酒場 年の瀬
慌ただしい年の瀬も押し迫った酒場
ママが本日の売り上げを数えている時
入り口から突然
男が刃物らしきものを持って
勢いよく入って来た
金を出せ
ママはにっこり笑って
いらっしゃいませ…
と心の中でつぶやき
まぁ お掛けなさい
と言って
カウンター前の椅子を
手でゆっくり進めた
ママはそのままコップと冷蔵庫から
瓶ビールを出し
シュボっと栓を開け
男に酒を注いだ
ママは微笑んで
男を見ている
男の顔、服装、ゴツゴツして
黒ずんだ手を見て
ママは 次第に泣き顔になっていった
涙をこらえて
ママは
さぁどうぞ一杯おやんなさい
と泣くのをこらえて
さやしく言った
こらえていても
ママの目からは自然に涙が溢れ
頬を濡らしていった
飲んで
ママはまた首を少し傾け
男に言った
少し時間が経ち
マスクの下の男の素顔は分からなかったが
怖くないのか
と男は低く言った
ごめんね わたしは怖いものがないの
でも、悲しい気持ちは
まだ残っているわ
飲んでください どうぞ
とママは泡の消えたコップのビールを
静かに勧めた
男の年齢も何もわからない
ママと男は
黙ってただ数分が過ぎた
ママは本当は男の手を
男の頭を
その手で温めたかったのだ
でもそれは出来ず
ただ優しく泣いていた
そこへ 三人の背の高い
マスクの男達が現れ
カウンターの向こうに
有無を言わさず銃弾を放った
最初の男の やめろ!
という言葉も銃の音にかき消された
ママは優しく穏やかな顔で床に倒れ
男も椅子の上でカウンターに
突っ伏した
全ては一瞬のうちに終わった
全ては終わった
ひとりの人生の終わりは
この世の終わりだった