陽動
「おらぁ!」
“ガキン!”
ランスロットの槍は溶断される事など無く、武神の剣とかち合った。
メルティの武器は、攻撃力を優先する程脆くなる傾向にある。
ランスロットのそれは必殺と言うよりも継戦の為の武器だった為、ライフルソードの薄い刃のようにあっさりと押し負ける事は無かった。
ランスロットの槍が、武神の脇腹めがけて突き出される。
「させるかぁ!」
武神は槍を下に弾き、ランスロットの胴体に蹴りを入れた。
ランスロットはよろよろと後退するが、外傷とまでは行かない。
「ふはははは!ランスロットとやら、貴様は主人と違って楽しいなぁ!それでこそ戦士だ!これこそが戦いだ!」
武神は切り返す。
ランスロットの槍がそれを受け止める。
(く…一撃一撃が人間離れした重さだ。いや、機械であれば当然か。とにかく、奴に一撃でも与えなくては。)
〜〜〜
「はああああ!」
ニケの拳がメルティに向かって来る。
彼女の動作は、先程までとは比べ物にならない程の速さだった。
「…っく…」
メルティは鎖を放つが、ニケは軽々と回避する。
「そこ!」
ニケの拳が、メルティの鳩尾に入る。
“バキリッ!”
その音は、ニケの拳の骨が粉砕した音だった。
「…あれ?」
リンカネイションの骨は圧縮されたブラフニウムそのもので、強度は鋼をも軽々と超える。
「いぎゃあああああああ!折れたああああああああ!」
粉砕骨折した拳を抱えながら、ニケは泣きながら地面を転がり回る。
「な…ニケ!」
ランスロットとの一進一退の攻防を繰り返していた武神が、不意に彼女に注意を逸らす。
ランスロットはその隙を狙い、凪祓いを繰り出す。
「ぐああ!?」
武神アーズベルトは大きく吹き飛ばされ、そのまま地面に仰向けに倒れる。
「ぐ…この!」
起き上がろうとするアーズベルトの首元に、槍があてられる。
傷にもならないちくりとした痛みが、彼を襲う。
「いやあああああ痛いいいいい!絶対折れてるこれええええええ!」
ニケは先程の状態から変わっていない。
両者、再起不能になった。
「………」
確かに、いつか現れた魔法部隊は精鋭揃いだった。
(昨日戦った三人組と言い、この二人と言い、どうも緊張感が無い気がする…)
メルティがランスロットを現界から消し、鎖を生成しようとした瞬間だった。
「そこだ!」
「え?」
急に立ち上がったアーズベルトによって、メルティは肋骨の下あたりを殴られた。
骨の無い部位への打撃、それがメルティの攻略方法と分析した結果の行動だった。
「う…」
痛みは無いが、臓物が潰れる様な違和感に襲われる。
それは端的に言えば、とても不快だった。
「俺は倒れない。絶対に!」
「さっき倒れてたじゃん…まあ、良いけど。」
メルティは武器を取り出そうとして、彼が拳を構えているのを見て辞めた。
「おおおおおお!」
アーズベルトの拳を二つ、メルティは横にくっつけた両腕で防ぐ。
それは最早、鋼鉄の盾だった。
3発目を防いだ瞬間、メルティは右腕でアーズベルトの鎖骨の間辺りを殴り、彼を後退させる。
そうして生まれた距離を利用し、メルティは彼に強烈な右ストレートを繰り出す。
「がっは…!」
アーズベルトはよろよろと後退する。
武神化など、とうの昔に切れている。
しかしそれでも、彼は諦めなかった。
「まだまだぁ!」
アーズベルトの渾身の左フックが、メルティにひらりとかわされる。
彼はそれをコンビネーションに繋げたが、やはりメルティには届かない。
3発目をかわした辺りで、メルティはその伸ばされた腕を掴み、アーズベルトをそのまま背負い投げる。
彼は、背面全体を強打した。
常人ならばもう立ち上がる事も出来ないダメージだ。
「まだ…まだぁ!」
それでも彼は立ち上がろうとする。
流石にうんざりしたメルティは鎖を召喚し、彼の胴体に巻きつけ、彼を一度上に持ち上げた後、地面に思い切り叩き付けた。
「がっは!?」
メルティは、その一連の動作を4度は続けた。
「…もう良いでしょう。貴方はよく頑張りました。もう休んで下さい。」
「まだ…ま…だあ…!」
それでも彼は立ち上がり、拳を握ってメルティの元に二歩ほど進み、そのまま倒れた。
「………」
「君の言う通り、彼は良く頑張ってくれた。」
「!?」
巻き上げられて縦になったコンテナの上に、一人の少年が立っている。
紫色のマッシュルームヘア。
緑色のコート。
革製のバックパック。
背後に展開される、六つの紫色の魔法陣。
彼の名前はエリック・ワーソン。
此処とは一つ隣の拠点の守衛をしていた者である。
「武神が、俺達が此処に集結する時間を稼いでくれたんだ。」
別なコンテナの上に、一人の男が上がってくる。
褐色の肌。
黒く短く硬い髪。
緑色のジャケットに、白いシャツ。
彼はラーサイズ。
エリックの守る拠点の更に隣に居た者だ。
彼等を筆頭に、魔法使いが次々とメルティの周囲に現れていく。
その数総勢38名。
それが、第2管区に配備されていた全ての魔法使いだった。