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君を忘れない理由  作者: 神里真弥
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君の秘密

佐々木さんと別れた後、俺は家に着いていた。

帰る途中、少し空が暗くなってきていたことに気付き、佐々木さんを家まで送ってあげるべきだったと後悔したが、初めて会った相手と一緒に帰るのもどうかと思い、引き返すことはしなかった。


家の中に入ると、芳醇な香りが部屋中に漂っていて、その香りに誘われるようにリビングに向かった。

そして今の状況に至る。


「やっぱり起こすべきだよな」


眼前。ソファーの上で、猫のように体を丸めて眠っている咲希の姿があった。

すぐに起こそうと思ったのだが、あまりに気持ち良さそうに寝ていたので、起こすのが可哀想で起こせずにいたのだ。

それと寝顔が非常に可愛い。


別に可愛いのが理由で起こさなかった訳ではない。断じて違う。


「明日は雨が降るよーむにゃむにゃ」


すーすーと吐息が聞こえるなか、寝言なのか疑わしい言葉を発する咲希。

寝てるんだよな?寝言で天気予報する奴なんて初めて見た。


一応明日は傘を持っていこう。


「おーい、咲希。起きろー」


俺は咲希の肩を揺らしながら声を掛けた。

睡眠を邪魔されたことに、不快感を覚えたのか、咲希の顔が険しくなる。


そして肩を揺らすこと数秒。咲希が目を覚ました。

まだ寝ぼけているのか、目を擦りながら周囲を見渡している。

最後に俺を見てから3秒静止。


「あーー!うっかり寝ちゃってた……ごめんなさい!」


「ソファーで寝たりしたら風邪引くぞ。せめて寝るなら、予備の布団があるからそっちにしてくれ」


俺は咲希の肩に毛布を掛けながらそう言った。


「確かに少し頭痛が……ご飯食べたらまた寝ようかなー。時君布団出しといてくれないかな?」


咲希は頭を抑えながら、そう言った。

なんで、この子はここに泊まる気満々なの?

何?俺達夫婦なの?

ご飯食べたら、帰って寝れよ。


「なんで泊まる前提なんだよ。いくら幼馴染みでも限度ってものがある」


「でも……」


咲希は俯き、何か言いたげな顔をして、黙りこんだ。


「何かあったのか?」


「なんでもないよ……」


そんなに具合が悪いのだろうか。

なにやら咲希の顔が赤い気がする。


「草むらにいた女の子はどうだったの?」


咲希が急に話題を変えてきた。

表情が真剣だ。

そんなに佐々木さんの事が気になるのだろうか?


「あの子は捜し物してただけみたいだよ。別に怪しい人ではなかった」


「そうなんだ……名前は分かる?」


「佐々木茜って言ってた」


そう答えてから、俺もソファーに腰を下ろす。

立っているのに、疲れてしまった。


「その……佐々木さんは可愛いかった?」


咲希が顔を近づけてきて、さっきよりも真剣な眼差しをしている。

純粋な青色に輝く瞳が、完全に俺を捉えている感覚を味わう。

可愛いなんてことを聞いてどうするのだろうか?


「うーん顔立ちは整ってて、性格も悪くないんじゃないか?」


俺は佐々木さんの事を思い出しながらそう答えた。


「可愛いってことでいいのかな?」


「ま、まあ……」


俺は心配そうにこちらを見つめてくる咲希に驚き、曖昧な返事をする。


「そっかー。ご飯を食べ終わってから話そっか」


咲希がそう言い、俺達はご飯を食べる事にした。

今日のメニューはシチューで流石というべきか咲希の作ったシチューはかなり美味しかった。

ご飯を食べ終わってから、俺達は再びソファーに腰掛け、しばらく寛いだ。

数分が経ち、咲希の方から話を振ってくる。


「今日……本当に泊まろうかなー」


「え?親とかに言わなくていいのか?」


「今日お父さんもお母さんも仕事が忙しくて帰ってこれないらしいの……時君も最近ご両親帰ってこれてないんでしょ?」


つまり、もし咲希が泊まってしまえば、この家には俺と咲希の2人だけということになる。

咲希はまだ頭痛がするのか、頭を抑えながら、じっと俺を見つめている。


幼馴染みとはいえ、咲希も年頃の女の子だ。

男と夜2人っきりなど、何か間違いがあってはいけない。ここは何がなんでも断らねばなるまい。


「咲希がここに泊まりたい理由はよく分かった。でもな、この家出るんだよ……」


俺は恐怖に満ちた声で、そう告げた。

ゴクリと咲希が息を飲む。

そしてゆっくりと口を開いた。


「な……なにが?」


震える声が室内に広がった。

数秒の静寂。俺は今だと思われるタイミングでゆっくりゆっくりと口を開く。


「幽霊が……」


「嫌ぁぁぁぁぁぁ」


そう。咲希は幽霊が苦手なのだ。勿論幽霊がでるなんてことは嘘だが、咲希をこの家に泊めないためには優しい嘘というのも必要だ。

優しいか?違うな。

正直に言うと、俺も幽霊は怖い。だから、自分で言っておきながら、もしかすると背後に幽霊がいるんじゃないかと少し恐怖している。


「幽霊がいるって聞いて、ますます1人じゃ寝れないんだけど……」


幽霊に怯える咲希を見て俺はフッと笑う。

そして勝ち誇るようなポーズを取り、決め顔で言葉を発する。


「奇遇だな。俺もだ」


作戦失敗。誰だよ。幽霊が出るとか言った奴。俺だよ。怖くて、1人で寝れないよ。いや違う。怖い訳ではなくて、咲希が1人じゃ寂しいかな?って思っただけだから。決して怖いとかではなくて。


「時君……世界1かっこ悪いよ」


「咲希は世界1可愛いよ」


「やっぱり時君……世界1かっこいいよ」


幽霊に怯える俺達は、自分達ですら何が言いたいのか分からない会話を続けることしか出来なかった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「時君、ちゃんといるー?」


「大丈夫だ。ちゃんといる」


今俺達が何をしているのかというと、お風呂に入っている。

お風呂に入っているのは、咲希だけで、俺はまた後から入るのだが。いや、今一緒に入るという手も……いかんいかん。


幽霊の話をした後、お風呂にも幽霊が出るんじゃないかと、思った咲希は俺をお風呂の入口にスタンバイさせ、ずっと俺に話しかけることで、幽霊の恐怖を緩和させるという作戦に出たのだ。


「あっ時君大変だよ!」


突然咲希が声を荒らげた。


「なんだ?幽霊か!?」


「ううん。お風呂が……」


「お風呂がどうしたんだ!?」


「……ぬるいの!」



「……」


俺は沈黙した。なんと返せばいいか分からなかったからだ。


「え?なんで黙ってるの?ねぇなんで?え?もしかしてそっちに幽霊がいるの?」


俺が急に黙りこんだことで咲希が慌てて、なにやら叫んでいる。

しかし、咲希のふざけた行動のお陰で、俺は幽霊の恐怖から解放されていた。

幽霊の恐怖から解放された俺は咲希を無視し、ジュースを飲みに冷蔵庫へと向かうのだった。


「ひどい……ひどいよ……1人にしないって言ったのに……」


咲希がお風呂から上がったあと、俺もお風呂に入り、上がって、自分の部屋に入ると、そこには俺のベッドの上で泣きわめく咲希の姿があった。

何故、当然のように俺の部屋に入っているのか。

それと、1人にしないなんて言った覚えはない。


「寝るなら、母さんの部屋に布団を敷いて寝てくれ。俺は疲れたから、その今咲希が座っているベッドで寝たいんだ」


「今の私が1人で寝られるわけないでしょ!?

後台詞だけ聞いたら、時君危ない人みたいだよ?」


え?俺なんで怒られたの?

自信満々に1人で寝れないって叫ばれても困るんですけど。


「元はと言えば、咲希が家に泊まりたいとか言うから、俺は必殺技幽霊を使ったんだぞ。なんで泊まりたいなんて言い出したんだよ?」


俺は冷静に、事の発端を振り返り、咲希に問う。

すると、咲希は頬を赤らめ、何かを呟いた。


「草むらの女の子に嫉妬したなんて言えるわけないじゃん……」


何を言ったのか、まったく聞こえず、結局原因が分からないままになった。いつか耳鼻科に行こうと思いました。そして俺は床に寝ることになった。


「ねぇ、時君まだ起きてるよね?私が寝るまで寝ないでね?」


俺が寝ようとしても、咲希にずっと話しかけられ続け、俺と咲希はなかなか眠れないまま、夜を過ごした。

恋愛漫画でよく見るドキドキなんてものは一切存在しなかった。




しかし、俺はこんな平和な日常がずっと続けばいいのにと。

心のどこかでそう思っていた。

今回はほのぼの回でした。

次回から、ストーリーが動き出します。

是非、読んでいただけたら幸いです。


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