作戦
聖イスマダラーム共和国は、大きな壁に囲われている。
壁は白く、歴代の教皇の姿が、横に並ぶ用に彫り込まれていた。
イスマダラームの人々はそれを神の壁と呼び、畏れ、敬い、崇拝していた。
「うわぁ…見てよメルちゃん。地上も上空も敵だらけだよ。」
「一国の長直々の宣戦布告を受け取ったんだもの。当然だよ。」
「うん。やっぱり、メルちゃんにはそう言う言葉遣いが似合うよ。」
「そ…そうかな。何だか胸の内側がくすぐったいんだけど…」
「あらまあ。羨ましい限りですわ。」
「???」
壁の前に陣形を貼る、天使の軍勢。
メルティとアレックスはそれを、少し離れた場所にある藪の中から観察していた。
「にしてもさメルちゃん。“戦闘は全部ジェニファに任せる”って、幾ら不死身と言っても、少し無理が無いかい?」
「まあ、見てて。」
空の果てから、一機の小型戦闘機が飛来する。
戦闘機から、軍勢の正面の少し離れた場所に、ジェニファが飛び降りる。
軽く50mは落下したが、彼女はスタイリッシュに着地を決め傷一つ負わなかった。
「メルティちゃんが見繕ってくれた新しいお洋服、皆様に見せてあげますか。」
ベースは限りなく黒に近い紺色。
そこに、体の関節を辿る様に蒼く輝くラインが走っている。
肩の上辺りには、二機の小型飛行機械が飛んでいる。
これがジェニファの、“新しいお洋服”だった。
〜〜半日前の基地〜〜
「め…メルティちゃん…本当にあたしがこれ着るの?」
ジェニファは、メルティに渡されたスーツを眺めながら問う。
彼女の目の前のメルティは、化身では無く本体である。
「も…もしかして、何か問題が…」
「だってこれすっごくピチピチしてそうなんだもん。流石のあたしでもちょっと恥ずかしいよ。」
「…?ま、まあとにかく、着てみてよ。後悔はさせないから。」
「うう…」
ジェニファは不服を抱きながら、メルティに渡されたスーツを持って部屋へと消えて行く。
(丈もサイズも前来てたスーツを寸分違わず模倣したのに、何が違うんだろう…)
数分経って、ジェニファが部屋から姿を現した。
右手で左の二の腕を握り、目線はそれ、足は若干内股になっている。
ただ、前から変わった所といえば、服に光る模様が入った事だけだった。
「似合ってるよ。ジェニファ。」
「え?そ…そうかな…」
「うん。」
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カスタム内容
・身体能力増強
・瞬間再生
・ディフェンシブユニット二機の付属
・聖域との限定的接続機能
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(やっぱり何も変わらない気がする…)
「別に恥ずかしがる必要は無いよ。その服を見るのは、殆ど敵だけだろうし。」
「え?…あ。」
不意に、ジェニファはいつもの堂々とした態度に戻る。
「あはは。それもそうね。で、メルティちゃん。さっき、“今回の作戦にはこのスーツが鍵になる”って言ってたけど、詳しく聞かせて頂戴。」
「分かった。じゃあ、今から説明するね。」
〜〜現在〜〜
ジェニファが言い渡された任務は2つ。
聖イスマダラーム共和国に、正門から堂々と入ること。
邪魔してくる物は、兵士だろうと兵器だろうと一つ残らず殲滅する事。
「わかり易くて、結構!」
ジェニファは背中に右手を回す。
彼女の背に魔法陣が浮かび上がり、1本の薙刀が召喚される。
白銀の柄。
刃は、蒼く輝いていた。
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【メニーエネミースイーパー】
魔量子加速機能を備えた、機械仕掛けの薙刀です。
シムハの国の大王はこれを振るい、イの国々を統一したと言われています。
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「敵を確認。レオンブルクの不死者と断定。」
「未知の武装を確認。驚異レベル、中。これより不死者拘束作戦に移行する。」
天使達はお互いにコミュニケーションをとっているが、その声には抑揚が無く、感情も無く、機械的だった。
「ねえその不死者拘束作戦って、世界共通なの?鬱陶しいから辞めて欲しいんだけど。」
ジェニファは、召喚した薙刀をくるくると回す。
刃が風を切る、鋭い音が鳴る。
「第一軍。突撃。」
先頭の天使がそう言うと、最前面に居た一塊の兵士と、4台の戦車と、5人1組の天使の部隊2つが進軍を始める。
通常の兵士達もまた、茫然自失状態にあった。
「本当にアレックスの言う通りだったね。」
メルティは呟く。
「あいつらは、この国の兵士になった瞬間に機械とおんなじになっちゃうのさ。何かの訓練でそうさせてるのか、それ以外に原因があるのか、理由は分からないけどね。」
「この調子なら、作戦は上手く行きそうだよ。アレックス、そろそろ準備してくれる?」
「はいよ。素敵なお嬢さん、今日は何処まで行きましょうか?」
「じゃあ、聖イスマダラーム共和国の街までお願い。」




