掠める。

砲弾は光を帯びており、金色の軌跡を描いて飛んで行った。


「って、こっちくるんかい!《ソニックブラスト》!」


アレックスの指先から、無色透明の圧縮音波光線が放たれる。

一直線に放たれた音は壁上をなぞり、砲台を次々と破壊していった。

イスマダラームの神の壁は、上空から呆気なく突破された。


「右手側に見えますわ、聖イスマダラーム共和国にございます。美食が有名らしいですが、今のボク達には関係の無い事です。お降りになりますか?」


「うん。」


「かしこまり…って、飛び降りるんかい!」



〜〜〜



メルティが着地すると、地面は少し凹んだ。


「…は?」


一瞬メルティは、自分がタイムスリップしてしまったのではないかと疑った。


柱と屋根だけの建造物。

窓など殆ど無い。

どの人工物も石を基調に作られており、殆どは全体的に劣化している。


目の前に広がる街並みは、歴史の教科書に出てくる古代都市そのものだった。


「おおっとっとっとっとっ。ギリギリセーフ。」


メルティの直ぐ横に、アレックスが着陸する。

然程速度は出ていなかったので、彼女は地面に着く前に減速を済ませる事が出来た。


「いやーしかし、まさかまた此処に来る事になるなんてね。」


「アレックスは前にも来た事があるの?」


「そりゃもう何回もね。この国は貿易が盛んだからさ、世界中の美味しい物が集まってきてたんだよ。」


「へぇ。」


「でも毎回宗教勧誘が鬱陶しくてさ。ご飯食べたらいつも直ぐに飛んで帰ったよ。」


メルティとアレックスは、そんな談笑を交わしながら街を歩いた。


「か…神の敵め!今直ぐ止まれ!これは警告だぞ!」


その道中で、2人は道塞ぎと出くわした。

彼は薄い布の服と安物のごわごわした布のズボンを履いており、手には園芸用のハサミを持っていた。


「神の敵…」

「神の敵め…」

「神の敵!」


そんな道塞ぎに呼応する様に、周囲の建物から次々と住人が現れる。

皆、包丁や金槌やはさみやかんざしといった、家で用意できる武器を握りしめていた。


「何これ…」


メルティはひく。


「流石宗教国家。団結力の高さはピカイチだねぇ。」


アレックスは状況を客観的に分析しながら、再び箒にまたがる。


「乗って。メルちゃん。此処を突破するよ!」


「うん。」


メルティが再び後部に乗り込むと、箒は3m程浮上し発進する。

信徒達の伸ばした手が持つ武器の先端を掠めながら、箒は国の中心に聳える大聖堂を目指して進む。

群衆は追いかけてくるが、自動車並みの速度で進む箒に追いつける者は居なかった。


「アレックス?その、目的地までの道は分かるの?」


「この国にある全部の道が大聖堂に繋がってるんだ。此処じゃ嫌でも迷子になんてなれないよ。」


アレックスの言葉通り、大聖堂は直ぐに見えてきた。


殆ど石を削って積み上げただけの周囲の建物群と違い、金色の大聖堂は近代的かつ精巧な造りをしていた。

それ自体が巨大な一つの芸術品でもあったが、メルティは何故か見惚れる気分にならなかった。


「周りを下げて、自分を立派に見せているだけ…」


「お、メルちゃんも気付いたかい?分かる分かる。神のお住まいにしては、やってる事が小物くさいっていうかなんていうか。ボクもなーんか好きになれないんだよね。」


聖堂を囲う柵を上から超え、アレックスは聖堂の敷地内、正面玄関の真ん前に停車した。


「未登録の侵入者を発見。これより殲滅を開始。」

「未登録の侵入者を発見。これより殲滅を開始。」

「未登録の侵入者を発見。これより殲滅を…」


聖堂を囲う様に立っていた天使達が、全く同じ台詞を全く同じ抑揚で喋りながら動き出す。

が、それらは皆剣を構える前に、青く輝くナイフで喉笛を貫かれて絶命した。


「本当に機械みたい。どうしてこの程度の戦力を、国はこれ程までに信用するのかな。」


「さあねぇ。もしかしたら、無数の魔法使いが守護する国っていう肩書きを得る為かもね。実際、並大抵の軍じゃ歯が立たない事も事実だし、メルちゃんが居なかったらジェニファ姐だって負けてたかもだし。」


「ま、矮小国の軍なんて虚栄貼ってなんぼのもんっしょ。」


2人はそのまま、大聖堂へと入って行った。


「うっひゃー!広いねー!声もこーんなに反響するよー!」


アレックスはステンドグラスに照らされた廊下を歩きながらはしゃぐ。


「それにしても、人少ないね。」


メルティは周囲を見回しながら呟く。


「だね。もしかしたら、もう教皇さん逃げちゃったんじゃ無い?」


「民を置いて?」


「やりかねないのがこの国さ。」


暫く廊下を進むと、2人の目の前に重厚な二枚扉が立ち塞がる。


「ま、愚かにもメルちゃんに喧嘩を売ったこの国には、痛い目見て貰いましょ。」


アレックスは、両手で両の扉を開け放つ。

扉の向こうには、巨大な円形の広間が広がっていた。


「そうだメルちゃん!この建物、占拠しちゃおうよ!」


アレックスがそう言った瞬間、彼女の頬を矢の形をした炎が掠めた。


「紅蓮の大天使トファルエル。此処に見参。」

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