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瞳に映るAiの色  作者: 穂水美奈
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Episode 07:「Sweet Chocolate Garden」

 部活が長引いたため、下校時間が遅くなった隆太は、慌ただしくズックを履いていた。






 すると、友加里が背後から現れ、おもむろに…





 「はい!!これ…。家に帰るまで絶対開けるなよ!!」














 夕暮れの帰り道で、愛莉から一通の手紙を渡された隆太。 絶対に家に帰るまで開けるな!という忠告に従い、胸の鼓動を抑えながら自室へとたどり着き、恐る恐る手紙の封を切ってみた。








 「ら、、、ラブレターなのかな…、、、?? どうしよう…。。。 友加里に知れたら…、、、いや、涼子さんがいるのに…」








 そんな混乱が脳内で錯綜したが、封筒の中から出て来たのは、手書きのメッセージカード一枚のみであった。








 「えっ…?? これって…??」








 隆太は、戸惑いながらも、そのカードに書かれている内容に目を通した。








 メッセージカードには、次のような文章が記されていた。








 --- Dear 小野隆太様♪ この度は私達、Sweet Chocolate Gardenスウィートショコラガーデン♪の演奏会に、貴方様をお招きしたく思いまして、この招待状をお送りさせて頂きました。








 ご都合がよろしければ、今週土曜日、夕方17:00に、A市○×町にある、多機能ホール3階のお部屋へお越しくださいませ。








 私達の演奏は、まだまだ稚拙なものではございますが、心を込めて貴方様に、甘いチョコレートの香る庭のごとく、癒しと安らぎのひとときを過ごしていただきたく思います。








 なお、当日はラフな格好でお越しくださいませ。特別な気遣いなども一切必要ございませんのでご安心くださいませ。








 それでは、貴方様のお越しを心よりお待ち申し上げております♪ ---











 「これって…??何なんだ…?? スウィートショコラガーデンって、聞いた事もない…」








 …要するに、愛莉から受け取った手紙の中身は、ある音楽会への招待状だったわけだが、隆太にしてみれば、招待状にある「Sweet Chocolate Garden♪」など初見中の初見だし、そもそも、自分がこのような招待状を受け取るような覚えなど全くない。








 愛莉が手渡してきたことや、彼女があたかも「この手紙のことを口外するな」と言っているかのような態度を見せていたので、彼女に何らかの関係があるのだと推測はついたが、考えが巡ったのはそこまでだった。











 「このこと、、、友加里かあきらに話してみようかなぁ…? あぁ…でも、愛莉は、絶対見せるな!って感じだったから、話さない方がいいよな…。。。 でも、何だろうなぁ…?? 僕が行っても大丈夫なものなのかなぁ…??」











 …結局、そんな迷いを抱えたまま、土曜日を迎えてしまった。











 この日は部活がない。 家族には一応、友達に音楽会に誘われているということを伝えておき、指定の場所へ向かうべく、駅から電車に乗った。








 「一人きりの電車移動か…。」 …隆太は、つい、夏休みに友加里たちと過ごした時間のことを思い出して、物思いに耽っていたが、車内をよく見ると、何と友加里とあきらの姿もあった。








 「ああ、、、あれぇ!?友加里ぃ!? 何でこの電車に!?」





 「そ、、、そっちこそ、、、何でよ!?隆太ぁ!?」





 「ええっ…!? 隆太!? お前も乗ってたなんて気が付かなかったよ…。 でも、何でだ…??」








 …話を聞くと、友加里もあきらも、愛莉から封筒を手渡され、彼らも隆太と同じく、他人にはその中身については内密にするよう忠告してあったようだ。








 もちろん、2人も同じく、まだはっきりとした正体のわからない「Sweet Chocolate Garden♪」の音楽会へ向かうところだ。








 当然、車内ではこの話題は勿論、この状況で、愛莉がいないことにも大きな疑問が湧き上がった。








 友加里「ねぇ、隆太? これって、変なことに誘われてるんじゃないよねぇ…?」





 隆太「そ…、、、それは、、、僕だってわかんないよ。。。 でも、愛莉がその招待状をくれたんだろ? 愛莉は、そんなことするはずないって思うけど…」








 …妙な緊張が3人を包み込み、身体は招待状の指示した場所へと向かっていたが、気持ちは激しい緊張に束縛されているようだった。











 やがて、その場所へとたどり着いた。 会議室などの大小の部屋が集まった、あまり大きくはないビルだった。その3階に上がると、結婚式の披露宴の時に見るような幕が下げられており、そこには…








 「スウィートショコラガーデン♪ 秋の音楽会 ご一同様」 …とあった。








 それを見るが早いか、控室から愛莉が飛び出してきた。








 「ああっ!!みんなぁ!!来てくれたんだね!!嬉しいっ!!」








 友加里は、釈然としない現状について説明を求めた。 「ちょっと…!?愛莉!? これって、一体何なの!?なんのつもりなのよぉ…!?」








 愛莉は、パーティードレスのような衣装を身に纏いながら、3人にそれを話し始めた。








 「うん…、実はあたし、、、スウィートショコラガーデン♪っていう、アマチュアバンドのメンバーやってたんだよ…。 でもあたしは、バンドのメンバーの中でも最年少だし、演奏もまだまだ修行中の身なんだけど、前回あたし達で練習した時、リーダーの由真さんが、ぜひ、あたしのお友達を招待してねって、言ってくれたんだよ。」








 隆太「そうだったの…。 でも愛莉ぃ? 何で、みんなには内緒にしろって言ってあったの? 僕達の仲でも、話しちゃいけなかったの??」








 「う、、、うん…。だって、、、あたしがバンドやってるなんてこと、クラスの他の人に知られたくなかったんだもん。。。 それに、スイチョコ(Sweet Chocolate Garden♪の略称)のみんなは、みんな女性だし、年齢も、最年長の由真さんが24歳だったり、ベースの麻衣子さんが19歳だったり…。」








 「…それに、ウチらのバンドは、決して上手い人が集まっているわけじゃないんでね…♪」








 …話に割って入った女性は、誰であろう、スイチョコのリーダー(まとめ役)を担っている女性、小繋由真こつなぎ・ゆまさんその人だった。








 「ああ、みんな、来てくれてどうもありがとうね♪ ウチらは基本、音楽バンドっていうよりは、単に、楽器とか演奏が大好きな人が集まったってだけだから、演奏する音楽も、ベタなものばっかりだし、みんなそれぞれ、仕事あったり学校あったりで、なかなか集まること自体難しいんだよね~。 だから、まだ演奏会は、こっそりと、知っている人だけに披露しましょうってことにしてあるんだよ。各々の演奏スキルも、ぶっちゃけバラバラだし…ね。」








 あきら「そうなんですか~。 でも、どうして僕達をご招待してくれたんですか?」








 由真「え? そりゃもちろん、愛莉ちゃんの親友だからだよ。 愛莉ちゃんだって、みんなに演奏を披露したいって、前々から言ってたもんね。」








 愛莉は顔を赤らめて… 「ちょっwww 由真さん…、、、そんなこと言わないでくださいよぉ~」








 由真「まぁ、ウチらは今でこそ素人の集まりなんだけど、将来的には最前線で活躍するような、スケールの大きな夢を持っているんだよ!! 今の世の中、とかくバンドと言ったら男性中心のメンバーなことが多いでしょう? でもウチらはあえて、女子だけで結成したんだよ♪ 女子だってその気になれば、男子にひけを取らないガチの演奏ができるんだってこと、世間に証明してみたいでしょ?」











 友加里は目を輝かせて…








 「すごい!!すごいですね!! 女子力ってやつですか!? わ、、、私も、作曲家志願でして、自分でも、ピアノくらいは演奏しますけど、、、うわぁ…、、、本物のバンドだぁ…!!!!」








 由真「まぁまぁ、もうすぐチューニング完了するから、中で座って待っててよ。 テーブルにある飲み物は好きなように取ってオッケーだからね。 ま、今日はちょっとした”音楽の秋”を楽しんでいってよ♪」








 3人「はい(*^▽^*)!!」











 …やがて、薄暗い部屋の中に、ベースやドラムの音が響き渡った。 かと思いきや、優しい雰囲気のバイオリンやピアノの音色が辺りを包み、MCを務める由真のナレーションが、室内にこだました。








 「みなさん!本日は私共、スウィートショコラガーデン♪の音楽演奏会にお越しいただきまして、誠にありがとうございます♪ スウィートショコラガーデン♪は、その名の通り、音楽が甘い香りのチョコレートのように、自分の家の庭のような、身近な場所に存在して、いつでもみなさんと親しく、味のある関係でありますようにという意味を込めて命名させて頂いたものです。 仕事や勉強、恋愛に悩んだ時、どんな場面でも、音楽の与える力は大きいものです。 私達はまだまだ、発展途上の人間ではありますが、みなさんの心に、素晴らしいメロディーの記憶が残りますよう、心を込めて演奏させて頂きます!それでは、最初の曲、行ってみよう~♪」








 …流れたのは、とある有名なアニメの主題歌だった。 確かに演奏のレベル自体は、どこかぎこちなく、時折、リズムをはずしてしまうような場面さえあったが、それでも何か、暖かく、楽し気なムードを味わていた隆太たちであった。








 ちなみに愛莉は、ギターとキーボードを担当しているらしい。 今日は、演奏する曲に合わせて、持っている楽器を変えて、彼女なりの心を音に込めて、隆太たち、そして、スイチョコのメンバーたちに、何かを訴えているようだった。




 パチパチパチ… 









 観客は3人しかいないので、演奏終了時の拍手も、可愛げな音が響くのみであったが、バンドの面々は、満足そうな顔をしてみんなを見つめていた。











 その後も、有名なクラシックの曲や、学校で習うような曲、メジャーなアニメの主題歌や、ゲームミュージックなどが、彼女らの個性的な演奏で再現されていった。








 隆太たちは、バンドの生演奏などほぼ初体験だ。 上手、下手の概念など忘れ、文字通り、甘いチョコレートの香りに酔い痴れるかのように、音楽の美しさに包まれていた。








 曲の合間には、バンドのメンバーの自己紹介が入った。 これも将来、メジャーバンドとして活躍する時のための練習である。 バンドのメンバーは現在5人だが、愛莉は最年少、且つ、一番新しいメンバーゆえに、先輩方の勢いに押されがちであったが、それでも、由真がおどおどする彼女の肩をたたき、勇気づけた上で、マイクを渡した。








 「みっ、、、みっ、、、みなっさまっ…!!ははははじめまして・・・・・・ すいすい…スウィートショコラガーデン♪の、、、ギターと・・・・・・・・・・・・・・・キーボードを兼務しておりますます…あいりぃこと、、、おおおおお織畑愛莉と申しますます…・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」








 由真が小声で「愛莉!リラックスしていつも通りに♪ お客さんはあなたのお友達だけなんだよ。」








 愛莉はハンカチで額の汗を拭い、呼吸を整え直して、再びマイクを使って話を続けた。








 「えーと…、、、実は、このバンドは、発起人の由真さんが、ネットを通じてメンバーを募って集まった者同士なのです。 最初は単純に、音楽のことを語り合うだけのメンバーでしたが、どうせなら、本格的なバンドとして、活躍の場を広げていこうっていう話になりまして、素人ながらも一生懸命、練習に励んでいました。 私自身は、中学では水泳部に入っていまして、将来はオリンピック選手になりたいという夢を持っています。 もちろん、バンドのメジャーデビューも、水泳での夢も簡単に叶うものではないと承知していますが、私は、ひとつでも多くの夢を持って、いつでも自分が夢中になれるものを大切にしていたいと思い、バンドの活動共々、頑張っています!!今日は、私にとって一番大事な友達に、私の心を音楽で伝えてみたいと思いまして、みなさんをお招きいたしました!!下手な演奏でごめんなさい!! …でも私、とっても嬉しかったです!! 初めて自分の演奏を、みんなに聴いてもらえて!!(*^-^*)!!」








 「…えっと…ぉ、、、…こ、こんな私ですが、これからも、スウィートショコラガーデン♪共々、よろしくお願いします!! 勉強に音楽に、水泳に恋愛に、あいりぃ、頑張っちゃいまーすwww!!」











 隆太たち3人と、バンドメンバーからは拍手喝采。 ドラムの激しい祝福の音色と共に、会場には青春の香りがいっぱいに漂った。








 隆太、友加里、あきら達は、普段見ている愛莉が、全くの別人のように見えてしまい、当惑した様子もあったが、愛莉の、自分の夢に対する決意の表明は本物で、彼女を見る目が、何か変わって来そうな予感を隠し切れなかった。











 …そして演奏会はお開きとなった。 愛莉はバンドのメンバーと後片付けをして、彼らに送られて帰宅するので、帰路もまた、隆太、友加里、あきらの3名で電車に乗ることになった。








 土曜日の終電なので車内はガラ空き。 隆太たちは演奏会(ライブ?)の余韻を語り合いながら、帰路の時間が過ぎるのを惜しむかのようにおしゃべりに没頭していた。








 「あきら…? 愛莉って、あんな一面あったんだな…」








 「ああ、隆太。俺も、めっちゃ驚いたよ。なぁ、友加里もそうだろ??」








 「…え、、、? うん…」








 不思議なことに、友加里だけは時間が経つに連れて、声をかけても反応が小さくなっていくのであった。 何かを考え込んでいる様子だったが、隆太とあきらは敢えて、それを問うことはなかった。














 休みが明けて、平日の月曜日。 今日から2週間ほどは、秋の学習発表会に向けての合唱の練習などが入るので、色々と忙しい毎日になりそうだった。








 クラスの合唱で歌う曲など、正直なところ「歌わされている」ような印象さえあるので、隆太や友加里のみならず、乗り気な生徒はほとんどいなかったのだが、これも勉強の一環。





 しかし、人前で声を張り上げて歌うなど、思春期に入って間もない彼ら、彼女らには大いに抵抗があるものだ。先生は「もっと声を出せ!!」と怒号を飛ばすが、そう簡単に声など出ない。 いや、出そうと思えば出るのだが、今度はクラスの中での世間体が悪くなる。 「あいつだけイイカッコしやがって…」と、望まない後ろ指をさされるのがわかっていたから、クラス全員の調和がとれるまでは、ひたすら怒られ続ける合唱の練習となっていた。











 そんなある日のこと…。








 友加里が、水泳部の部室の片隅でうずくまっていた。








 それを見た隆太が、声をかけた。 「友加里!? ど、どうしたんだ??」








 「隆太ぁ…、、、合唱の練習、つらくね…??」








 「ああ。声出せとか音違ってるとか、散々言われるからなー」








 「それもあるけど、ウチはそんなことに悩んでんじゃないんだよ…」








 「えっ…?」














 友加里は、隆太に心の内を訥々と語り始めた。








 「ねぇ、隆太ぁ。 この前の、愛莉のバンド演奏、かっこよかったよね!! …で、それで思ったんだけど、ウチ、作曲家志願じゃん…。 作曲家って、譜面を作る仕事だってこと、隆太もわかるよね。 でも、その作った歌って、電車で言えばレールだし、演奏したり歌ったりしてるのは、電車そのもので、結局は電車、、、つまり奏者や歌い手は、定められた譜面の通りにしか動けないってわけだよね…」








 「んあっ…!?おい、、、友加里!! 大丈夫!? 何かあったの!?」








 「ううん…。 別に。 ただ、ここ何日かの、歌わされる合唱といい、ウチが習い事でやってるピアノのレッスンといい、何だか、自分の目指していることと真逆のことやらされてるように感じちゃって、すっげぇ、残念に思ってるんだよなぁ…」











 …すると、その会話を聞いていた愛莉が横槍を入れるかのように話に割り入った。











 「ちょっと友加里!! 黙って聞いてりゃ何よアンタ!? 何だか地味にあたし達みたいな演奏家のことバカにしてない…!? ちょっと聞き捨てならないんだけどぉ…!?」








 「何よ愛莉…。うっさいなぁ。 ウチは、敷かれたレールの上しか走れない電車じゃないんだし、そのレールだって、ありきたりに敷くだけの仕事するようになるなんて御免だわよ…」








 「友加里っ!! ちょっとなにが言いたいのよ!! この前の演奏聴いてた時は絶賛してたくせに、いきなり手のひら返してあたし達奏者を蔑視とか冗談やめろよ!!ww」








 「ちっ…違うって…!! 別に、愛莉の事そんなふうに言ってるわけじゃねぇじゃん!!」








 「言ってるようなものじゃん!! 何よ何よ何よ!!!! 歌わされるとか演奏させられるとか、それをまるで可哀想なこと強いられてるみたいな言い方って何なのよ!!!!同じ音楽の世界で活躍しようと志す者同士なのに、作曲家が演奏家をそんな差別すんのかよ!?!?」








 …おもむろに友加里は立ち上がり…、、、








 「だったら愛莉!? 合唱で声なんて出せる!? 所詮、自分一人が出したところで結局先生に怒鳴られるんだよ? みんなでライブハウスみたいな大音量の合唱なんて、できるわけなんてないんだし、ウチだって、最近ピアノのレッスンしてても、同じことの繰り返しばっかりで、ホントにバカみたいに思えてしょうがないんだもん!!」











 隆太は、流石にまずい雰囲気だと察知し、二人を止めに入った…。











 「二人ともやめろって!! 合唱が上手くできないでイラついてるのはみんな一緒だって!! 友加里も落ち着けって!!」











 …ドスッ!!!! (隆太の胸を手のひらで突いた友加里。隆太は壁に叩きつけられた。)











 友加里は泣きながら…








 「違う…、、、違う、、、違うんだよ…、、、グスン、、、グスン。。。 ウチ、作曲家になりたいって言いながら、レールの上の電車になっていたのは自分だったんだよ…。」








 「うぇぇっ…、、、ゴホッゴホッ…!! ゆ、友加里…??」











 「愛莉。 ウチ、愛莉の演奏している姿見て、本気で感動したんだよ!! これは本当だよ!! …だからこそ、今自分がなにもできないでいることに、不甲斐なさ感じてたんだよ…。 作曲家になりたいって言ってるくせに、曲なんて一つも作ったことないし、精々やったことと言えば、ボーカロイドのソフトでシンガーソングライターっぽく歌を打ち込んだだけ。。。DTMも作曲家の仕事だとは思うけど、いつまでたっても命令された通りの練習しかできないし、それさえも最近、上達してない気がするんだよ…。 ウチ、こんな自分がめっちゃ…、めっちゃ嫌になってたんだよぉぉ・・・・・・・・・・・・」











 愛莉は、思わぬ友加里の心情の吐露に、激しく戸惑いを見せた。








 「ね、ねぇ友加里? 友加里は、確かピアノを、幼稚園の頃からやってたって言うよね。あたしだって、ピアノだけじゃなく、色んな楽器を片っ端からやらされてたよ。それも、生まれて間もなくの頃からさぁ…」








 「ええ…?それ、マジ??」








 「うん。 でも、この前の演奏で見せた通り、所々音外したり、ミスったりしてたじゃん。。。 もちろん、友加里が音楽に対して情熱ハンパないことわかってたよ。。。 だから、下手な演奏したら友加里だけじゃなく、隆太やあきらにも嫌われちゃうんじゃないかって、、、それが、、、めっちゃめちゃ怖くて…、だから、本番の時、カチカチになっちゃって、由真さんにサポートしてもらっちゃったんだよ…」








 「…そう、、、だったの…??」








 「友加里ぃ…、そりゃ、あたしだって弱音ならいくらでも吐きたいよ。。。 確かに、バンドのみんなに色々と支えられてきたから、今でも演奏続けられてるんだろうけど…。 でも何だかんだ言ったって、聴いてくれる友加里たちがいなきゃ、もうバンドから降りてたかもしれないって!! あたしなんてまだまだなんだし、これからもみんなで一緒に練習して、自信がついたら発表していこうねって、あの日の夜も話し合ってたんだよ。」











 「うぅぅぅっ…。。。 だって、ウチは、、、ひとりで悩み抱えてるだけだし…。 作曲家になろうとしても、ぶっちゃけ、いま、何していればいいのかわかんないし…うぅぅぅぅっ…グスッ、、、ぐすっ…」











 隆太が、そっと友加里の手を取って、優しく話しかけた。








 「友加里。 友加里は絶対、ひとりなんかじゃないって!! 僕、友加里が本当に作曲家になれるように、応援するよ!! もちろん、中学を卒業してからも!! だから僕、同窓会で友加里が自分で作った曲のCDを持ってくること、密かに期待してるんだよ!!」








 「そうだよ。 あたしだって、本当は友加里に、スイチョコに入ってもらいたいくらいだわよ!! 友加里も長いことピアノ習ってきてるから、実力は相当あるはずだよ!! だったら、スイチョコ的にはすっごい戦力になるし、作曲家としての活動も、メンバーでサポートしてあげられると思うよ!! 後で、スイチョコの由真さんのメアド教えてあげるし、あたしからも話しておいてあげるから、悩んでいたら話してごらんよ。 スイチョコのみんなは、技術の面でも、心の面でも、お互いに支えあってこそのバンドなんだから…!!」














 「ううっ…、、、愛莉ぃ、、、うわぁぁぁぁーーーーーん・・・・・・・・」














 …気が付けば、外はもう真っ暗になっていた。 友加里は、先ほど勢いに任せて胸を突いてしまった隆太に謝りつつ、帰路を共にしていた。








 「隆太…。さっきごめん…。。。 ウチ、、、どうかしてたよね…」








 「いいさ…。 もう痛くないし…。 ねぇ友加里、それよりも、もし、作曲家になるための進路とかで悩んでるんだったら、水泳部の顧問で、音楽担当の矢野先生に相談してみるって手もアリだと思うよ。 先生は進路相談も担当しているから、思い切って聞いてみれば、何か友加里のためになるヒントがもらえるかも…」








 「うん…。 ありがと。。。」








 友加里は、隆太の語り掛けに、小声で返事をして、小さく頷いた。














 ともあれ、学習発表会までの間は、たとえ形だけであろうと、合唱の練習に明け暮れなければならないのは現実だった。 そのため、友加里は学習発表会が終わり、学校が一段落したら、音楽科担当の矢野先生に、この相談を持ち掛けることにしていた。








 学習発表会当日。 田舎の中学校ゆえに、多くの町民が観客として体育館に集まり、生徒たちの合唱を鑑賞していった。 隆太たちも、紛いなりにも練習した成果は出せたようで、何とか及第点を得て、クラスメイトは安堵の胸を撫で下ろした。








 後は、それぞれの部活での活動紹介や、美術の時間に描いた絵画の展示などが中心。 流石にこれは、高校に入って「文化祭」と呼ばれるようにならないと、お祭りムードというわけにはいかないだろうか…?








 隆太たち水泳部は、町民に水泳部のデモンストレーションを披露した。 泳ぎの上手い者同士でリレーを演じるのが役目だったが、この時隆太は友加里にタイムで敗れ、些か悔しい思いを残して学習発表会の閉幕を迎えたのだった…。














 そして、秋の風も冬の寒さに変わろうとしていた頃、学校はいつも通りの雰囲気に戻っていた。








 そんなある日、友加里は胸に決意を込め、進路指導室で待ち合わせをしている矢野先生のもとへと向かった。無論、自身が作曲家になるためのいろはを、しっかりと教わるためだ。











 (ドアをノックする音)コン…、コン…。 「あ、、、1年の浅倉友加里です。失礼します。」











 「どうぞ。お入り。」











 …水泳部の顧問でもあり、長年、この学校で音楽の教鞭をとっている30代後半の男性教師、矢野正志先生と対面した友加里。 彼女はここで、胸中の悩みからこれからについての一切を事細かに打ち明けた。














 「…先生? 私は、どうすれば作曲家になれるでしょうか?」











 「…そうだな。 まずは、浅倉? お前が思っている、作曲家として必要なことを述べてみろ。」











 「はい。。。 楽譜を読めるようになって、楽器をいろいろ弾けるようになって、DTMとかでFM音源とかPCM音源とかを使いこなせるようになって…、ジャンルを問わず曲を作れることです!!」











 


 …そこまで聞いた矢野先生は、眉毛を八の字に変えてがっくりとした表情を見せた。














 「浅倉…。 もしお前が、いま述べたことだけでいいと思っているのだとしたら、音楽系の高校の進学はあきらめろ。 先生も、断固としてその進路を勧めるわけにはいかない。」








 「ええっ…!? ど、、、どうして…!? どうしてですか…!?!?」










-つづく-







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