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ウァンパイア物語  作者: 衣月美優
2/7

ウァンパイアの巣


 暗く冷たい、ウァンパイアの巣。

 その巣の中で一番大きな部屋が、このウァンパイアの世界の女王の部屋だ。

「────・・・“ターゲット”は決まったのか?」

 ウァンパイアの女王、Aが冷たい声で尋ねる。

「はい」

「そうか、ならよい。よいか、M。八月二十日の夜にそいつの血を吸うのよ」

 女王が厳しい口調でそう言うので、私―M―は

「はい」

 と、力強く答えた。

 ウァンパイアに名前はない。あるのはAやBなどのアルファベット。

 私の名は『M』。

 そして、人間の世界での名は『吉崎 海花』────・・・


 八月二十日に“ターゲット”の血を吸い、殺すことができれば、私は新たな力を手に入れることができる。そうすれば、私がウァンパイアの女王になれる。

 そのために人間の世界に行き、“ターゲット”を探した。生命力溢れる血を持つ人間を。

 その人間の血は力を手に入れるために必要な、特別な血だ。

 そして、そんな特別な血を持った“ターゲット”、それは・・・


 ────奏井 隼人────




 今日もいつものようにベンチに座っていると、あの男が話しかけてきた。本当に暇な奴だ。私と関わったせいで命を落とすというのに・・・

 あの男はまたどうでもいい話ばかりしていた。

 でも、今回は私も訊いてみたいことがあった。


 ────死ぬのは怖いと思うか?




「ねぇ」

 急に吉崎がまだ喋っている俺に話しかけてきた。

「死ぬのは怖いと思うか?」

 突然そんなことを訊いてくるので、俺は少し戸惑った。

 というか、吉崎から話しかけてくるのが初めてだから戸惑った。

「それは・・・人それぞれだと思うけど、俺は怖いとは思わない」

 と、少し考えて答えた。

 でも、吉崎には答えとしてまだ足りなかったようで

「なぜだ?」

 と、さらに訊いてきた。

 なぜだ?と訊かれても困る。そもそも、最初の質問にこれだけ早く答えただけですごいと思ってもらいたい。

 まぁ、そんなことを考えていても仕方がないので、俺はさらに考えてみる。

「なぜ・・・俺は基本的に、怖いと思うようなことがない。・・・ウァンパイアだって怖いとは思わないし、ウァンパイアに殺されそうになっても俺は逃げないと思う」

 そう答えると吉崎は、そうか、と素っ気なく言った。

 あんなに訊いてきたのに、あんなに考えたのに、そうか、という一言だけだなんて。少しは、考えてくれてありがとう、とかそういうのはないのか。言葉には出さなくとも、態度に出せよ。

 そんな風に思ったが、俺は何も言わなかった。

 そのあとは二人とも、喋ることなく帰った。




 ────ウァンパイアに殺されそうになっても俺は逃げないと思う


 あの男はそう言っていた。

 私はそんなことを言う人間がいるとは思わなかった。誰だってウァンパイアでなくとも、誰かに殺されそうになれば逃げると言うと思った。

 けど、あの男は違った。

 嘘をついているわけでも、見栄をはっているわけでもないようだった。

 意外と、あの男は厄介かもしれない。




 ここは、ウァンパイアの巣。

「M!Mはいるか!」

 女王の呼び出しだ。

 私、Mこと吉崎 海花は女王のいるところへ向かった。

「お呼びでしょうか、女王さま」

「例のことは聞いたか?」

 例のこととは、死ぬのは怖いと思うか?、というのをあの男に訊いてくることだ。

 私は女王の命令で、あの男に訊いたのだ。

「もちろんです、女王さま」

私は不適に笑って答えた。

「それで?その“ターゲット”は何と答えた?」

 女王は厳しい口調で訊いてくる。

「怖いとは思わない・・・そう答えました。理由を聞いてみると、基本的に怖いと思うようなことがなく、たとえウァンパイアに殺されそうになっても逃げないと答えました」

 私の答えに女王は眉間にシワを寄せて

「そうか・・・意外とそいつの血を吸い、力を手に入れるのは難しいかもしれない」

 と、言った。

 そんな女王に私も

「私もそう思います」

 と、答えた。

 生への執着がない。つまりそれは、生命力溢れる血を持っていても、その執着がないだけで血の質が落ちてしまうということ。

 そんな血を飲んでも、力を手に入れられるかわからない。それも、女王になれるほどの力を。

 だけど────・・・

「M、念のために他の“ターゲット”も────・・・」

 女王が言い終わる前に私は答えた。

「いいえ。他の“ターゲット”を探す必要はありません。必ず“ターゲット”の血を吸い、殺し、そして、新たな力を手に入れて女王になってみせます!!」

 こんなことで、“ターゲット”を変えるわけにはいかない。

 あの男の生命力は普通じゃない。あれを逃すわけにはいかない。

 多少質が落ちてもかまわない。あの男の血ならば力を得られないほどのものじゃないだろう。

 大丈夫。毎日のように一緒にいたのだから、あいつの血がどれ程のものか、私にはよくわかっている。

 女王は私の力強い決意を聞いて、不適に笑ってみせた。

 「・・・いいでしょう。必ず殺せ!そして新たな力を手に入れたとき、その街の人間を一人残らず殺せ!!」

 女王はそう言った。

「はい、女王さ────」

 今度は私が言い終わる前に、女王が言った。

「いいか、M。しっかり人間共を殺す計画をたてろ。できるだけ人間が苦しむような計画をな。特に、“ターゲット”の男は。理由はわかるだろう?一番厄介な人間だからだ。何かあれば、私や身近にいる強いやつに言え!もし失敗して人間共どころか“ターゲット”すら殺せなかったら・・・そのときはM────・・・お前を私が殺す。そのつもりで計画をたてろ。頼んだわよ」

 そして、奥の部屋へと消えていった。

 女王は女王となるほどの実力の持ち主。当然、ウァンパイアの中で最強の存在だ。


 ────お前を私が殺す


 そうならないように、しっかりと計画をたてなければ。

 だから────・・・悪いけど、私の代わりに死んでちょうだい。奏井 隼人。いや、この街にいる人間共!絶対に逃がしはしない。どんな力を使ってでも、殺してやる。

 この街の人間を殺したら、この地球の人間も一人残らず殺してやる!

 そして、この地球すべてを私たちウァンパイア一族のものとする。それこそが、私たちウァンパイア一族の目的だ。最低でもこの街の人間を殺し、残りの人間を私達ウァンパイア一族が支配するのだ。

 その目的のために、私は女王になろうとしている。なんとしても成功させなければ・・・

 これが八月六日の出来事だった。

 人間共に残された時間は二週間。せいぜい楽しむといいわ。残された時間を・・・


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