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怪物の世界  作者: 名もなき男_太郎
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9.気力

 ググンが気闘を使えるようになった。


 いつものように一緒に走り込みをしていたら、急にググンが吹っ飛んでいった。


 水浴びの時に話を聞くと、走っている最中に、足の中に泥の塊のようなものを感じたらしい。

 以前からも感じていたが、今日はそれがとにかく重かったので、燃えてなくなれと念じたら吹っ飛んだそうだ。


 泥のようなものは俺も感じるが、燃やし方は分からない。


 同い年の仲間が出来るのに、自分だけ出来ないのは悔しい。


 ――自分には出来ないのかも……


 燃やすという感覚が分からず、ネガティブな気持ちになる。


 悔しく情けない気持ちが襲ってくる。

 初めて、明日の訓練を休みたいと思った。


 大人の気持ちで考えると、子供のことだ、

 少し成長に差があるだけで、そんなに問題があるとは思えない。


 鉄棒の逆上がりと同じだ。繰りかえしていれば、いつかできるようになる。


 そう思うと気分が落ち着いてきた。

 落ち込んでてもしょうがない。継続しなければ結果は出ない。


 気持ちを奮い立たせた。


「念じるんだよ。力を込めるんじゃなくて、頭で意識するんだよ」

 ググンは背中を軽く叩いて、励ましてくれる。


「うん。ありがとう」


 その日は寝ながら、気闘について考えた。




====




 次の日、走りながらずっと念じる。


 ――燃えろ・・・・燃えろ・・・・燃えろ・・・・


 足に泥がたまっていく。


 ――燃えろ・・・燃えろ・・・燃えろ・・・


 息が上がっていく。


 ――燃えろ・・燃えろ・・燃えろ・・


 段々と念じるスパンが早くなる。

 走るのが早くなった気がする。


 石柱に差し掛かるが、回り切れない。


 足を止めて、下を見る。

 脚が白くなっていた。


「はっ、ふっふっ」

 変な声が出る。頬が引き上がる。


 ――おっしゃあああああああああ!!!


 キリーナを探すと、いつの間にか隣に立っていた。


「おめでとう。でも止まってはいけませんよ。走りなさい。」


「はいっ!」


 その日は30周走った。



 気闘は、力を込めるものではないらしい。


 魔力と同じで、どこに気力を送るか意識してコントロールする。

 送った先で消費することを念じ、気力を使うのだ。


 かなり癖があるが、要領が分かってきた。


 最近は、走るのが楽しくて仕方がない。

 ググンとセミラと、3人で走るようになった。




====




 その日はやけに寒かった。


 朝起きると、外では雪がパラパラと舞っていた。


 いつものように魔法の練習を始めると、ググンの頭が舟をこいでいる。

 セミラは横になって眠り始めた。白い肌に、雪が乗っては解けていく。


「二人ともどうしたの? ちゃんと練習しようよ」


「……ハイヤーンは昨日さむくなかったの?」


 俺は秘術で体を保温していたから気付かなかったが、昨夜は相当寒かったらしい。

 2人とも、まったく眠れなかったそうだ。


「俺は魔法で体を温めてたから……」

 と言うと、教えて!と懇願された。


 秘術だと教えると、あっさり引いたが、ググンは俺に引っ付いてきた。


 ググンの肌が冷たい。じっとりしていて、気持ち悪い。


 セミラ見ると、目が合った。

 セミラは恐る恐ると言った形で、俺の肩を触った。

 びくりと震えて、俺を見る。


 ――もうどうにでもなれ


 諦めの気持ちで上を向くと。

 セミラは俺の首を掴んできた。


 首に手を回し、抱き着いてくる。


 本当に寒いのだろう。

 2人に抱き着かれながら、夜が明けるのを待った。



 キリーナの部屋に行くと、キリーナが眉をひそめていた。

 ググンとセミラが寝不足なのに気が付いたみたいだ。


 2人とも顔が赤くなっている。


 キリーナは2人に魔法をかける。

 ――あれはたしか、体調を整える魔法だ。

 

 今日は戻って休んでいいですよ。と言い部屋を出て行った。


 3人で小屋に戻ると、毛皮の量が増えていた。

 2人は自分の毛皮に入り、眠ってしまう。


 2人の体調を見ていると、キリーナが入ってきた。

 今日の昼食はパン粥だ。

 しかし、量が非常に少ない。


「今日は訓練をしていませんからね、訓練もせずにご飯を食べられることを、幸運に思いなさい」

 訓練をさぼったら、ご飯はもらえない決まりなんだろう。


 キリーナの優しさに感謝しながら、ご飯を食べた。




 午後は走ってこようかと思ったが、2人が心配だったので部屋に残ることにする。


 ググンは、「ごめんねハイヤーン」と謝るが、どこか苦しそうだ。


「気にしないで、早く元気になってね」


 ググンとセミラを励まし、1日中ぼーっと過ごした。




 その日の夜は、昨晩よりも冷え込んだらしい。

 秘術を使っていても、それを超えて寒さが伝わってきた。

 

 外から雪が吹き込んでくる。

 たまらず毛皮を抱き込んで身を縮めると、セミラが俺の毛皮の中に入り込んできた。

 入り込んで、何かごそごそしている。


 なんだろうと思っていると、すごい力で服を脱がされた。


 裸になって抱き着かれる。

 セミラの肌は、氷のように冷たかった。


 しばらくすると落ち着いたのか、呟くように「ごめん」と言われた。


 セミラに抱き着かれても悪い気はしないので「別にいいよ」と言うと、ググンも潜り込んできた。

 俺が服を脱いでいるのに気付くと、ググンも服を脱ぐ。


 ググンのナニがあたる。小さく硬くなっている。


 3人で抱き合っていると温かく、凍えることなく眠りについた。




====




 誰かが腕の中から出て行った。


 うっすら目を開けると、セミラが服を着て立っている。


 顔が赤い。まだ熱があるのか。


「早く起きなさい! 魔法の練習するわよ!」


「……うん」


「先に行くわよ!」


 背後で起き上がったググンと目を見合わせる。


 セミラが急に喋るようになった。どうしちゃったんだろう。




 授業中もセミラはやたらと元気で、キリーナから何があったか質問された。


 裸で抱き合って寝たらああなりました。とは言えず、

 ググンと一緒に「さぁ?」と言っておいた。……これは嘘じゃない。


 キリーナは訝しがっていたが、何も追及はしてこなかった。




 午後、広場に出ようとしたらキリーナに止められた。


「今日から、演習場で戦闘の訓練をします。

 3人とも魔法と気闘が使えるようになったからです。

 半年も経たずに組の全員が両方とも使えるようになったのは、あなたたちが初めてですよ」


 キリーナは自慢げに教えてくれた。


 3人で顔を合わせ「やったやった!」とはしゃいでいると、

 セミラの服から尻尾が出てきて、パサパサ揺れはじめた。


 セミラははにかむが、尻尾は隠さない。


 俺たちは喜んで演習場へ向かった。

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