転生したのは辺境の田舎娘でした 2
「なんで俺だって決めつけるんだよっ!?」
「うっさい、あんた以外に誰が食べるっていうのよ。てか口の横にクッキーのカスみたいなのついてるから。」
「うおっマジか。」
窓の外から顔を覗かせた後、クッキーのカスを指で拭いながら部屋に入ってきたこいつはランドル=トリベール、通称ラン。マヌーヴル伯母さんの息子で、私たちは従兄弟の関係にあたる。瞳の色は私と同じ瑠璃色だけど、彼は髪の色も瑠璃色をしている。ちなみに私の髪はセピア色だ。
ランのお父さんはこの村の領主なんだけど、ボール村は住民は少ないし立派なお屋敷があるわけでもない。そして母親同士が仲良し姉妹ということもあり、私とランは幼い頃から兄妹のように…姉弟…同い年だから双子かな?とにかく、私達はずっと一緒のいわゆる幼馴染だ。
今私は、ランの家にお邪魔しているしランも私が来ることを知っているので、状況から見てクッキーを食べた犯人はランしか考えられない。観念しろ。
「全くなんで勝手に食べるかな、伯母さんの新作クッキー楽しみにしてたのに。」
「腹へってたんだよケチくさいなぁ〜。」
そう言ったランの口元は綺麗になったけれど、靴とズボンの裾が土だらけで服も全体的に汚れていた。
「ちょ、きたな…あんた何してたの?」
ちょっと引き気味に尋ねると、ランはにっと笑って私に向かい何かを投げた。っあぶな〜ナイスキャッチだ、私。恐る恐るキャッチしたものを確認する。
「!!…これ、クロワの実!?」
「当たり。今日はそれを採りに行ってた。前に山奥にクロワの木があるのを発見して、今日やっと実がなってたんだ。」
「うそ〜、昔2人で見つけたクロワの木はいつの間にかなくなってたのに…この実めちゃくちゃ美味しいからほんとショックだったんだよね。また食べられる日が来るなんて!ありがとうラン愛してるよ〜。」
「誰がやるって言った?」
「は?いやいや今投げられた実をキャッチした時点で既に私のものでしょ。お願いされても返さないからね?」
「はいはい、もともとあげるつもりで採ってきたから別に返さなくていいよ。」
「わーいありがとう♪」
ルンルンでクロワの実にかぶりつく。濃厚な甘味なのに全然しつこくなくて、むしろ後味はスッキリ。こんなにいいもの食べられたんだからクッキーの件は許してあげよう。伯母さんにまた作ってもらうか。
もぐもぐしてる私を横目に、手を洗って飲み物を準備するラン。そういえば、ランの分の実は?
「ラン、自分の分の実は?先に食べちゃたの?」
「あー…帰りに転んで落として転がっていった…だから今日持って帰ってこれたのはその実だけ。」
「えっじゃあ自分で食べればよかったじゃん。」
「俺はまた採りに行くからいいんだよ。道まあまあきついけど。」
なにそれ、納得いかないんですけど。
「私も行く。」
「は?」
「私もクロワの木に行く!そんな気遣い無用だし、運動神経と体力ならランにだって負けないんだから!」
「でも」
「行く、決めた。案内してくれるまでひたすら言い続けてやるんだから!」
しっかり目を合わせ迫る私と後ずさるラン。ちょっとの沈黙。
大きなランのため息でそれは破られた。
「わかったよ。じゃあ明日な。」
よっしゃあ!!!!
「ありがとう!やっぱりラン愛してる〜♪」
「トゥシェ、前から言ってるけどそういう事軽々しく口にするんじゃない。」
「えー別にいいじゃん、兄弟愛的な感じで。」
「…はいはい。」
わざとらしく頬を膨らませてみた。オッケーしてもらえたから気分はいいんだけどね。
ランから離れてさっきまで座っていたソファに座り直した。腰の横に両手をつく。
その瞬間、頭の中に映像が流れこんできた。
これは、伯父さんと伯母さん…対面に座っているのは誰だろう?やけに親しげだなぁ。ミントグリーンの髪とアメジストの瞳がとても綺麗。
「…ねぇ、ラン。伯父さんか伯母さんの知り合いで、緑の髪で紫の目をした男の人っていてた?」
「…いや、俺には心当たりはないかな。何か視えたのか?」
「うん。伯父さんと伯母さんも視えたけど今より若かったし、結構昔の映像だったのかも。」
こんな風にいきなり何か視えるのは日常茶飯事だ。私もランも特に気にせず、ランが入れてくれたお茶を飲んだ。