表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/42

再起動

瞼の裏で展開されるウィンドウを、メルティは心の中でひたすら叩き続けた。

このウィンドウがどう言った物かを考える前に、彼女にはやるべき事があった。


ーーーーーーーーーー


設計図【リンカネイション】を解放しました。


【リンカネイション】

創造主の現界での活動体たる存在。

義体を持った[蒼光の創造主]は既知の生命の概念を超えた精神体であり、その意思は犯されざる蒼光の神域に存在する。


材料

【ブラフニウム鉱石】150個

既存の肉体


ーーーーーーーーーー


(既存の…肉体…?じゃあやっぱり…この体とはお別れなんだね…)


ーーーーーーーーーー


初めて設計図を手に入れた事により、スキル《創造》が解放されました。


《創造》

設計図を元に、材料から新たなるアーティファクトを創造する。


ーーーーーーーーーー


「は…は…は…」


アドレナリンが切れ、メルティは再び激痛に襲われる。

時間が無い。


(お父様…お母様…私にこの身体をくれて、ありがとう…)


「…《創造・リンカネイション》…」


メルティはそれだけ言うと、意識を失う。


空中に亀裂が入り、そこに割れ目が出来る。


メルティの身体は浮き上がり、蒼い光となって空間の裂け目に消えた。



〜〜〜



数日が経過し、メルティの居た場所は敵軍の野営地となっていた。


「流石はアーズガルムの猟犬!敵軍は最早、おまえの居る場所に近付こうともしなくなったじゃ無いか!」

「いやいや。俺はただ、兵士としての責務を全うしてるだけですよ。」

「そう謙遜するな。あんたが居なければ、この地の制圧には、更に数日は掛かっていただろうな」


兵士達が、焚き火を囲んで談笑している。

そこには、アーズガルムの猟犬の姿もあった。


「この調子じゃ来月にも本土を叩けるんじゃ無いか?」

「おいおい、そう言ってる奴ほど直ぐ死ぬんだぜ?知ってたか?」

「え?まじで?」


月夜の晩の、戦いに明け暮れた兵士達による、いっときの休息。

そんな安らぎも、間も無く終わる。


「…ん?」


兵士の一人が、宙で瞬く白い光を見つける。

光は直ぐに広がっていき、円形に変化する。


「おい、なんだあれ?」


輝く円の中で線が伸びていき、そこに不可思議な文様を描く。

文様が完成したところで、それが放つ光は更に強まる。


「魔法陣だ!総員!直ちに第一級警戒態勢をとれ!」


この世には三種類の人間が存在する。

魔力を持たない“無保有者”。

魔力を持つが、道具や機器が無ければそれを引き出す事の出来ない“保有者”。

そして、自らの力で魔力を自在に操る事が出来る物達を、人々は畏怖の念を込めてこう呼んだ。


「“魔法使い”だ!」


少なくともこの世界では無い場所から、魔法陣を通して、メルティが降臨した。


僅かに青く発光する、腰まで伸びた白く長い髪。

発光する薄水色の瞳の奥を見ると、別世界の風景が見える。無限に広がる蒼い無重力空間の中を、様々な機械やその断片が漂い続けるだけの世界の風景が。

頭からは、教会で祈りを捧げる時の様に布を被っている。布は青色で、腰の下まで垂れるほど大きい。ベールよりは厚いが、向こう側が見える程度には薄い。もっとも、布から透けて見える風景は、瞳の奥に映る場所と同じ世界の光景だが。

青色と銀色、二種類の色を持ったリボン型で極薄の金属装甲が、メルティの胴体に張り付くように装着されている。装甲はそれぞれ、肩から胸を通って脇へ、腰から始まり股へといった具合である。肌の大部分が露出するそのデザインは、扇情を伴ってメルティの人間的な面を提示していた。

対して手足は、メルティの機械性の象徴となっていた。

一見すると、肌に張り付く様な薄い鎧で覆われた、通常の人の手足に見える。しかしその付け根はメルティの胴体とは繋がっておらず、所々が蒼白く発光していた。


人間とも機械ともつかないメルティのその姿に、野営地の兵士達は畏怖と困惑を抱いた。

ただ一人、メルティの素性を知る者を除いては。


「何で生きてんだよ。テメェ。」


猟犬はライフルを構えて立ち上がる。


生まれながらの魔法使いは存在しない。

保有者が己が力に覚醒する事で誕生するのだ。


「ぎらぎらぎらぎら鬱陶しいなぁ!負けた癖に覚醒なんてしてんじゃねえよ雑魚が!」


魔法使いの力はこの世界とは別の理に従っている為、戦う際は、主に能力面に関する綿密な情報収集が必要不可欠。

未知の魔法使いが出現した場合は、自軍の魔法使いをぶつけて時間を稼ぐのがセオリー。


「くそ…妙に弱いと思っていたが、まさか魔法使いを隠していたとは…奴はデータに無い!頼む、猟犬!」


「任せてください。必ずや、“もう一度”殺してやります。」


「…?と…とにかく、任せたぞ!」


敵軍は、猟犬の背後に陣形を構える。


単純な魔法使い同士の戦いでは、単純に実力の高い方が勝利する。

逆に言えば、自軍の魔法使いが相手より劣っていた場合、大きな損失となってしまう。

故に軍師は、可能な限り自軍の魔法使いにアドバンテージを与えられる策を練る。

ただの魔法使いよりも100人の兵士を連れた魔法使いの方が戦闘能力は高くなるし、敵に情報が割れていなければ割れていない程、魔法使いは有利になる。


今回の場合、猟犬には数の利が、メルティには情報の利があった。

ただし、メルティにはもう二つハンデがあった。

一つは、メルティはまだ猟犬の魔法を見ていない事。

もう一つは、


(頭がぼうっとする…此処は夢…?それとも、現実…?)


ーーーーーーーーーー


《創造酔い》

創造使用時、一定確率(Lvにより現象)で付与されるデバフ。

聖域と現界の接続が乱れ、一時的に全てのスキルが使用できなくなります。


ーーーーーーーーーー


今のメルティは、風邪の日に見る夢の中に居る様なそんな心地に囚われていた。


(あの人は…アーズガルムの猟犬…みんなを殺して…私をこんな姿にした人…現実でも…夢でも良い…あの人を、超えなきゃ…!)


メルティは腰を低くし、拳を構える。

格闘の構えをとる小さな魔法使いに、敵軍にもどよめきが走る。


「おいおい。戦うにしてももうちょっとまともな…」


コンマ1秒の間にメルティは猟犬を間合いに収め、鋼鉄の拳を脇腹に入れる。

猟犬は、成す術無く吹き飛ばされた。


「がっは!?」


吹っ飛ばされる間に猟犬は銃を地面に突き刺し、ブレーキにして停止を試みる。

5m程の直線を地面に描いた後、彼の後退は漸く停止した。


「格闘系…いや、機械の体を得る魔法か?」


猟犬は銃を構える。


「ま、何でも良い。これから攻撃を仕掛ける。援護を頼む。」


猟犬のライフルが、赤黒い煙に包まれる。


「《武装強化》!」


猟犬の魔法を受けた重火器は、全ての性能が飛躍的に上昇する。

短所が補われ、長所が更に伸びる。

だがその分、劣化や消耗も激しくなるが。


「そのオニューの手足、またぶっ壊してやるよ!」


ライフルから、赤い煙を放つ銃弾が放たれる。

メルティはそれを咄嗟に回避する。


「今だ!」


猟犬の呼び掛けに呼応し、メルティを射線に収める兵士が一斉に発砲する。


半分ほどが命中したが、その殆どは義腕か義足に当たって弾かれるか、布に受け止められ力無く地面に落ちるか、胴体を覆うリボン状の装甲に敗れるかだった。

が、一発だけ、メルティの脇腹に命中した。


「うぐぅ!?」


何度も経験した、しかし慣れる事も無い痛みに、メルティは怯む。

傷口からは、血と青色の液体が混ざり合った、マーブル模様の液体が流れ出す。


傷口は直ぐに塞がったが、少なからずダメージを受けた事はメルティも察知していた。

それと同時に、どうせなら全身を金属で覆ってくれても良かったのに、とも思った。


「覚醒しても、雑魚は雑魚か。お前ら!魔法使い殺しの称号が欲しけりゃ、俺様に続けぇ!」

“うおおおおおおお!”


数、情報、能力。

現状、メルティはその全てにおいて猟犬に劣っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ