Episode 04 : Reason "理由"
…静寂の漂う夕暮れの公園。 ベンチには、隆太と友加里のデコボコカップル(笑)が座っていた。
隆太は、友加里との仲にある種の「決別」を示そうと思い、昨日、市民プールで出会った年上の女性を好きになったので、恋愛関係を終わりにしようと切り出したが、友加里にはそれを鼻で笑われてしまった…。
…だが、ツーショットの写メを見せると、にわかに友加里の表情が曇り、顔つきもさながら稲妻のように豹変したのも事実だった。
「隆太ぁ!?!? それって本気で言ってるの!? ふざけてるとウチ、マジで怒るんだけど…!!??」
「ほ、、、本気に決まってるじゃないか!! 涼子さんって、すっごくいい人だし、、、僕にも好意的だし、、、」
「はぁ~ん。。。 でも、その涼子さんって人、べつに隆太と付き合いますって言ったわけじゃないんでしょ? 勝手な思い込みすんなよ!!」
「だっ、、、だから…、、、今は僕の片思いだよ…。 そのうち、涼子さんには、本気で付き合ってほしいって話すから…」
…友加里は呆れ顔で隆太の方を向いた。
「ばっかじゃない!!www 普通に考えて、22歳の大人の女が、12歳の男子中学生を好きです!!なんて言うわけないじゃん!! もし言ったとしても、社交辞令っていうか、営業スマイルっていうか、話を合わせてるだけだって気が付かないのぉ??」
「ち、、、違うって…!! 涼子さんはそんな人じゃ…」
「あーーーそーーー。。。 涼子さんって人の立場も考えない勝手な恋愛してんだーーー。 涼子さんに彼氏いるかもしれないし、ガチ恋は嫌だって言われるかもしれないじゃん。 彼氏いなくたって、12歳の男子と付き合ってる22歳の女なんて、常識で考えてどうなのよ…」
「そっ…、それはそう、、、だけど…」
「それに、仮に好き同士だったとしても、隆太が結婚できる歳になるまで、涼子さんを待たせるしかないじゃん。ウチ達だったら、恋愛しながら学校通ったり、部活したりできるけど、10コも上の女性で、社会人なんじゃあ、すぐに別なカレシできたとか言って、隆太捨てられるからwww」
「そ…っ、、、そんな言い方ないだろ!!!! 涼子さんはいい人なんだから、年の差なんて…!!」
「隆太ぁ?その年の差こそが一番の問題じゃんかぁ!! 姉弟でもない12歳と22歳が、恋愛してま~すって言って手繋いだり、デートしたりしてるのって、他から見ればおかしいの一言だよ??」
「な…なんだよなんだよ!! 友加里こそ勝手に僕のことをカレシにしちゃってて、あまつさえ、その恋愛は3年で終わりにしようとか勝手なルールまで作って!! 僕だって、大好きなカノジョ選ぶ権利ぐらいはあるさ!!」
”バチィーーーーーン!!!!”
…夕闇の静けさ漂う公園に、隆太の頬を叩く友加里の平手打ちの音が響いた…。
「はぁっ…、、、はぁっ…、、、りゅ、、、隆太っ…、、、 あんた、頭冷やせってんだよ!! 自分がどんだけ身分違いな恋愛してるかわかってんの??」
「・・・・・・・・・。。。 承知だいっ!!」
「…ってか隆太? そんなことでウチがフラれたと思うとでも??」
…友加里は、思い切って心の中から渾身の優しさを搾り出し、彼にこう言った。
「ねぇ隆太ぁ…、3年限定の恋愛のことは、ウチも、ちょっと考えがおかしかったって思ってるよ。だから謝るよ。ね。。。 隆太? そんな変な方向に走ろうとしないで、もう一度、私と好き同士でやっていこうよ…」
友加里にとっては、普段はまず出さない声色と笑みだった。
だが隆太は、それに対して特に返事をせず、徐にベンチを立ち上がり、友加里に背を向けて…
「ごめんっ!!友加里!! どっちにしてもまだ何にも言えないよ!!さよなら…!!」
「ああっ!!隆太待ちなさいよぉ!!!!」
…隆太は、友加里のもとを駆け足で立ち去り、そのまま家へ帰ってしまった。
「な、、、なんだよアイツぅ…。。。 ふざけまくってぇ…。。。 グスッ…」
隆太に対する怒りと不安が同時に込み上げ、友加里も家に帰ってからも心の動揺がおさまらなかった。
それから数日…
隆太と友加里、そして愛莉は、勉強と部活に精を出していた。 もっとも、それぞれの仲には大きな亀裂が生じているのは明確。 友加里と愛莉は、お互いに三十八度線を引いて歩み寄ろうとしないし、隆太と友加里は、たまに雑談を交わす程度。 隆太と愛莉は、これまた愛莉が彼に片思いしているために、妙に距離を縮めようとするので、教室も水泳部の部室やプールも、異様に張り詰めた空気が漂っていた。
ある日曜日の午後。
隆太は、涼子とメールで会う約束をしていた。 そう。 初めて二人の出会った、市民プールで。
「こっ…、、、こんにちは!!涼子さん!!」
「あ♪ 隆太くん♪ こんにちは~♪」
…隆太と涼子、年齢だけで言えば10歳も離れているはずだが、妙に両者とも好意的に接している。
この日は、涼子が仕事が休みなので、一緒に泳ぎたいというメールを受けてのデート(?)だった。涼子は単に、運動のために水泳を始めたいということだったので、隆太はさしずめ、泳ぎ仲間といったところだった。
「はい♪ 隆太くん♪ 休憩しようよ」
涼子から渡されたのは、自動販売機から買ってきたスポーツドリンクであった。
プールサイドのベンチで一休みしている時、隆太と涼子は様々な話に花を咲かせたが、その中で隆太は、思い切って胸の内を打ち明けた。
「もし、恋愛的なお付き合いはダメと言われても、まだ出会ってから日が浅いので、諦めもつくだろう…」
…彼の心には、少し打算的な意図もあったようだが…。
「あ、、、あの、、、涼子さん…!!」
「ん? なぁに??」
「あの、、、りょ…涼子さんには、、、そのぉ…、、、彼氏とかって勿論いますよね…。 あは、当たった!!大正解~♪」
…来たるべき答えに備えて、カラ元気で気を紛らわすしかない隆太だった。
だが涼子は…
「ブッブーーーww はずれ~~~。 ウフっ…、あいにくだけど、アタシに彼氏なんていたこともないし、今後、できるとも思えないんだよねぇ…。はぁ~あ…」
「んあああっ…!!(ちょっと予想外!!) じゃ、、、じゃあ、もし、、、もしも僕が、、、涼子さんのこと、、、す、、、好きになってもいいですか!?って聞いたとしたら…??」
…それに対して、涼子はさほど表情を変えることなく…
「えぇ…? そりゃあ嬉しいわよ♪ 確かに、恋愛してるカップルってわけにはいかないでしょうけど、私の事を好きだって思ってくれる人がいるってことは、すっごく嬉しいよ~♪」
「わぁ…(*^▽^*)」
隆太の胸は、激しく鼓動した。
「ああ、、、あの、、、涼子さん? イヤじゃありませんか? ぼ、僕みたいな年下が、大人な涼子さんのことを好きだって言うなんて・・・?」
「あらぁ、自分から好きだって言っておいて何よ? むしろこっちだって、キミみたいな若い男子が、うんと年上の女な私を好きだなんて、申し訳ないくらいだわ♪」
「は、はぁ…」
隆太は、どうしていいかわからない気持ちになってしまったが、照れ隠しに飲んでいたドリンクの残りを一気飲みして…
「あ…、そ、、、そうだ!!涼子さん!! そろそろ泳ぎの続き始めませんか? プールの利用時間過ぎちゃいますよ…」
「ああ、そうだね。 泳ごうか♪」
…その後二人は、再びプールで一緒に泳いだりウォーキングしたりと、楽しい時間を過ごした。 …もっとも、少し浮かれすぎてしまったか、プールの利用時間を超過してしまい、追加料金を支払う羽目になってしまったのだが…。
帰ろうとすると、その頃はもう夕暮れ時で辺りは暗くなっていた。 隆太は家に帰ろうとすると、涼子は…
「ねぇ、家まで送ってあげるよ♪ アタシ、車で来てるし、隆太くんだって、電車賃とか浮くでしょ。」
「えっ…!!そ、、、それはそうですが、涼子さんの家とは逆方向じゃないですか??」
「構わないよ♪ それに、できればもう少し隆太くんと、お話したいしね。」
…涼子の車に乗った隆太。 確かにカノジョ(仮)が大人だからこそできる持て成しだろう。 迷惑にも思ったが、今日は涼子の厚意に甘えることにした。
家路を目指すうちに、辺りはすっかり暗くなってしまった。 隆太の家は外ヶ浜町方面なので、涼子の家とは正反対な方向なのだが、そのあたりには特に躊躇いはないようだった。
カーナビのディスプレイの照明くらいしか光源のない車内で、二人は色々とお互いについて話をした。
「そっか…、隆太くんって、学校でモテるんだねぇ~」
「あ、いや…、そんなんじゃないです…。 ほとんど、からかわれてるみたいなものです。。。」
「でも、仲の良い異性がいるって、あたしの時代じゃ考えられなかったよ。 変な話、男子と女子って、ケンカするためにクラスにいるのか?って思ってたくらいで…」
「そんな…ww あ、でも、僕達の学校って、生徒がすごく少ないんですよ。 なので、小学校の時代から付き合いのある人も大勢、同じ中学校の同じクラスに進学してて、自然に仲良くなれていますね。」
「ふぅ~ん。いいねぇ♪」
…車は淡々と道路を走り続けたが、どうしても隆太は話下手なのか、会話が途切れるとうまく繕えない。
何か話題はないか…、、、色々と模索して、こんなことを涼子に質問してみた。
「あのぉ…、涼子さん? どうして、僕みたいな男子のこと、こうして優しくしてくれるんですか? てっきり僕、涼子さんにはすぐ、そっぽ向かれちゃうって思っていたのですけど…」
…その言葉に対し、涼子は一瞬、グッと息をのむような仕草を見せた。
「うん…、確かにね。 でも、隆太くんだったから、例外だったかな…」
「えっ…!? ど、、、どうして、、、ですか??」
…涼子は、少しため息をついて、続けざまに隆太に話した。
「実はね、アタシ、お兄ちゃんと弟いてね…。 でも、弟は、、、丁度、今の隆太くんくらいの頃、重い病気で、亡くなっちゃったんだよ…。」
「ええっ…!! …そ、、、そんなことがあったんですか!?!?」
「うん。。。 アタシ、弟がいた頃は、ケンカばっかりしてて、何度弟のことを、ウザイとか死ねとか言っちゃったかわかんない…。 でも、それなりに仲は良かったけどね。 もう助からない病気だって知らされた時は、姉として何にもしてあげられないまま、天国に旅立つのを見届けるだけだったわ…」
「……。。。」(隆太は、言葉に詰まっている。)
「だから、プールで隆太くんを見た時は、最初すっごい驚いたよ。 元気に泳いで、走り回って…、まるで私の弟が生き返ったかのような気持ちになっちゃたわ。 それで、ぜひ声をかけてみたくて、観覧席でキミに声をかけるチャンスを窺ってたの。」
「…そ、、、それは…。。。 弟さん、気の毒でしたね。。。くすん… けど、不思議なことも、あるものですね。 僕が、まさか涼子さんの弟さんにそっくりだったなんて…」
「そっくりなだけじゃなくて、性格も元気で優しくて、どこか弱気なところもあって…、なんか、母性本能をくすぐられるって言えばいいのかなぁ? 何だか、他人のような気がしなくてね…。」
「それは、、、ぼ、、、僕も、嬉しいです(*^^*)!!」
「ありがとう♪ あたし、もし隆太くんが今のまま大人になってくれたら、迷わずキミに、プロポーズしちゃうと思うなぁ~♪ だって、私に色々と合わせてくれる性格だし、私の弟のこと、ずっと忘れずに思っていられる相手だと思うし…」
「んあっ…! りょ…、、、涼子さん!! あの…、、、えっと…」
…隆太は、涼子の胸の内を知り、さらに、暗にではあるが、付き合ってもOK的なセリフを言われ、ハートのドキドキが止まらなかった。
「あ、でもね、アタシ、ずっと独身でもいいかなぁ~って思ってるの。 親は一応、早めにいい相手見つけろよってたまに言うけど、うちは旅館やってるんで、朝は早いし、カレンダー通りに休めないし、仕事もけっこう神経遣うし…。 もし旦那様になってくれる相手が現れても、その辺を重々納得してもらえないとダメだからねぇ…」
隆太は、ここまでの会話を聞いてきて、大人になると味わう苦労の片鱗を知ったようだった。
…しかし隆太の頭の中は、涼子と相思相愛(だと思っている)であることでいっぱいなのだ。
「ぼ、、、僕で良ければ、喜んでお婿に行きます!! 高校は商業系の学校に進んで、宿のお仕事に必要な技術とかを身につけます!!」
「…ちょwww そこまでキミを縛れないって…。 それに、学校には恋愛してる女の子もいるんでしょう? 私のためにそれを犠牲にしちゃ悪いわよ…。 それに隆太くんだって、これから中学校はもちろん、高校とか、大学とか進んだら、他にも好きになる相手が出て来るかもよ? そうなったら、私みたいな年上なんかにかまってられなくなっちゃうんじゃない??」
「(涼子さん、友加里と同じようなこと言うなぁ…) …だ、、、大丈夫です!! 僕、絶対に、涼子さんに認められるような男子になってみせますから、、、どうか、それまで、、、待っていてください!!!!」
…涼子は、うっすらと笑みを浮かべて、一瞬、助手席の隆太の方を向いて…
「うふふっ♪ ありがと♪」
…そうこうしているうちに、隆太の家に着いた。 涼子は彼をそこで降ろし、その足で自宅へ戻るという。 一応、次にお互いの都合がついた時には、プールで水泳をしようという約束を交わしての別れだったが、隆太は彼女からのメールが届くのが待ち遠しく、ケータイのメールを何度も何度もリロードしているのだった。
その数日後、学校にてある事件があった。 部活の合間に、愛莉と友加里が、隆太のことで口論になっていたのだ。
「愛莉ぃ!!あんたふざけんなよ!! ぶりっ子して隆太の気ぃ引こうとかしてうんざりだよ!! いい加減隆太のことあきらめろよ!!」
「何よ友加里ぃ!!そっちこそ隆太とは中学出たら縁切るなんて言っていながら、ダラダラと付き纏ってベタベタしちゃってるくせに!! あんたこそ未練がましく隆太にしがみついて迷惑なだけなんじゃね?」
「んななななな何だってゴルアァァ!! もういっぺん言ってみろよ!!自分で積極的になれないくせに口だけは達者でバカじゃね!! この無能女!!」
「うっせーなーwww!! フツーは男にフラれたら引っ込むのが筋ってもんじゃんか!! あきらめきれないであーーあーーウザイ女ぁ~~~www」
友加里ブチギレる。。。
「なんだって!!こんのやろおぉぉぉぉ!!!!!!」
友加里は愛莉の髪の毛を鷲掴みにして、床に押し倒した。 愛莉も抵抗し、友加里の首もとを握りしめている…!!
「んあああああっ!!このっ!!!!バカ友加里ぃ!!!!そうまでして隆太に粘着する理由がわかんねぇよぉ!!!!」
「うっせぇバカ愛莉がぁ!!!!隆太はずっと好きな相手だってまだわかんねぇのかぁ!!このぉ!!んぐぐぐぐっ…!!!!」
…部室の騒ぎを聞きつけた隆太は、すかさず止めに入った。自分のことでこんな騒ぎになっていると、先輩の杏奈に聞いてやってきたのだが、女同士の意地と力のぶつかり合いは、彼の想像を見事に破壊するほどのインパクトがあった。
当惑する隆太だったが、ひとまず二人を止めなければならない。 隆太は思い切って二人の間に割って入り…
「や、、、やめろ!!やめろよぉ!!!!」
「うっせ隆太!!あんたは引っ込んでな!!ズルズルと関係引き摺ろうとする友加里をアタシは許せないんだよ!!」
「こ、、、こっちこそ、ちまちまと隆太に付いて回る愛莉を許せるかぁーーーっ!!!!」
「と、、、とにかく二人とも、いい加減にしろってんだよぉっ!!!!」
…何とか引き離したはいいが、今度は激高した友加里が部室にあったビート板を取り上げ、それで愛莉を叩こうとしていた!!
「あああああっ!!こんにゃろぉぉぉぉーーーーー!!!!」
「わっ!!危ないっ!!!!」
”ガァン!!!!!!”
咄嗟に愛莉を庇った隆太は、見事に友加里のビート板攻撃を額に喰らってしまった…。
「ななっ…!!!!りゅ…、隆太ぁ!?」
…隆太の額からは、少し血が滴り落ちていた。
「はぁっ…、、、はぁっ…、、、二人とも、やめろよぉ!!!! ぼ、、、僕は、そんな乱暴な女子なんて絶対好きになれないよ!! もう、二人ともやめてよ!! ほんとに、もう、ケンカされるのイヤだよぉ…!! …ってか、自分で彼氏のこと大好きだったら、その彼氏を物みたいに取ったり取られたりするなんて子供のケンカじゃんか!! 二人ともバカだよっ!!!!バカバカバカ!!!!」
「隆太…」
友加里と愛莉は、静けさを取り戻した部室で、彼の泣いている姿を見て、言葉を失った。
「こらぁ二人とも!!部室でプロレス紛いのケンカするとかふざけんな!! お前ら、入る部活間違えたんじゃねぇのか?? とにかくとっとと部室片付けろ!! バカげた真似すんな!! 先生に知られたら退部確定だぞ!? わかってんのか!? 浅倉!! 織畑!!」
「はぁい…、ごめんなさい。真野先輩…」
「…ったくぅ!! コイバナのもつれで部室で大ゲンカするとか論外だっつーの!!」
二人は揃って、先輩の杏奈と隆太に平謝り。 散らかった部室を整理しているだけで、もう下校の時間となってしまった。
帰り道、隆太は額にハチマキのような包帯を巻いていた。 杏奈が保健室に連れて行き、「プールで転んだ(…と嘘をつき)」と言って手当てしてもらったのだ。
後でプールから上がって来たあきらは、この惨状を知らず、隆太に事の起こりを尋ねたが、隆太はまさか自分のことでもつれてこうなったとは、親友の彼にも打ち明けられず、適当にごまかした。
家に帰ると、隆太のケータイには電話の着信があった。 それは友加里からのものであったが、彼は電話に出るどころか、ケータイの電源を切ってしまった。
「隆太に謝りたい…。」
友加里はその一心で、ケータイを鳴らしたが、彼は取り合ってくれない。
…そこで友加里は、見てもらえるかどうかはわからないが、こんなメールを彼宛てに送信した。
「From:友加里 私のせいだよね? 私が悪いよね? もう、私達、終わりだよね?? 後は、隆太に任せるよ。嫌いなら嫌いでいいよ。 私がバカだったよ。 でもお願い、一言でいいから、謝らせて。 -END-」
翌朝、ケータイの電源を入れた隆太は、そのメールを見ることになってしまった。
無論、隆太も悩んでいたのだ。
「友加里も、愛莉も、大切なクラスメイト。だから、傷つけたくない。」
明確な答えを見つけられないまま、無情とも思える空白の時間だけが過ぎて行き、気が付けば夏休みも間近に迫る頃であった。
その頃に至っても、ピリピリ感の抜けない水泳部(友加里と愛莉)で、時の経過で少しは口数も増えてはきたものの、未だに一触即発の状態は解消されていなかった。
隆太は悩んでいることを、恋人(仮)である涼子に話してみると、意外な返事が返ってきた。
「夏休みに入ったら、うちに泊まりにおいでよ♪ うちの近くには砂浜もあるからみんなで泳げるよ♪ 合宿だと思ってみんなで来てごらん♪」
…それがどういう結果に繋がるかは全く不明瞭だったが、この事態、隆太の手には余る。 人生の先輩でもある涼子に、救いを求めて然るべきだったのだろう。
友加里、愛莉、隆太、あきら。 いつもの1年生水泳部の面々は、それぞれの思いを胸に「合宿(?)」の日を迎え、浅虫温泉にある涼子の実家「旅館・いそくら」を訪れた。
なお、友加里以外の面々には、涼子は単純に、隆太の親戚であるとだけ伝えてある。
それぞれ、複雑な想いを抱いてこの日を迎えたところであったが、隆太としては、ただただ今のもつれた自分達の仲が、少しでもよい方向へ導かれることを祈るばかりであった。
「あ、いらっしゃ~い♪ 私はこの旅館の看板娘やってる、磯倉涼子です~♪ さ、男子はあっち、女子はこっちの部屋に入ってね。 一段落したら食堂の方に集まってね。」
…部屋に荷物を置いて、涼子の言う通り旅館の食堂に4人は集まった。
「あ、集まったね。 早速だけど、みんなに質問♪ もし、自分が好きで好きでどうしようもない相手を嫌いにならなきゃダメってなった時、みんなならどうする?」
「えっ…??」
…その質問に即答できる者はなく、皆は誰かが答えるのを待っているのみであった。
「あ…、ぼ、、、僕なら…」---
沈黙に耐えきれず、隆太が一言目を放った。 だがそれに覆いかぶさるように友加里が…
「は…はいっ!! わ、、、私なら…」---
それを見た涼子は、クスっと笑い、我が意を得たりという表情を浮かべた。
-つづく-