第6話 アベクの思い②
「何言ってるのよ!!」
ジェラの怒鳴りの声が響いた。
「落ち着きなさい。リーリエ達が起きてしまう。」
「落ち着けないわ!!」
アベクがジェラを宥めるが落ち着く気配がない。
「魔法を使いだして、魔物を呼び出したのよ?!この家も村もあの魔物の子に滅ぼされてしまうわ!」
扉の前で2人の会話を聞いていたリーリエはジェラにも魔物の子と言われていることを知り傷ついた。
「違う。リーリエは魔物の子なんかじゃない」
アベクは睨みながら言い放った。
「リーリエは私たち、いや、少なくても私の娘だ。」
その言葉を聞いたジェラは目を見開き、リーリエの心臓は大きく鼓動を打った。
「なっ、あなたは何を言っているの、、?」
アベクは話しを続けた。
「確かに初めは、村長に押し付けられる形でリーリエを引き取った。村長の話しを聞いたら魔物の子と思うのは仕方がない事だとも思う。」
「ならなんで、、?」
アベクは今までの怖い顔から優しい顔に変わった。
「リーリエは子供のできなかった私たちに沢山の思い出をくれた。赤ん坊の時は、大変なことは沢山あったが、それ以上に思い出をくれた。それに文句のひとつも言わず、毎日家の事やお店の手伝いまでしてくれている。そんなリーリエになにかをしてあげられたつもりは無いが、リーリエといる時間は私にとって、とても楽しかった。今までは君から言われた、深くあの子とは関わらないという約束を守ってきたが、これからは本当の親子のように接していこうと思う。あの子がそれを許してくれるなら。。。」
リーリエは気づいたら目から涙が出ていた。
ジェラは呆気に取られてしまい、椅子に崩れるようにもたれた。頭の整理が追いついていないようだった。
「それにリーリエはこの村に友達が出来なくて、自分で魔法の努力をしてサペン君を召喚したんだ。そこまでしたものを奪って良いわけがない」
黙って聞いていたジェラが口を開く。
「私は、私は家族だとも思って接することはできないわ。今までと同じくあの子とは接していく。。。」
「、、、わかった。そしたら、お互い好きなようにしよう。」
リーリエは2人の話しが終わりそうだったので静かに部屋に戻った。
(アベクさんがそんな風に思ってくれていたなんて。。。)
静かにベッドに入りサペンを抱きしめながら寝た。
次の日、いつも通りに起きて階段を降りていくとキッチンから物音がした。
ゆっくり扉を開けるとアベクが料理をする準備をしていた。急いで部屋に入ると、部屋に入ってきたリーリエに気づいた。
「おはようリーリエ」
笑顔をリーリエに向ける。
「アベクさんおはようございます。」
いつも通りの挨拶を返す。リーリエは寝坊をしてしまったんだと思い、すぐに謝った。
「申し訳ございません。寝坊をしてしまいました。すぐに朝食を作ります」
急いで料理の準備をしようとすると、アベクに声をかけられる。
「違う違う。リーリエは寝坊をしていないよ。今日もきっちりいつも通りに起きてきてくれた。ただ、今日は一緒に朝食を作りたくてな」
少し恥ずかしそうにリーリエに想いを伝える。リーリエは昨日の夜にあった事を思い出した。アベクは自分と家族の様に接してくれているのだと気づいが、家族というものを知らないリーリエはどうやって接すれば良いのか分からなかった。
「よろしくお願いします」
いつもより固い口調になる。
料理を始めた2人だが、話すことはなく無言で作業をしていた。リーリエは何を話していいのかが全く分からなかった。アベクは聞きたいことが沢山浮かんできた。
(リーリエの好きなことはなんだろう。部屋ではどんなのことをしていて、休みがある日は何をしているのだろう、、、)
聞きたいことが沢山浮かんできたが、それと同時に自分がリーリエの事を何も知らず、何もしてあげれなかったことにとても後悔した。アベクは料理をしながら口を開いた。
「リーリエ。今までたくさん辛い思いをさせてきて悪かったな。ごめん」
リーリエはびっくりした顔でアベクのことを見た。まさか謝られるとは思っていなかった。
リーリエはアベクに酷いことをされたとは思っていないからだ。許可をもらう時にダメと言われたことがないので、むしろわがままをたくさん聞いてもらっていると思っていた。
「アベクさんが謝ることなんてないです。私をここまで育ててくれたことにとても感謝しています!」
リーリエが必死に伝える。
「そうか、」
アベクが申し訳なさそうに答えた。それから料理ができるまでは2人は話せなかった。
料理が出来上がる頃にジェラは起きてきて3人で朝食を食べた。食事が終わりリーリエが洗い物をしているとアベクから話しかけられた。
「洗い物が終わったら部屋に行ってもいいか?」
「大丈夫です。すぐに洗い物を終わらせます」
リーリエは洗い物を急いで終わらせアベクと一緒に自分の部屋に向かった。部屋に入ると机の上に昔あげて魔法の本が大切そうに置かれていた。リーリエはサペンがいないことに気づいた。
(あれ?朝ベッドにいたはずなのに。 どこかに出かけたのかな?)
2人は床に座り、少しの沈黙が流れた。リーリエが内心オドオドしていると、アベクが話し始めた。
「さっきも言ったが、今まで辛い思いをたくさんさせてしまい申し訳なかった」
アベクは頭を下げた。その姿を見てどうしたら良いのか分からず余計にオドオドした。
アベクは頭を上げ、深呼吸をしてから話しを続けた。
「今まで散々放置してきたのにこんな事言うのはリーリエに怒られてしまうだろうけど、もっと親子のように君と話したり、出かけたりしたい。これから私とちゃんとした家族になってはくれないだろうか?」
リーリエはこの話を昨晩聞いていたので、答えはYESの一択だ。アベクの問いかけに右下を向き、頬を掻きながら答える。
「えーっと、私はちゃんとした家族というものがわからないので、対応とかしっかりできるか分からないですが、よろしくお願いします」
リーリエは深く頭を下げ、頭を上げてから微笑んだ。アベクは嬉しさで口元が少し緩んだ。話が終わり各々店の準備に取り掛かかることにした。
リーリエはまずサペンを探すことにした。
「サペ〜ン。どこにいるの〜。」
呼びかけると目の前の壁から空間の穴が開き、サペンが出てきた。
「アベクさんと話しはおわったの?」
「終わったよ。あれ?どうして話しをしていたこと知ってるの?」
リーリエが不思議そうに聞く。
「まぁ、なんとなくそんな気がしただけだから気にしないで!それより山菜を早く取りに行かないと魔法の練習が出来なくなっちゃうよ!」
サペンに話しを変えられてしまったが、魔法の練習ができないのは嫌だったので山菜を取るために家を出発した。
いつも通り山菜を取り、1番嫌なお店の手伝いに向かった。嫌だが、今日はサペンも一緒に行くことになっていたので少し気が楽だった。
お店が開店時間を迎えお客さんたちが入ってきた。
お客さんたちがサペンを見ると驚いた顔をした。
(あれが村長が言っていた、、、)
(あの子魔物を呼び出したのになんで追い出さないんだろうね)
客たちは席に座るなり小さな声でそんな話しをしていた。リーリエは自分が言われるより、友人が言われる方が胸が痛かった。サペンは特に気にしてなさそうだった。
何時間か経ちお酒を飲んでいた人達はお酒が回り始め、声も発言も段々と激しくなってきた。
すると前にもリーリエに絡んできたお客が今日もちょっかいを出てきた。
「リーリエちゃーん。やっぱり可愛いね〜。この後おじさんと過ごさない?」
客はジリジリとリーリエに近づく。
一緒に居る客はまたかという感じで止めることをしなかった。
「いや、ちょっと、、、」
嫌がっているにも関わらずどんどん近づいてくる。
「あっ、そ、そうだ!私魔物の子ですよ!そんな子と一緒に過ごしたらなにか凄いことになっちゃいますよ!」
リーリエは必死に客に伝えたが、余計に客を興奮させてしまった。
「凄いことってどんなことになっちゃうの?体で教えてもらおうか」
不気味な笑みでリーリエの腕を掴む。リーリエは気持ちが悪く思ったが、恐怖で声が出なかった。
「な〜。良いだろ〜」
目を瞑り心の中で助けを求めた。サペンが助けに近づこうとすると後ろから誰かがリーリエたちの方に向かい客の肩を握った。
「お客さん。私の娘にそういうことするなら出ていってもらえますか?」
客が後ろを向くとそこにはアベクの姿があった。
「私の娘って、あんたも魔物だったのかい?」
客がバカにしたように聞く。
「いいや。残念だが私は魔物じゃないし、私の娘であるリーリエも魔物ではない。今の状況を客観的に見ると私の目からはあなたが性的な魔物に見えますけどね」
何人かの客が確かにというように、アベクの発言に小さく同意した。リーリエが魔物の子というのを考慮しても若い女の子が乱暴にされていて良い気がしなかった。客は居ずらくなり乱暴にリーリエの腕を離し、つまらなそうに店を出ていった。
アベクはリーリエに近づいた。
「大丈夫だったかい?」
優しく声をかける。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」
「そうか。リーリエ、今日は厨房を手伝ってくれ。サペン君、今日は君に店内を任せても大丈夫かな?」
そう聞かれたサペンは胸を張り答えた。
「僕に任せてください!」
その後サペンは初めてのお手伝いとは思えない程の働きぶりを見せてお店に貢献した。
リーリエはお店の手伝いをしながらアベクさんの気持ちを知り、肌で感じ、愛情に包まれている気持ちになった。
読んでいただきありがとうございます!
本当におまたせしました!
投稿頻度上がるかもです、、、