表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウァンパイア物語  作者: 衣月美優
4/7

失恋


 二日前。いろいろなことがあった。


 ────付き合ってほしいの!


 ────俺は奥田のことが好きだったんだ・・・!


 そして・・・


 ────もう私に関わるな!


 吉崎に言われた言葉。胸を殴られたような衝撃が走った。


 ────きっと、吉崎さんは関わってほしくないなんて本気で思ってないよ。


 本当にそうだろうか。

 あのときの吉崎の目は本気だった。

(・・・本人に確かめるのがいいか)

 正直、訊くのは怖い。前みたいに言われたらと思うと・・・




 俺はいつもの時間に吉崎がいるベンチに行ってみたが、やはり吉崎はベンチにいなかった。

(いない・・・か)

 それでも、確かめると決めたから。

 でも、もし吉崎がこの街にもういなかったら、俺はどうするだろう。

 諦めるだろうか。それとも諦めずに探すだろうか。

 とりあえず、この街の隅から隅まで探そう。

 考えるのはそれからだ。




 私は、計画を立て直していた。

 いくら時間があるといっても、次こそは必ず。そうでないと、私の死は確実だ。

 前の計画では、あの男を例の日に裏切って絶望させ、そこを突いて吸い殺すというものだった。

 だが私のあの一言で、親しくなるどころかもう関わってくることもないだろう。そうなると、少しやりづらくなる。


 ────もう私に関わるな!


 なぜ、あんなことを言ってしまったのか。

 あんなことを言わなければ、計画はうまく言っていたのに。こうやって、計画を立て直す必要などなかったのに。

 自分のことなのに、考えてもよくわからない。

 まぁいい。次の計画を立てる時間があるだけでも・・・

 そう考えて、私は人間の世界へ向かった。




 俺は、今も吉崎を探していた。

 だが、いくら探しても見つからない。

 やはりもう、この街にはいないのだろうか・・・

 そう諦めかけたとき、海を眺めている少女に気がついた。

「吉崎!」

 考えるよりも先に体が動いた。吉崎のもとへと駆け出す。

 吉崎も俺の声に驚いたように振り返った。

「あーと、その・・・」

 声をかけ、吉崎のもとへと駆け出したのはよかったが、何も考えていないので言葉が出ない。

 何を言えばいい?この間の謝罪か?

 そんな風に考えていると、吉崎が不思議そうな顔をして聞いてきた。

「関わるな・・・そう言ったのに、なぜ私のところに来た?」

 あぁ、そうか。吉崎に訊かれてやっと気づいた。 

 俺はこの間の謝罪なんかをしに来たわけじゃない。

「それは、俺が決める。吉崎が関わるなと言ったって、関わるか関わらないかを決めるのは俺だから」

 俺はそう答えた。

 そうだ、それは誰かが一方的に決めるものではない。

 吉崎は俺の答えに怪訝そうな顔をして

「お前は、私と関わることに決めたのか?」

 と、訊いてきた。

「そうだ」

俺は迷わず答えた。

「それはなぜだ?」

 今度は真剣な眼差しで吉崎が聞いてくる。

「それは・・・今は言えない。少し、時間をくれ」

 俺は躊躇いながら答えた。

 吉崎は俺をまじまじと見たあと

「・・・いいだろう。三日後、午後二時にここに来い」

 と言って、行ってしまった。

 まだ気持ちの整理ができていない俺にとって、三日という時間は短い。三日後までに何をいうか決めておかないと、また同じことの繰り返しだ。

 でも、焦らずゆっくり考えよう。

 三日しかないのではない。逆に、三日も時間をくれたのだ。

 十分な時間があるはずだ。




 本当にバカな男だ。

 私は、ウァンパイアの巣に戻るまでずっと思っていた。

 あの男はなぜ、諦めないのだろう。関わるなと言ったのになぜ。

 だが、私にとっては絶好のチャンスだ。

 前の作戦でも、あの男を殺れる可能性が出てきたのだ。

 だけど・・・


 ────それは・・・今は言えない。少し、時間をくれ


 あれは、どういう意味だろうか。

 なぜ、今言えないのか。


 ────お前は、私と関わることに決めたのか?


 私がそう訊いたときは、迷わず答えていたのに。

 だいたい、あの男が私と関わって得することは何もない。むしろ、損をするのに・・・

 まったく、意味のわからない男だ。

 だが、三日後にはあの言葉の意味がわかるはずだ。

 楽しみにしているぞ、奏井 隼人。

 そんなことを考えながら、女王の城に向かった。

 『これから』について話すために・・・




 あれから二日経った。

 俺─奏井 隼人─はいつもの散歩コースを歩きながら、明日吉崎に何を言うか考えていた。

 俺は、吉崎のこと────・・・

 でも、それを言っても吉崎は俺を嫌う。というか、吉崎は俺が何を言っても聞かないんじゃないか?

 考えれば考えるほど答えは出ない。

 モヤモヤする・・・




 ついにこの日が来た。

 二時少し前に、俺は約束の場所に行った。

 一応、何を言うかは決めた。嫌われてもかまわない。

 少しすると、吉崎はやって来た。

「さて、三日という時間をやった。この間の質問の答えを聞かせてもらおうか」

 吉崎は俺を見るなりそう言った。

 俺は覚悟を決めて言った。

「・・・好きだ!だから、関わらないなんてことできない」

 吉崎は最初驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの顔に戻り、言った。

「────・・・私は、お前を好きにはならない。なるわけにはいかない」

 その冷ややかな声が俺の頭に響いた。

「私にはもう、時間がない。どのみち、もうすぐ別れるんだ」

 さらに吉崎は続けた。

「どういう・・・ことだよ?」

俺は吉崎が何を言っているのか、まったくわからなかった。

「そのうちわかる」

 俺の質問には答えず、そう言って吉崎は去っていった。

 俺はそんな吉崎に声をかけることができなかった。




 私─吉崎 海花─はウァンパイアの巣に戻っていた。


 ────・・・好きだ!だから、関わらないなんてことできない


 その言葉が、私にずっとつきまとっている。

 忘れたいのに忘れられない。

 私があの男を好きになるわけがない。絶対に、好きになってはいけない!

 そう思えば思うほどおかしくなる。

 あの男があんなことを言うから。

 そう混乱しているとき

「M」

 うしろから声がした。

「Kか」

 Kは、私が一番信頼しているウァンパイアだ。

「M、あなた、今度女王になるんでしょう?なのに、今のあなたは嬉しそうじゃない」

 Kはそう言ってきた。

「そりゃあ、ただで女王になれるわけではないから────」

 嬉しくない、と言おうとしたが、Kに遮られた。

「いいえ、あなたは何か別のことに気をとられている」

「!?そんなこと・・・」

 図星だった。

 それを隠そうと言い訳をしようとしたが、またKに遮られた。

「どうでもいいけど、自分の気持ちに素直になるのがいいんじゃない?きっとそのほうが幸せになれる。どんなことでも・・・」

 Kのその言い方に驚いた。

「K、まさか知って・・・!?いや、何でもない。じゃあ、私は行くから」

 私はそう言って、Kのもとを離れた。


 素直に、か。

 もうずっと前に気持ちは決まっていたのだ。知らない間に、私は想ってしまっていたのだ。

 きっかけは、あの男が三人組の男を怒鳴ったとき。あのあと、私があんな風に突き放したのはきっと、これ以上関われば自分の気持ちに気づいてしまうと、体が拒否したからだろう。

 そして、決定的だったのはあの男の告白。

 それでもう、わかってしまったのだ。

 もう、殺せない。

 わかってしまった以上、私にできるのはただひとつ。

 それは────・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ