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崩壊

「………」


メルティの前に、魔法使いの集団が現れる。

常人、否、魔法使いですら、メルティのこの状況は絶望でしか無かった。


「諦めなさい。自動人形。今投降すれば、命だけは助けてあげるわよ。」


赤髪の女が、挑発する様に言う。


「どうしたの?来ないの?」


「ふ…魔法があれば無敵だと思い込んでいる、可哀想なガキね。」


近接系は地に降り、遠距離系や補助系はボムハウンドで巻き上げられたコンテナの上を陣取る。


トーワが用意した帝国軍には、合図があるまで何があっても動かない様に言ってある。

ヘルドは未だ療養中。

故に、メルティの背後には誰も居ない。


「行くぞ!あいつを鉄屑に変えてやるんだ!」

「「「うおおおおおおおお!!!」」」


近接系26名が、メルティに向かって走り出す。

通常の銃弾が殆ど効かないのは、既に軍全体に割れていた。


「…遅い。」


最初に到着した一人目は、ひらりとかわして頸に一発拳を入れる。


次いでやってきた二人の首には、両腕で外側に弾く様にラリアット。


さらにその次の三人に対しては、跳躍した後にそれぞれの顎に蹴りを入れた。


「死ねぇ!」


短刀を突き出してきた者が居たので、メルティはその伸ばされた腕を抱え込み、肘でへし折る。


「ぎゃあああああ!」


短刀持ちは悶絶し、他の五人と同じ様にメルティの背後に倒れる。




ーーーーーーーーーー


規定量の戦闘データが蓄積されました。


新たな設計図が解放されます。


・【ホルス】


ーーーーーーーーーー



(え、戦ってるだけでも解放されるんだ。)



ーーーーーーーーーー


【ホルス】

それは天より見下ろす者。

それは裁きを下す者。

それは無形なる物を届ける者。

それは常夜に住まう者。

さあ見上げよ。

かの者の名こそホルス。

主を守護せし天上の神よ。


素材【ブラフニウム】10000個


※注

この創造物はレジェンダリーです。同時に二つ以上保有する事は出来ません。


ーーーーーーーーーー



(一万…!?鎧の塔を分解して作った分が殆ど無くなっちゃう。どうしよう…)


メルティは、先程から始まった遠距離部隊の魔法弾幕を回避したり倒れた者を盾にして対処しながら、思わぬ収穫への対応にも追われていた。


(良いや。取り敢えず作っちゃえ。)


「《創造・ホルス》」


メルティがそう呟いた瞬間、新たな知覚が現れたのを感じる。


(此処は…何処?もしかして宇宙?)


メルティは地上で戦いながら、大気圏の外から地球を見下ろしていた。


それは、地球側の面に青いガラス質の球体がはめ込まれた、白い箱だった。

球体から見ての側面からは、本物の鳥の物を模した大きな翼が生えている。

球体とは反対側の面からは、三角形を細長く引き伸ばした様な大きなアンテナが生えており、それがホルスの全長の3分の2を占めていた。

ホルスは、一般的な大きさの人工衛星だった。


(凄い…途方も無く離れている筈なのに、海を駆ける波の飛沫まではっきり見える。見える?と言うことは…)


ホルスは反対方向を向いてみる。

そこには、果てしなく続く大宇宙が広がっていた。


(綺麗…)

「こうして見ると、人間って途轍も無く小さな生き物なんだね…」


戦闘中に心が洗われてしまったメルティは、ピタリと動きを止めてしまう。


「何だ…?」

「構うな!殺せ!」


胴体を野太刀でバッサリと切られ、更に魔法弾を3発喰らってメルティはやっと我に帰る。


「うわ!?」


ホルスは慌てて向きを変える。

此処からなら、戦場を大局的に見る事が出来た。



ーーーーーーーーーー


《神の杖》装填完了(初回無料)


ーーーーーーーーーー



(神の杖?何かの技かな。でも、此処から届く技なんて…まあ、先ずはやってみよう。)


《神の杖》


メルティは半信半疑で、技を発動させる。


翼が回転する。

球体の正面に魔法陣が現れ、そこから一本、煌々と蒼色に輝く、地球側の先端が尖った棒が出現する。


回転した翼に蒼色の稲光が走り、杭はその輝きを増す。


杭が、メルティの真上目掛けて勢い良く射出される。


「…え?」


メルティは空を見上げる。

それは熱の橙色を纏いながら、自身に向かって迫ってきていた。


「おい、何だあれ?」

「ミサイルか?何処のだ。」


通常のミサイルなど殆どダメージにならない魔法使い達は、気にも止めずに戦闘を進める。

メルティが、先程から無抵抗だったからだ。


「…あ。」


メルティは、神の杖について思い出す。

昔、金属の杭を乗せた人工衛星を宇宙に飛ばし、そこから杭を落として攻撃すると言う兵器が考案された事があった。

杭が大気圏で燃え尽きてしまい、結局実現されなかったその兵器の名前が《神の杖》である。


「まずい。」


メルティは、杭が直撃する瞬間にリンカネイションを引っ込める。


(…あ。)


地球規模で見たら針の穴程にしか見えない大爆発が、イーザイド帝国を包んだ。

メルティは先ず、自身の屋敷に再出現する。


「わわわわわ!地震!?魔法!?兵器!?トーワ、大丈夫!?」

「へーき…なの。このお家…そんなに脆くないから…」


屋敷は大丈夫そうだったので、メルティは二人に気付かれる前に次の場所に行く。

今や国民全員を収容し、イーザイド帝国の本体と化した地下防空壕。


「地震です!地震です!皆様、直ちに屋内に避難して下さい!」


とても揺れていたが、取り敢えず天井が崩れる様な事は起こっていなかった。

なのでメルティは、誰かに見られる前に再び戦場に戻った。

この格納と出現は、メルティのイメージの届く範囲であれば何処でも可能だった。


「…うわ…」


そこは、大きな窪地になっていた。

周囲には魔法使いの焦げた破片が散乱し、焦げ臭さすら消えている。

此処から見える建物と言う建物全てが瓦礫すら残らず滅却されている。


兵士を地下街に待機させていたのは、大正解だった。


「…あ。」


溶けた太刀と、シスター帽子の金属部品が溶けた物があった。


ホルスの神の杖は、杭全体がボムハウンドの胴体と同じ物で出来ており、衝突による物理学的な衝撃を発生させた瞬間に爆発させる事で、同時に魔法によるインパクトも放つと言う物だった。


「ん?」


爆心地の方を向く、真新しい鉄の壁があった。


もしや生き残りと思い、メルティはその壁の方へと向かう。


壁を放り飛ばしてみると、そこには瀕死の男が倒れていた。


「は…は…はぁ…けっほ…」


彼の魔法は《強化要塞》。

盾などの防御用の兵器の性能を向上させる物である。

具体的には、軍で一般的に使われる折りたたみ式の鉄の障壁が、核爆弾でも傷一つ付かない代物に変わる。


「お前…一体何なんだ…」


「魔法使いです。それ以上でも、それ以下でもありません。」


そう言うメルティの背後に、魔法陣が展開される。


魔法陣から現れた鎖は投げ捨てられた壁を巻き取ると、魔法陣の中へと引きずり込んだ。



ーーーーーーーーーー


新たな設計図を解放しました。


【エグズィンクション】

10回、ありとあらゆる攻撃を反射する仮想障壁を展開します。

ユバカゴ王国では、重役が関わるパレードで必ずと言っていい程この武装が配備される。


素材(1枚)

【ブラフニウム】10個


ーーーーーーーーーー



「《創造・エグズィンクション》」


メルティは、先程会得した新たな“魔法”を、これ見よがしに使用する。


小さな3つの魔法陣から3体の小さな蜂型機械が現れ、そこに3体の位置を角にした三角形の蒼い光の障壁が現れる。


メルティはその兵器の挙動を確認し終えると、再び男の方を向く。


「私の前に強い兵器があればあるほど、私もまた強くなる。それだけの理屈。」


「……!」


メルティは、男に手を差し伸べる。


「選んで。此処で殺されるか、この国の仲間になるか。」


「………」


男は、彼女の冷たい手をとった。


この男は、運と正しい知見の両方を持ち合わせていた。

故に、残りの人生を戦いとは無縁な場所で暮らす事が出来た。

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