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ウァンパイア物語  作者: 衣月美優
3/7

千夜


「おい、人の家で何してる?」

 俺が彼女に訊くと

「別にいいじゃない。ちょっとゲームするくらい。私たち幼馴染みだし。隼人の両親が旅行で留守の間、私が隼人のお世話をするよう頼まれたってさっきも言ったでしょ?」

 と、答えた。

「お世話って・・・俺はもう大学生だぞ!小学生じゃないんだぞ!」

 俺が声を荒らげて言うと、彼女はニッと笑って言った。

「じゃあ、私みたいに一人暮らしすれば?そんなに言うならできるでしょ?まぁ、アルバイトもしてないようじゃ無理だろうけど・・・」

 俺はカッとなって怒鳴った。

「いい加減にしろ!千夜!」

 彼女の名前は奥田 千夜。俺の幼馴染み。もちろん同級生だ。

 千夜はここから電車で二時間もかかる高校へ行くため、中学卒業してからすぐ引っ越した。そのときから一人暮らしをしている。

 はじめ、千夜の両親は一人暮らしに反対していたが、なんとか説得して一人暮らしを始めた。もちろん、説得するのにものすごく時間がかかっていた。しかもその間、父親とはほとんど話していなかったような・・・

 そんな千夜が俺の家に来たのは、一時間ほど前の話だ。




 午前七時。家のチャイムが鳴り響いた。

 両親は昨日の夕方から旅行に行っていて、今は俺一人だ。

(誰だよ、こんな朝っぱらから・・・)

 もう少し寝ていたかったが、何度も鳴るチャイムのせいで目が覚めてしまった。重たい体を起こし、玄関へと向かう。

 玄関を開けると

「隼人、久しぶりー!」

 耳鳴りがするほど大きな声でそう言って、抱きついてきた。

「なっ!?千夜?何しに来たんだよ」

 俺が驚きながら聞くと、千夜はニコニコしながら

「隼人のお母さんに頼まれたの。留守の間、隼人のお世話をしてほしいって。それで、バイトも休んで朝から来たってわけ」

 と、答えた。

 俺はめまいがしそうだった。普通、大学生の息子の世話をしてほしいって頼むか?何考えてるんだ、母さんは。

「世話って・・・おい!」

 俺は勝手に家に入ってこようとする千夜を止めようとしたが、無駄だった。

 千夜はさっさと家に入って

「朝ごはん、パンとご飯どっちがいい?」

 と、訊いてきた。

「パンでいい・・・ってか、俺がするからいい!」

 流されて、普通に答えてしまった。慌てて突っ込んだが、千夜は気にも留めずに朝食の準備をする。

 だめだ。このままだと本当に千夜に世話をされる。

 嫌な汗が流れた。

「心配しないで。責任を持って隼人のお世話をするから」

「そんな心配してねーよ!つか、世話なんかいいって!」

 千夜の言葉に俺は反抗した。

 そんなことを繰り返し続けて、今に至る。




 もう昼の一時だ。昼食は食べ終わった。昼食は結局どちらも譲らず、二人で作った。

「なぁ、そろそろ帰れよ。お前の家、遠いんだから」

 俺がそう言うと、千夜は

「隼人の両親が帰ってくるまでは帰らないから。泊まりの用意も持ってきたし。それに・・・ここに来たのは、ほかにも用事があるからだもん」

 と、頬を膨らませながら、最後はか細い声で言った。

「じゃあ、その用事を済ませてとっとと帰れ」

 と、俺がため息をつきながら言うと

「用事を済ませても帰らないから!」

 と、怒鳴ってきた。相変わらず、頑固なやつだ。

 俺はまたため息をついた。

「じゃあ、その用事っていうのは何なんだ?」

 俺が訊くと、千夜は急にうつむき、顔を赤くして言った。

「────・・・てほしいの」

 蚊の鳴くような声で、よく聞き取れない。

「え?聞こえない。もう少しはっきり言ってくれ」

 俺が訊き返すと

「っ・・・!付き合ってほしいの!」

 真っ赤な顔をして、多きな声で言ってきた。

「へ・・・?」

 思ってもいなかったことを言われて、俺は驚いた。

「私、小さい頃から隼人のこと好きだったの。けど、隼人って意外とモテるし、みんな隼人のこと優しくて普通なら言われたら傷つくようなことを言われても何も感じてないような感じでカッコいいって言うし・・・だから、なかなか告白できなくて。やっと決心がついたから、お世話をするっていう名目で告白しに来たの。・・・私と付き合って、隼人」

 俺は千夜が何を言っているのかわからなかった。

 俺と付き合ってほしいだって?

 でも、俺にとって千夜はただの幼馴染みだし・・・

「ねぇ、隼人・・・」

 千夜は俺に返事を求めた。

 いつも明るくてうるさい千夜が、顔を赤くして目には涙まで溜めている。

 俺は困ってしまって

「か、考えさせてくれ」

 と、答えるので精一杯だった。

「じゃあその間、ここにいてもいい?」

 千夜は訊いてきた。

「あ、あぁ」

 俺は何が何だかわからず、そう答えた。




 今日も私はいつものベンチであの男が来るのを待っていた。

 なぜならあの男と親しくなり、それを例の日に裏切って絶望させ、そこを突いて吸い殺すためだ。

 とりあえず、大体の計画はたてた。あとは八月二十日が来るのを待つだけ。

 もし計画がうまく進まなければ、立て直すか攻めるだけだ。

 と、いろいろ考えていると、目の前に三人の男が立っていた。

「何か用?」

 私が訊くと、男の一人が口を開いた。

「お前、最近ずっとここにいるよな?」

「それがどうした?」

 私の質問に答えず、私に質問してきたことに苛立ちながら、さらに訊く。

「じゃあ、『奏井 隼人』とよく一緒にいるのはお前のことか?」

 さらなる質問に、私は挑発するように

「そうだとしたら?」

 と、言う。

「この街から出ていってもらう」

 今度は真ん中に立っている奴が答えた。

「なぜだ?」

 私は眉間にシワを寄せて訊いた。

 すると、その男は目をつり上げて言った。

「あいつのせいで、俺は大事な女をとられたんだ!だから、あいつと親しくしている女には全員、この街から出ていってほしいんだ」

「その『大事な女』はお前の恋人だったのか?」

 私は興味はなかったが訊いてみた。

 すると、その男は慌てた様子で

「そ、そそそんなんじゃない」

 と、言った。

 痛いところを突かれると、態度に出るタイプのようだった。

「お前はバカなんだな」

 私が冷たく言うと、また別の男が怒って言った。

「何だその態度は!大体バカって────」

「だってそうだろう?恋人でもない奴をとられたって・・・そういうのはとられたって言わないのよ」

 私は男が喋っているのを遮って言った。

「この・・・!」

 殴りかかってこようとするその男を、待て!、と真ん中の男が止めた。

「ちょっと、来てくれないか?」

 真ん中の男が私に手を差し出す。

「いや、と言ったら?」




 俺は、千夜と外へ出た。千夜はついてきただけだが・・・

 俺はいつものように吉崎のところに行こうと思っていたが、千夜がいたら行きたくても行けない。

 だから、とりあえずその近くまで行くことにした。

「ねぇ、どこに行くの?」

 千夜が訊いてきた。

「どこでもいいだろ」

 俺が素っ気なく答えると、千夜は黙ってついてきた。

 しばらく歩いていると、千夜がまた口を開いた。

「ねぇ・・・考えさせてって言ってたけど、私がここにいるのは今週末までだよ?いつ返事をもらえるの?」

「いつって・・・」

 そんなことを訊かれても困るんだが・・・

「ねぇ、彼女も好きな人もいないんなら私と付き合って・・・」

 また千夜は少し顔を赤くして言った。

「そんなこと言われても・・・」

 千夜のことを恋愛感情で好きなわけでもないのに付き合うのは失礼だし、そんなこと絶対にしたくない。かといって、ちゃんとした返事も思い浮かばない。簡単には引き下がってくれなさそうだし・・・

 そんなことを考えていると、いつものベンチの方から言い争うような声が聞こえてきた。ベンチの方を見ると、吉崎が三人の男に絡まれていた。

「!?吉崎!」

「え?ちょっ・・・隼人!」

 千夜の声も聞かず、俺は吉崎と三人の男の間に割って入った。

「な!?奏井!」

 真ん中に立っていた男が、驚いたように俺の名前を呼んだ。

「お前、南野か!?」

 男の顔を見て、俺も名前を呼ぶ。

 南野とは、俺と千夜の小中学生時代の同級生だ。

 向こうから来た千夜も驚いている。

「南野・・・くん?何しているの?」

「あ・・・」

 南野が答えようとすると、吉崎が大きなため息をついて言った。

「その様子だと、この女がお前の言っていた『大事な女』なんだな?」

 吉崎のその言葉に、千夜はさらに驚いた顔をした。

「え・・・?」

 南野は吐き捨てるように

「っ!そうだよ!俺は奥田のことが好きだったんだ・・・!でも、奥田は奏井のことばかり見ていた。だから!」

 と、言った。

 千夜は少し怯えたような、申し訳なさそうな顔をして

「南野くん・・・ごめんなさい。私があなたを苦しめていたのね・・・」

 と、謝る様子を見て、俺はムカついた。

「だから何だ!そんなの誰のせいでもないだろ!南野が傷ついていたのはわかったけど、それを吉崎にぶつけるな!吉崎は関係ないだろ!」

 俺はそう怒鳴った。

 千夜も南野も申し訳なさそうな顔をした。

「隼人・・・」

「奏井・・・悪かった」

 そんな二人の様子を見て、俺はどこに怒りをぶつけたらいいのかわからず

「っ!もういい、とっとと帰れ」

 と、南野に向かって吐き捨てていた。

 南野は頭を下げて他の二人を連れて帰っていった。

 俺は吉崎の方に振り向き、訊いた。

「吉崎、大丈夫か?」

 手を差し出したが、その手を叩かれた。

「え・・・?」

 俺は何が起こったのかわからなかった。

「もう私に関わるな!」

 そう言って、吉崎はどこかへ行ってしまった。

 俺はその背中を呆然と立ち尽くしながら見ていた。

「────・・・帰ろうぜ、千夜」

 俺はうしろにいる千夜に声をかけた。

「隼人・・・そうだね」

 千夜は俺を励ますように笑顔で言った。

 そして、俺たちはとぼとぼと帰っていった。




 次の日の朝。

 千夜は昨日の夜に荷物をまとめ、予定より早く帰ることになった。

「じゃあ、また来るね、隼人」

 千夜はいつものように笑顔で言う。

「あぁ」

 だが、俺が心ここにあらずというように返事をしたので不安になったのか、心配そうな顔で言ってきた。

「大丈夫?ちゃんとご飯食べなよ?・・・私、これからは南野くんとこまめに連絡を取り合おうと思うの。それから彼に返事をするわ。・・・隼人に好きな人がいるってわかったから。元気だしてね。きっと、吉崎さんは関わってほしくないなんて本気で思ってないよ。だから、頑張って!」

 俺はなんだかその言葉に励まされて

「あぁ!」

 と、力強く答えた。

 そして、千夜は帰っていった。


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