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ふるい  作者: ぬばたま
3/5

化ける

 

「知っているかい、喜介。外の国では月日の経過した住宅の方が高く売れるんだぜ」

「へえ。それなら新しい家は安いんですかい」

「そうらしい。私も人づてに聞いた話だから、どの国までかは知らないが、そうらしいのだ。

私はなんだが面白くってね」

「そりゃあまた、どうして」


 車はならされた道を外れて、でこぼこの多いあぜ道を進む。田んぼと田んぼの間の道をがたがた鳴らしながら走り抜け、向こうに見えてきた林をのんびり眺めながら返答を返した。

 

「つまりだ、向こうでは新しいもの程、価値が低いって事だろう。建物に限った話だけれどね。此方(日本)とは価値観が真逆で、何だかそれが面白い」

「日本では古いと傷んで駄目だと考えるんでしょうが――古いものにはほら、付加価値があるものも多い、だからでしょうかね」

「そういうのもあるだろう。偉人の住居だったり、歴史的な建造物は言わずもがなだが、此方と向こうで建物に関する税も違ったりするとか。けれど向こうでは普通の住居でさえそうだ、一つのものを大切に何度も改築して長く良くさせる。

ならばこそ、どうして我が国は古いものの価値を低く見るのだろうね」

「そりゃあ、あれでしょう」


 喜介は一呼吸置いて

 

「此方のモノは、化けますから」


 何でもないふうに、そう云う。


「付喪神とも呼びますでしょう」

「モノに宿るあやかしもの、だったか」

「ええ。確か、そんなもんでしたかねえ

建物もモノでしょう、旦那」

「違いないね」


 違いないが。だが

 

「私はね、喜介」

「へい」

「古いものは、良いモノだと思っているのさ」

「良いもの、ですかい」

「そうだ。

古いものは味がある、惹きつけられる何かがある。最後には金になるものもあるのだから、嫌う要素は何処にもないのだよ。無論、善悪のつけられるような類いのものではないのは重々承知だがね」


 しかし、私は長年疑問なのだ。

 

「一度、たった一度だけれどね、我楽多を見ていた私に祖父が零したのだ。

――古いモノは、悪いものだと」


 急に変わった話題を訝しんで、喜介は私の顔色をちらりと窺う。私はその様子を視界の端に認めながらも、知らぬふりをして窓の外を眺めたままでいた。

 車は長閑のどかな田んぼを抜けて、林が両側に割れた道に入り込む。あとはこれを真っ直ぐ進むだけだ。

 


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