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ふるい  作者: ぬばたま
2/5

死体に集る


 先日、祖父が亡くなった。

祖父は古びた大きな屋敷に住んでいる地主で、大層お金も持っていたそうな。

今思えば頑固を形にしたような老人で、にこりとしている所は見たことがなかった。不快だと言わんばかりの仏頂面は人を寄せ付けず、言葉数が少ないのも手伝って親戚から煙たがられていたのを覚えている。

 寂しい人だったのだろう。祖父が死んだその後、真っ先に親戚縁者は大喜びで金を分け合った。誰彼だれかれは金を、誰某だれそれは土地を、好き勝手に財産を死体からはぎ取っていった。深い皺を刻んでいたあの老人を悼む声等、聞こえてはこなかったのだから。

 私が葬式に線香にと準備をしている間に大本の資産は全部が全部、誰かの手に渡っていたのだから笑えない。


「それで旦那は、その家を分与されたと」

「押しつけられたとも言えるがね」


 私は今、喜介の運転で件の屋敷に向かっている所だった。

 祖父が暮らしていた家は古いが大きい家だ。正月や盆には親戚が集まり、無論私もその集まりによく連れて行かれたものだった。古い家だからあちこちが傷んでいて、床が軋んでいたり場所によっては隙間風が入ってきたりしていたか。何時の物なのかもわからぬ我楽多がらくたも多く転がっていて、引き取るには面倒が多すぎると誰もが考えたに違いない。


「私は小心者だからね。死体に(たか)るような精神が出来ていないのだよ。

死人に口なしとは言うが、化けて出られちゃあ目覚めが悪い。けれど売ろうにも手間で、引き取り手も無いのだと言われたなら仕方がないじゃあないか」


 言い訳のように並べた台詞は言葉にしてみると言い訳にしか聞こえない。どう言い繕った所で財産として受け取ってしまえば同じ穴の狢だ。

 事実だけを並べれば、そこに違いはない。


「そんなもん同じでしょうに」


 頭の足りない、けれど本心でしか喋る事の出来ない、喜介のこう云った所を私は気に入っている。

 

「旦那の事だ、その我楽多に良いのがあったんでしょう」

「それは見てみない事には何とも」

「ほら見ろ、そちらが本題じゃあありませんか」


 転がる我楽多は古物が多い。何時のモノなのかわからぬ陶器や桐の箱に詰め込まれた何か達。ツテがなければ二束三文でしか売れぬが、ツテがあってそれが希少品ならどうだ

 

「古いモノは化ける、あの頑固な祖父はよく云っていた」

「ははあ、金子きんすに化けると。あやかしものよりもそちらの方がそりゃあいい」

「そうだろうとも」


 幾ら親族達とは違うと言葉にしてみた所で、本音をさらけ出せば矢っ張り同じ、欲に塗れた本心が滲み出る。

 屋敷を売ろうにもある程度元手がいるのも確かで、管理をするにも同じ事だ。先立つものは金、だから自分は何もやましいことはしていないのだと、嘘を付いた。

 

 

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