こんな雫
指先が、水で濡れていた。
外では、雨足が強かったらしく、
ぼとぼとの傘を畳んだときに、
雫が手についたようだった。
私は、テーブルの下にあった、
ティッシュの箱を取り出し、
彼女の前に置いた。
彼女は、訪問表に名前を書こうと、
備え付けのボールペンを持ちかけたが、
すいませんと言い、箱から一枚、
抜き取った。
彼女は、それで、右手を拭いてから、
ボールペンを持ち、
濡れて、丸まったティッシュを
左手で握っては、名前を書いた。
銀行の営業担当である彼女は、
時々、仕事場に顔を出す。
聡明で、いつも元気で、明るい。
ほとんどの場合、何かしら、
提案をしてくるが、
今日は、元気がないようだった。
見ると、彼女の上着や、髪も、
濡れていた。
私が、すごい、降ってたんやねと言うと、
彼女は、はい、でも、大丈夫ですと言って、
丸まったティッシュを上着の
ポケットに入れた。
それから、彼女は、
取り出したハンカチで、
上着のあちこちを軽く叩き、最後に、
ショートカットの髪を押さえた。
雨降りに、訪ねてもらうのは、
誰であっても、申し訳ない気持ちになる。
こんな日は、外回りは大変だと思う。
昔の自分を、思い出したりもする。
雨降りには、荷物や書類が濡れて、
難儀をした。
彼女も、今日はそうなんだろう。
私は、彼女が、鞄から書類を取り出して、
テーブルに並べるのを見ていた。
ふと、寒いかと思った。
彼女の体感がわからなかったので、
エアコン、丁度いいですかと
尋ねたあと、
内線で、珈琲を頼んだ。
こんな日は、女性は、大変だと思った。