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ウァンパイア物語  作者: 衣月美優
7/7

エピローグ~また会う日まで~


 あの日、私─吉崎 海花─と隼人がKに人間の世界に戻された日。

 Kは女王を殺し、ボロボロになっていたそうだ。

 そしてその一週間後、Kが死んだという話をしているウァンパイアたちを見かけた。




 あれから二年。

 私は一人暮らしを始めた隼人の家に二年間、世話になっていた。

 一週間後、私はこの街を出ていき、大学に行く。

 大学を出たらウァンパイアに人間が殺されないようにするために、ウァンパイアの研究所を創ろうと思っている。ウァンパイアに苦しめられている人に、もっと安心して暮らしてもらえるように・・・

 今、人間になった私に唯一できることだ。

 もちろん、簡単なことではない。

 だが、幸いなことに千夜の知り合いにウァンパイアについていろいろ調べている研究家がいるそうだ。

 だからその人のところに行けば少しは力になってくれるのではないか、と千夜は言っていた。

 千夜とは隼人を通して少しずつ仲良くなった。

 そして、千代には私がウァンパイアであることをすべて話した。隠す必要もないと思ったからだ。

 だから、いろいろ協力してくれる。

 千夜はたしか・・・一年前から南野とかいうやつと付き合っているそうだ。




 出立まであと三日。

 今日は荷物をまとめていた。

「これで全部か?」

 隼人が訊いてきた。

「あぁ、そうだ」

 私は答えた。

 そこへ

「やっほー、隼人、海花。荷物、全部まとまったの?」

 千夜がやって来て訊いた。

「来るの遅いんだよ・・・もうまとまったよ」

 隼人はため息混じりに答えた。

 千夜はニコニコしながら

「ホント?じゃあ、これから遊びに行かない?しばらく海花とは会えなくなるし・・・」

 と、言ってきた。

 私は少し迷ったが

「・・・いいんじゃない?楽しそうだし」

 と、答えた。




 私は今まで一度も笑ったことがない。

 楽しいとか嬉しいとかそういう感情はあるが、笑ったことはない。

 ウァンパイアは笑うことはない。

 だから、あまり表情が変わらない。つまり、無表情なのだ。

 だから、相手に気持ちが伝わりにくい。

 今日、三人で遊びに行ったときも・・・


「私、ここの服すごく好きなんだ。海花に似合う服、買ってあげる。向こうにいったときに着てね」

 と、千夜がいろいろな服を持ってきて私に試着させた。

「うーん、これはイマイチだな。あ、これなら似合うんじゃない?・・・ほら、似合う!ねぇ、隼人はどれがいいと思う?」

 急に千夜に訊かれて、隼人は戸惑っていた。

「どれがいいって言われても・・・」

「はっきり言いなさいよ。しょうがない。ほら、海花にこの服着せたらもっと可愛くなるでしょ?」

 煮え切らない隼人に、いたずらっぽく千夜は訊く。

「!?そ、そういう聞き方やめろ!」

 隼人は顔を赤くして言った。

「いいじゃない、それくらい言ってあげたって。海花の彼氏でしょ!」

 そう言われて、私と隼人は固まった。

「ちょっ!千夜、そういうことは言わなくていいから」

 私が慌てて言うと、隼人も

「そ、そうだ。っていうか、こんな人のいるところで言うな!!」

 と、言った。

 千夜は面白がっているようだが・・・

 店を出たあとも、千夜はいろいろなところへ私たちを連れていった。

 そして、帰るとき。

「今日は楽しかった?」

 千夜が私に訊いてきた。

「うん、楽しかった。服を選んでくれてありがとう」

 と、私が言うと、千夜は

「ホント?ホントのホントに楽しかった?」

 と、顔を近づけながら訊いてきた。

「?うん、楽しかったよ」

 そう私が答えると、千夜はホッとしたように

「そう?ならいいけど」

 と、言った。

「何でそんなにしつこく聞くんだよ?」

 隼人が不思議そうに千夜に訊いた。

 それはまさに、私の訊きたいことでもあった。

 千夜は少し困ったように言った。

「だって・・・海花、あんまり笑わないから。それに、私がいろいろ連れまわしすぎちゃったかなって思ったから」

 私はその言葉に何だか申し訳なくなって

「あ・・・ごめん。私、ウァンパイアだったから笑うことがなくて・・・それで私、今まで笑ったことがないんだよね」

 と、答えた。

 すると、千夜は手を横に振って

「ううん。気にしないで」

 と、笑って言ってくれた。




 今日はこの街を出る日だった。

 朝の十時五分発の電車に乗っていく。

 駅は少し離れているので、隼人が駅まで見送りに行くといっていたが、私が断り、諦めてもらった。

「忘れ物はないか?」

 隼人が私に訊く。

「うん、これで全部」

 と、私は答えた。

「じゃあ、そろそろ行くね」

 そう言って私が行こうとしたとき

「ちょっと待て!」

 隼人が止めた。

「四年後、お前が帰ってきたら・・・」

 そこで言葉を止め、手に隠していたものを私に差し出した。

 それは、小さな箱だった。

 隼人はそれを開けて言った。

「俺と結婚してくれるか・・・?海花」

 その箱に入っていたのは指輪だった。

 私は目に涙を浮かべ、そして笑顔で答えた。

「はい・・・!」

 私が初めて笑った顔を見て、隼人は言った。

「初めて笑ったな。海花が帰ってくるのをずっと待ってる」

 私はその言葉を聞いて家を出た。


 また会う日まで・・・


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― 新着の感想 ―
[良い点] 小学生の時に書かれたとありましたが、単純にそれだけでもすごいのに、内容もしっかりしていて面白かったです。きれいに終わるハッピーエンドって好きです。
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