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別離

「つまり、トーワちゃんが迎えの車を読んできてくれたの?」


「うん。」


「いつ?」


「さっき。」


「………」


「何?」


状況に相反し、車の中ではとても緩い時間が流れていた。

国家存亡の危機だと言うのに、メイド2人が妙に落ち着き払っているからだ。


「本当に、貴女には同情しますよ。メルティ様。」


「?」


今度は、シーハが話し掛けてきた。


「保有者だからっていきなり軍に入れられて、救う義理の無い国の為にし…戦いに行かなければ行けないなんて。」


「…私の事を思ってくれてありがとう。でも大丈夫だよ。」


車内は真っ暗だが、メルティの髪や手足の模様、それから胴体の金属装甲が発光しており、妙に目立っていた。


「確かに自分でも少し、理不尽な境遇だとは思う。でも運命を呪っても、仕方無いよ。それに、私が戦いに行くのは国の為じゃ無い。」


メルティは、拳を握る。


「人の為だよ。」


「………」

「………」


車内は静まり返る。

と言うのも、メルティが今話した事は、国が兵士にこうあれとした価値観と大きくずれていたからである。

しかし、それでも。


「メルティ様、貴女は本当に立派な人ですね。武器では無く、言葉で平和を実現しようとしたイルドゥ様を思い出します。」


シーハの口から父親の名前が出るとは思わなかったメルティは、最初は少し驚いたが、それと同時に、何だか嬉しくなる。

それとは裏腹に、イルドゥの名を口にしたシーハは神妙な面持ちだった。


不意に、車内が橙色の光で照らされる。


「そんな…有り得ない…鎧の塔が!」


運転手は、その光景を見て驚愕する。


この国を200年守り、見守り続けた鎧の塔が、無残に倒され炎上していた。

周囲からは退路を失った人々の、阿鼻叫喚の声が聞こえる。


それを見たメルティは、走行中であるにも関わらず、ドアを開け放って飛び出した。

シーハとトーワもそれに続く。


「シーハちゃん、トーワちゃん、貴女達は…」


シーハのスカートの下から、折り畳まれた長剣が落ちて来る。

トーワのからは、折り畳まれた狙撃銃。


「大丈夫です。無理はしませんから。」

「もっと酷い戦場でも…大丈夫だったから…」


「気を付けてね。」


「貴女もです。」

「頑張って…なの。」


2人はそれぞれ、別々の方向に駆け出す。

にも関わらず2人の位置関係は、いつまでもぴったりと線対称を保っていた。


「…ふぅ…」


メルティは、倒れた鎧の塔まで向かう。


「ッチ。逃げられたってマジかよ。おめえの自慢の鎖は飾りか?ああ!?」

「な…あんたがちんたらしてるからだよ猟犬。」


「まあまあ。直接の原因は、いきなり出た待機命令にありますし…」


「部外者は黙ってろ!」

建門師(ゲートメーカー)は黙ってなさい!」


「ひいぃ!」


倒れた塔の上で、魔法使い達がくつろいでいる。

その数、七名。


「今回の作戦目標はこの国の占拠であり、皇帝殺害では無い。目立ちたいのも判るが、少し弁えろ。」


全身を中世式の鎧で包んだ、“イマスダラムの騎士”。


「ま、今初の私達の目的は無事達成された訳ですし。」


赤茶色の分厚いローブに身を包む、ロングヘアーと美しい顔立ちが目を惹く男は“グザウェーブスの薬師”。


「つまんねえなぁ。もっと色々ぶっ飛ばせると思ったんだが。」


全身に爆発物を装備した軍服の中年男は、“アーズガルムの花火屋”。


「全員、静かに。お客様が来たわよ。」


そんな6人を、長く艶やかで美しい黒髪が目を惹く女性が、制止する。

彼女は人呼んで、“ゼーゲの戦乙女”。

この魔法使いの小隊の、隊長を務める人物だった。


「つまり、皇帝陛下は無事なんですね。」


メルティは、小隊に向けて問う。


「ああ!?何だ、ガキのクセに嫌味かよ!」


猟犬が噛み付く。


その反応を見たメルティは、ほっと胸を撫で下ろした。


「ねぇ、御嬢さん。此処は貴女みたいな子供が来る場所じゃ無いの。分かったらほら、向こうで捕虜を受け入れているわ。」


次いで薬師が、メルティに優しい言葉を掛ける。


「お気遣いありがとうございます。ですが、投降するつもりも無いです。」


「…てことはやっぱり、貴女が猟犬ちゃんが言ってた、機械の体の魔法使いちゃんって訳?」


「ええ。多分、そうです。」


「つまり、私達と戦いたいと。」


「その為に来ました。」


薬師は、戦乙女の顔をちらりと見る。


「我々第七魔法部隊は、待機命令の遂行中に魔法使いと遭遇。戦線維持と命令遂行の観点から見て、戦闘での撃退が望ましいと判断し、これより臨時作戦を実行する。」


「つまり?」


「許可する。」


次の瞬間、倒れた塔の上から猟犬と薬師が姿を消す。


「よお!俺達よく会うよなぁ!運命って奴かぁ!?」


「…!」


猟犬の蹴りが、メルティの腹にクリーンヒットする。

彼の靴は、例の赤いオーラを纏っていた。


打ち上げられたメルティを囲うように、焦げによって紙に空いた穴の様な、四つの空間の歪みが出現する。


歪みからはそれぞれ鎖が二本づつ射出され、メルティの四肢に巻きつき、彼女を空中で拘束した。


鎖は、塔に居る銀蛇の物で、それをメルティの下まで届かせたのはメルティよりも二つ程上の少年、建門師である。


「今だよ脳筋共!」


「脳筋じゃねえ猟犬様だ!《武装強化・威力》!」

「《飛斬(ひざん)!…待て、それは吾輩も含まれるのか!?」

「前は爆弾魔って呼んでくれたじゃねえかよぉ!《マジックバフ》C4!」


強化ライフルの弾丸と、鎧の騎士による宙を切る斬撃と、電気部品が怪しく点滅する四角い小さな箱が、一斉にメルティに飛ばされる。


「…!」


次の瞬間、メルティは拘束された四肢をその場に残し、重力に任せて落下する。

元々繋がっていない四肢を胴体と接続していたのは、見えも触れもしない謎の力。

その見えない接続を絶つ事くらい、どうと言う事も無かった。


「あはは。見た目通り、やっぱそれ出来るんだね。」


見事にからぶっていく三発の攻撃を見て。建門師は少し面白そうに言う。


「…ん?」


メルティは、地面がベタベタしている事に気付く。

それも、ハエ取り紙の如き粘着力だ。


「ふふふ。私特製の強力接着剤よ。普段は毒物以外出番は殆ど無いけど、貴女との戦いではどうやら逆の様ね。」


周囲には紫色のガスも充満していたが、メルティには何の害も及ぼせなかった。


胴体が動けなくなっている間も分離した四肢は動き続け、鎖を握り潰し拘束からの脱出を試みてている。


「させないわよ!」


しかし、先程から一本切れたら二本現れると言った具合で、試みは上手く行っていなかった。


「うふふ、じゃ、これも試してみましょうかしら。」


薬師が、メルティの胴体に向けてフラスコを投げる。


メルティの体に当たった瞬間フラスコは弾け、中の水色の液体が弾ける。


「…!?」


液体は急速にその温度を下げていき、周囲が火の海であるにも関わらず、メルティの胴体と頭は丸ごと氷漬けにされてしまった。


「猟犬が苦戦する相手と聞いて、どれ程の物かと期待してみれば…まさかこの程度だったとはな。お前が腑抜けていただけじゃ無いのか。猟犬。」


「るっせーわ!あん時は少し油断してただけだよ!」


騎士と猟犬が、緩い言い争いを始める。

部隊に勝利ムードが漂う中、戦乙女だけが1人、神妙な面持ちで考え事をしていた。


「…妙だな。」


「ん?どうかしたの、隊長。」


そんな戦乙女を、建門師が心配する。


「彼女は何故、我々に挑んできた?普通に考えて、1人で7人に挑戦するなど、無謀過ぎる。」


「でもまあ、情報によるとあの子、まだ経験も浅かった見たいだし。」


「だからこそだ。よっぽどの馬鹿か好条件でも無い限り、ただの新兵がそんな事する訳…」


ふと、戦乙女は上を見る。

ちょうど、メルティの四肢が鎖で拘束されている場所である。


足は少しも動いていないが、両手はしきりに鎖を破壊している。

しかし、鎖が破壊される度に、新たな鎖が伸びて腕を縛り続けた。


「…無い。」


「え?」


「千切れた鎖が何処にも無い!」


戦乙女がそう言った瞬間、メルティの残された両手足が青く光る。

鎖は直接触れていた場所から、みるみるうちに染み込む様に吸収されていた。


「銀蛇!今すぐ鎖を解け!」


「無理です!ピクリとも動きません!」


「く…建門師!」


「今やってます!」


歪みがゆっくりと消えていき、鎖は門の狭間で切断される。


そして、残った鎖はメルティの手足に急速に吸収されて無くなってしまった。



ーーーーーーーーーー


構造解析完了

設計図【サーペントチェーン】を解放しました。


【サーペントチェーン】

創造を繰り返す事で、何処までも伸びる細い鎖です。

その蛇の終端を見た者は居なかった。学者は、終端は既に自分自身に飲み込まれていると言った。狂人は、終端など存在しないと言った。詩人は、終端は始点と同じであると言った。南の森を収める精霊は、全ての場所が始まりで、また終わりでもあると言った。それはいくつかの始まりと終わりが連結されて生まれたものなので、誰も本当の終わりを定義できないとも言った。


素材

初回製造【ブラフニウム】50個

10m延長【ブラフニウム】10個


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