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ふるい  作者: ぬばたま
4/5

暗い屋敷


「それでは旦那、夕刻にお迎えに上がります」

「頼んだよ」


 古い日本家屋の前で喜介と別れた。

 今や無人となった祖父の屋敷は既に廃れ始めていて、雑草は伸び放題だわ腐食した桶が転がっているわで、廃屋と呼ばれても可笑しくはない程だ。

 こうして見て見れば、古いと思っていたあの頃は風格のある古さだったのだと実感させられる。住人の居なくなった家屋はこうやって死んでいくのだろうと考えると少し物悲しい気持ちにもなった。


「やれ、いけないな」


 感傷に浸りに来た訳ではない。目的を果たさねば。

 そう考えて雑草で沢山になった玄関口を通り過ぎ、持っていた鍵で玄関の戸を開く。

 暗い

 玄関を見て、一番に浮かんだ感想はそんなものだった。何十人もの靴が並べられるのだろう玄関は、板張りに真っ直ぐ廊下が続いていて、昔はこの玄関を見ると他の親族の事を考えて気が引き締まったのだ。少しの緊張と、久々の顔を見る期待で。

 それが見る影も無く、ひっそりと静まりかえっている。少し寂しさが増したのは言うまでもない。

 

「仏壇は――もう無いんだったか」


 この家に来て一番にする事は仏壇に手を合わせることだったが、無人の家に仏壇を置いておく訳にはいかず、当然だが他の家に世話を頼んだ。

 家を守る先祖も居なくなって、本当にこの家は一人っきりになってしまったのかもしれない。だからこんなにがらんとしている。

 下駄を脱いで板張りの廊下を進んでいく。外は明るいというのに屋敷の中は暗闇に侵食されていて記憶の風景が嘘のようだ。

 

 真っ直ぐ伸びた廊下の突き当たりを右へ。それから直ぐに見える襖を開ける。

 ここは大部屋だ。元は仏壇があった部屋で宴会場としてもよく使われた。縁側の障子からは太陽の光が洩れていて、この部屋だけは明るい。昔はがらんとしたものだったが、今は物置のように大量の箱や荷物が積み上がっている。

 山のようにある、これらが我楽多の一部だ。

 

「これは大変なことになりそうだ」


 先まで感じていた寂寥せきりょうも何処へやら。今や山のような物品にすっかり参ってしまいそうな心持ちになる。

 

「しかし、やらねばなるまいさ。うん、うん」


 自分に言い聞かせ、閉じられた襖を全て開けていく。強い光が差し込んで積もった埃の舞い上がるのがよく見える。

 全て終わる頃には真っ黒になっているに違いない。考えながら側に置いてある箱の中身を開いたのだった。


 

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