高く、小さく
168センチ。それが僕の身長だ。
173センチ。それが君の身長だ。
勝ち負けと言うのは、どうしてこう人を不機嫌にしてしまうのだろう。「気にすることないのに」なんて言葉が優しさだとしても、慰めにしか聞こえないのは僕の心が見た目通りに小さいせいだろう。本当に、小さすぎる。毎日飲んでる牛乳も、流石に心までは大きく出来ない。・・・ 別に身長も大きくなってはいないけど。
男の方が身長が高いと言う誰が作ったか分からない定番。そんなことない、気にしたこともないなんて言葉は僕の心をえぐるだけ。本当に気にしてないなら言葉にせず黙ってればいいだろ!
・・・そんな意味を込めた言葉に「もういい」と言われて数週間話せてない。やってしまった、仕方ない別れるか。
なんて、広い心を持ってない僕は勇気を出して近づいて無視されて泣きそうになる日々を続けている。学校で避けられるなら! 家に帰ってから文字を打ち込む、そして消すを繰り返してる。更に君から連絡こないかなぁ、なんて。どうも僕の心はミジンコ並みの小ささらしい。いやもはやミジンコに失礼なほどかもしれない。ごめんなさい。
「はぁぁぁぁ・・・・」
だってさ。好きだから、カッコつけたいじゃん。君は僕が守るんだ! なんて言ってみたいじゃん。それがさ、君より小さい僕が言ったら・・・・ なんか、かっこわるいじゃん。
「フラれる、かなぁ」
自分で言って、泣きそうになる。嫌だ嫌だ、すっごい嫌だ。君と別れるくらいなら身長も男らしさもいらない。
『君が好きです。別れたくありません』
結局文字任せ。本当に、小さい。ここまで追い込んで出来たのがこんな情けない文章。
間抜けな通知音。多分、人生初の速さで画面を確認したと思う。
『どんなところが、かな?』
悩んだのは、数秒。あとは考えるより先に指が動いた。
『可愛いところとか。笑った顔とか。ちょっと身長高いことを気にしてるとことか。お腹すいたのごまかすところとか。私服が可愛いところとか。』
一旦区切って送信ボタン。更に続きを打ち込んでたら、君から返信が来た。
『ストップ!・・・ 残りは明日、聞きたいです』
それを読んだことで指が自然と止まる。明日、話せる? 机の上の置時計は、PM8:24と表示していて。今日だけは、時間の流れを遅く感じた。
◆◆◆
「おはよ」
「・・・ おはよう」
数週間ぶりに、君が迎えに来てくれて。興奮であまり眠れてない頭を必死に動かして、君の横を歩く。
「あのさ」
「はい。な、なんでしょう」
「私は、私らしく生きたいんだ」
「えっと、はい」
・・・あ、これは。私は自由にいきたいから僕といると不自由に感じてしょうがないって、あれか? イコール別れ話・・・
「だから。君と別れたくありません」
「・・・・ へ?」
「だからぁ。こんな私ですが、どうぞよろしく」
「で、でも! 僕、小さいし。ネガティブだし!牛乳飲んでも身長が君より小さいままだし!かっこよくもないし」
ああ、もう、ダサすぎる。もっと男らしく、かっこよくしたいのに・・・・・
「かっこいい、よ。少なくとも、私にとっては」
そう言って、君は少し早足になる。僕の少し前を、歩けるように。
・・・つまり。わ、別れなくていいんだよね? 君の彼氏で、いていいんですね?
最終確認したいけど、ちょっと、早くない? ま、待ってくださいよ!
無意識で君の手を掴んだ。・・・ あ、手は小さい。僕より。
「・・・あの」
「え、あ!? ご、ごめん!」
「いや別に、離さなくても」
え、あ、し、しまった! ここでかっこよく手を繋ぎなおせ!・・・ る訳もなく。
「で、でも! 手は僕の勝ちだね! やった!」
「・・・ うん。そうだね」
そう言って、君はまた僕の少し前を歩き始める。僕はそれを、早足で追いかける。
君の隣、歩けば分かる勝ち負け。でも君は、それでいいと言ってくれた。
「とにかく。牛乳飲んで君より身長高くなるよ!」
「・・・ 私、牛乳嫌いだよ」
完