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君を忘れない理由  作者: 神里真弥
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傍にいるもの

暗い。真っ暗な世界。

でもどこか温かい。優しくて誰かが俺を包み込んでくれているようなそんな温かさ。

暗くて、怖いはずなのにずっとこのままでもいいって思えるほどに、この温かさに溺れてしまいそうなそんな感覚。

俺はそれが夢だということに気付き、ゆっくりと目を開ける。


目を開けても、暗いままで周りはよく見えなかった。

俺は明かりを求めて、動き出そうとした。

すると、右手に温かくて、柔らかい感覚を覚え、右手の方を見た。

暗くて、よく見えなかったが誰かに手を握られていることは分かった。

寝息のようなものが聞こえてきて、相手が寝ているであろうことを確認。

そっと、握られている手を離し、明かりをつける。

相手は、明かりがついたことで、眩しさのあまり瞼を強く閉じる。

そして、ゆっくりと瞼を開け、ちょろちょろと周囲を見ている。

俺の姿を確認し、寝ぼけた様子で声を出す。


「あー。時君起きたんだぁー。おはよー」


「おはようって見たところ、外は真っ暗で夜のように感じるんだが、てかなんで咲希がここにいる?」


咲希は目を擦りながら、ゆっくりと話す。


「夜ならこんばんはかなー?うーんなんか違うなー?」


首を傾げながら、真剣に考えている様子の咲希に俺は呆れたような視線を送る。


「挨拶の話は気にしなくていいんだよ!俺が知りたいのはなんで咲希がここにいるのかってことだ」


叫んだ途端、頭痛が俺を襲ったが我慢して咲希の答えを待つ。

咲希は心底不思議そうな顔をして答える。


「時君覚えてないの?この家に帰ってすぐ時君倒れちゃったんだよ。だから、私頑張ってベッドに時君を運んだで面倒見てたの……」


思い出した。そうだ。俺は学校から帰る途中辺りから、急に体がだるくなって。

そうか。倒れたのか。

俺は自分の右手を広げ、しばらく凝視した。


「俺の手を握ってくれてたのはなんでだ?」


その言葉を聞き、咲希は不安そうにこちらを見つめて答える。


「もしかして、嫌だったかな?時君が苦しそうだったから……手を握ったの。そしたら私も寝ちゃってたけど」


正座して反省するように述べた咲希の言葉。

俺は咲希に近付いていく。

咲希の近くまで来ると、咲希は怯えるように目を瞑った。

俺はそんな咲希の頭をゆっくり、優しく、撫でた。


「ありがとな!」


咲希は驚いたように目を見開き、照れたように顔を赤くした。


「元気になった?」


「まだ少し、頭は痛いけどな」


俺は微笑んで、返す。


「きっと疲れてるんだよ!今日は一緒に寝よ?」


ニヤリと何かを企むように言う咲希。

まず、咲希がここにいる前提がおかしい気がするが、仕方ない。


「そうだなー。一緒に寝るかー」


俺は棒読みでそう言った。

咲希は顔を真っ赤にして、驚いていた。


「えー!?いつもなら、否定するところなのに!?ごめんなさい。やっぱり私には心の準備がまだだったというか。出直してきますというか。わ、私は床で寝るから大丈夫ですからー!」


ドアを強くこじ開け、どこかに向かっていった咲希。

なんだが忙しそうだ。

1人部屋に残された俺は、再び眠りにつくことにした。

目を瞑ると、ある疑問が俺の頭の中で浮かんだ。

俺が未来から過去に戻ったというなら、未来では俺が倒れるなんてことは無かったはずだ。

そもそも、俺は佐々木茜という人物を知らなかったのだから、佐々木茜について調べたりもしていない。

俺が未来ではしていない行動をしてしまった事で、未来が変わってきている。

つまり、これから起こることは誰にも分からない。

それでは、未来から来たとしても、なんのメリットもないではないか。


「未来変えすぎちまったかもな」


俺は大きな溜息をつき、今度こそ寝ることにした。


カーテンから差し掛かる、光の眩しさに俺は目を覚ました。


「んー!よく寝たー!」


起きて、すぐに伸びをして、だるさや頭痛が無いことを確認。

どうやら本当にただ疲れていただけらしい。

咲希の姿は見当たらない。家にでも帰ったか。

すると、なにやら誰かが階段を駆け上がってくるような音がした。

ドアを開けられ、咲希が目の前に姿を現す。


「時君!その様子だと元気になったみたいだね!」


「まあ。一応な」


「じゃあ遊びに行こうよ!」


突然の咲希の提案に戸惑いを隠しきれない俺に対して、咲希はどんどんと詰め寄ってくる。


「意味が分かんねーよ!病み上がりの人にいう台詞じゃないだろ。第1これ以上未来にない行動を起こそうとすんじゃねーよ」


確か俺の記憶が正しければ、今週の土日は俺はゲームやら読書をして過ごしたはずだ。

よって、遊びに行ったりすれば、未来を変えてしまうことに繋がり、さらにややこしい事になりかねない。

例えば、佐々木茜のような悩みを持った人間がもう1人現れるとか。


「細かい事を気にしてたら、モテないよ?」


彼女いない歴=年齢の俺に刃物で刺されたぐらいに痛い言葉を投げ掛けてくる咲希。


「べ、別に俺はモテないわけじゃない。女の子と話したことだってあるしな」


「あっそういえば、昨日1組の女の子がなんか怪しい男に佐々木茜って子の事を聞かれて超怖かったーって友達と話してるのを見かけたよ?」


なにやらその話に心当たりがあるような。

佐々木茜の事を聞いてきた男か。

女の子の事を調べているなんて確かに怪しいな。


「それ!俺の事じゃねえか!え?なに?俺他の人から怪しい人呼ばわりされてるの?初めて聞いたんですけど?」


悲しい。人間なんて誰も信じない。

俺が、現実の恐ろしさを思い知らされているというのに、咲希はクスクスと笑っている。


「まあ、嘘だけどね」


「嘘かよ!人間嫌いになるとこだったわ!」


いつの間にか、俺は咲希と笑いあっている。

そうだ。これが俺達の日常だったんだ。

タイムリープとか意味の分からない能力が発動して、パニックになってたけど、咲希のおかげで気付けた。

未来は変えられる。だから、佐々木茜がいじめを受けているっていう今の状況を俺が作る未来で無くしてしまえばいい。

そんな簡単なことだ。何も迷う必要なんてない。


「じゃ!時君遊びに行こうか!」


「はー。嫌だって言っても連れていかれそうだな」


「うん!連れていくよ!私にはこれがあるからね!」


咲希が自分の携帯の画面を俺に見せてくる。

そこには、俺の見たくないものが映っていた。


「俺の寝顔じゃねえか!いつ撮った?いやそんなことより消せ!」


俺は咲希の持っている携帯を奪い取ろうと、手を伸ばすが、咲希が避けたことで、届かずに空を切る。


「昨日寝ている時にカシャッとね」


心配してくれていたのだと見直していたのにやはり咲希は咲希だ。


「時君笑ってるよ?ずっと待ってた。時君が本当に心の底から笑ってくれるのを。これから大変な事が沢山あるかもしれないけど、私達が、力を合わせればきっと乗り越えられるよ!」


俺は知らぬ間に、笑っていたらしい。

咲希の事がよく分からない。

時には優しくて、時には怒って、時には明るくて、何を考えているのかまるで分からない。

でも分かることがある。

それは、咲希がいなければ、今の俺はいないだろうという事だ。


「一緒に乗り越えていこうな!咲希」


幼馴染みでずっと一緒に過ごしてきた俺達は

もう家族のようで、俺達の絆を壊せるものなんていない。


俺達はこれから前を進み続ける。




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