魔法学園での生活が始まります 1
馬車は山道に入り、窓から身を乗り出してもボール村が見えなくなってしまった。ふぅ、と小さく息をもらし、私は馬車の椅子に座り直す。
出発前に村のみんなと話が出来た。総出の見送りに感謝で胸がいっぱいだ。ランにも声をかけたんだけど、いろんな思い出が頭をよぎって泣きそうになったからすぐに切り上げちゃった。その後お父さんお母さんと話したらもう我慢の限界で、目から雫がこぼれ落ちた。
村から王都への道のりは果てしない。まず山をふたつ越え、そこから数多の街を越える。今回は街に点在している『転移門』というものを使って時間短縮をするらしいけど、それがなかったら5日はかかっただろうな…。
ただ一口に転移門といっても種類や用途は様々らしく、馬車サイズのものを転移できる門はそうそうないんだって。そしてどの門がどの門に繋がっているかは決まっているらしい。だから、いくら時間短縮できても学園に着くまでに6時間はかかるとか言われた。改めて、自分が生きてきた世界がどれほど辺境だったのかを思い知らされる。
ようやく最初の街が見えてきた。ここから街→門→街→門…という移動を繰り返すことになる。
一度転移を行い、ついた街で昼食をいただいて移動を再開する。最後の転移が終わり、王都に着いた時にはすっかり夕暮れ時になっていた。
「うわぁすごい!!」
行き交う馬車や人々、所狭しと立ち並ぶお店。
そして、賑わいの向こうに見える王城。白を基調としたお城は、夕陽に照らされて茜色に染まっている。
王城の右隣には煉瓦色のこれまた立派な建物が。この馬車はどうやらその建物に向かっているらしい。と、いうことはあれが魔法学園…?
「到着です。長旅お疲れ様でした。」
見慣れない景色にワクワクしていたらいつの間にか馬車が止まり、御者さんに扉をノックされた。
扉を開けて馬車から降り、「ありがとうございました!」と伝える。目の前に広がるのは、煉瓦色の塀の中に溶け込むような真っ赤な門。でっかい…
呆気にとられていると、重苦しい門がギギィと開いた。そこには見覚えのある人影が。
「ようこそ、サントル魔法学園へ。君を歓迎するよ。」
「グリモワールさん!」
優しい笑顔の彼に駆け寄った。瞳と同じ紫の帽子とローブを身にまとい、前世でイメージしていた魔法使いそのものって感じの装いだ。リアル!!
「長旅ご苦労様、今から君の生活の場となる寮に案内するね。」
彼の後をついて行く。気づいたら馬車は姿を消していた。グリモワールさんに本当は学園の案内も一緒にしたいけど時間が遅くなるので明日の午後にでも〜と言われた。私もその方が有り難い。ただ学園自体には明日から通わなければいけないので、朝どこに向かえばいいのかだけ教えてもらった。有り難い。
食事をするカフェ、談話室などの共同スペースを一通り見た後、最後にこれから私が寝泊まりする寮の私の部屋に案内してもらった。
「うわぁ…」
パステルピンクの絨毯が敷き詰められた部屋には、テーブル、椅子、ドレッサーなどの白で統一された家具が立ち並ぶ。奥に見えるベッドにはふかふかの布団がセットされていて大変寝心地が良さそうだ。
そして広い。この部屋だけで私の家、すっぽり入っちゃうんじゃ…。
「明日から着てもらう制服はそこのクローゼットにかけてあるからね。それ以外にも必要なものは粗方揃えているから好きに使うといい。もし不都合が有ればなんでも言ってね。」
「不都合なんてとんでもない!かえってご迷惑だったんじゃないかと思うぐらいです…。」
「ちっとも迷惑じゃないよ、むしろ楽しんでいるくらいさ。…案内も済んだし私はそろそろ失礼するよ。ゆっくり休んで明日に備えてね。」
おやすみ、と言って彼は去っていった。おやすみにはまだ早い時間なんだけどな。
おもむろに部屋の散策を始める。クローゼット、でか。開けるとそこには制服の他にも部屋着や休日用の服まで揃っていた。引き出しには新品の下着まで入っいる。確かに手ぶらでいいよとは言われたけど、ここまで用意周到にされるのも恥ずかしいな…。
バスルームや洗面台、トイレまで完備されてる。確かにお貴族様が水回り共同なはずないもんね。全室これ完備って最早引くレベルだ。
部屋を一通り見てから私はベッドに飛び込んだ。やってみたかったんだーこういうの!!ふかふかで、お日様みたいな香りがとても心地よい。熟睡できそう。
…なんか眠くなってきたな。昨夜は緊張してほとんど眠れなかったし、今日は朝から初めての経験だらけでさすがに疲れが溜まってたのかも。…起きないと…晩御飯、まだだし、せめてシャワーを……
そのまま私は意識を手放してしまった。