狡いって? 俺の能力チートだもん
トラックに轢かれて短い命を終えた俺、こと狡山智絃は、現在みなさんが良くご存じの空間に来ていた。
「やっぱり、チートをお願いします!! なにとぞ、なにとぞチートな能力をお願いしますっっ!!」
神々しい光を放つ神様に、俺は土下座の姿勢のまま、頭を擦り付けて前進していく。
「先程から口を開けばチート、チートと。何故ゆえそんなにチートを欲しがる?」
「いまも少し昔も異世界チートは、特定高校生達の『あこがれる就職先No.1』なんです!! それが目の前にあるんですよ!! 全力で掴み取りたい所存であります!!」
いま、本気を出さなきゃいつ出すんだ!
もはや、自分の鼻など凹んでしまえと、俺は顔を地面に擦り付けた。
「仕方ないのう。だが、強い能力には代償が必要じゃ。チート能力なら……お主の若さを代償にしなければならん。要するに親父になってしまうが、それでも欲しいか?」
お、親父!?
「そ、それは、どれぐらい親父なんでしょうか?」
「そうさなぁ……50歳ぐらいかの」
……正直、50はきつい。
きついが……短くてもデッカイ花火を上げてやるんだっ!!
「それでお願いします!! 剣と魔法の世界ですよね?」
「ふむ、それぐらいはサービスしてやろう。新たな人生を楽しむがよい」
「ありがとうございます!! ありがとうございます!!」
俺は異世界で第二の人生を歩むことになった。
憧れの剣と魔法の異世界に降り立った俺は頑張った。
自分でも信じられないぐらい頑張ったんだ……なのに。
「……チイトさんってズルい」
「貴様、狡いにも程があるぞ!!」
「お客さん、その商品を買うなんて狡いんじゃないですか?」
誰も俺を称賛しない。
誰も俺の頑張りを認めてくれない。
冒険者のランクアップだって、依頼者の求めているニーズをきちんと聞いた結果だ。
薬草採取にしても、使用する目的で取り方が変わることも知らない冒険者たち。
そんな馬鹿達より俺が評価されるのは当然だ。
作物の被害も、ただゴブリンやビッグラビットを全滅させるだけでなく、何匹か酷い目にあわせてわざと逃がした。
そうすると、他のゴブリンやビッグラビットもその場所に寄ってこなくなる。
これは、ギルドの資料室に書いている基本的な知識だ。
なのに、アイツらは全滅、全滅……どこのバーバリアンだよ!
そんなことするから、森でゴブリンやビッグラビット達を食べてた上級モンスターが、村を襲ってるんだぞ!
そのことを冒険者のアホどもに教え、ギルドで講習会まで開くように手配してやったのに……
ギルドに媚びを売ってズルいだと?
……まあ、冒険者は許す。
アレは猿だ。
だが、ギルドの連中は許さん!!
俺、ギルドに貢献しまくってるよね?
講習会で貰ってる報酬も、ほとんどボランティアだよ?
何がズルいんだよ!!
俺の名前は狡山だぞ!
狡井さんじゃねえんだよ!!
いっぺん、そんな風に切れて言ったら「その名前がズルい」ってさ。
開いた口が塞がらないって、本当にそうなるんだな……
貴族と領主、お前も同罪だ。
貴族の坊っちゃんが難癖つけてくるから、正々堂々と勝負してやった。
それでも、狡いって言うから素手で相手してやったよな?
最終的に10対1&片手で相手したんだぞ、俺……
それで、狡いって……
そんなんじゃ、本気になれないって……
うん、俺は本気になれたよ?
素晴らしいブラッディカーニバルを開催してしまったよ?
わっしょい、わっしょいと貴族を神輿&太鼓にしたのは良い思い出だ。
領主は霊主にクラスチェンジした。
俺の魔物の森がスタンピードを起こしたのだ。
だって、モンスター達のスタンピードから町を救った英雄を、狡井さん呼ばわりするから……ね?
まあ、三日後に意識を取り戻したらしいけどな。
次は仮就職では済まさん。
そして、現在……俺は武器屋のおっさんに「狡い」って言われている。
定価の3倍で解体用のナイフを買ってやったのに……だ。
「……ほう、俺はズルいか?」
「お客さんのお金自体がズルして貰ってるんだろ?そんなお金に買われちゃ、どんな商品でも可哀想だよ」
「なるほど、俺のお金はズルいか……」
俺は武器屋の壁に掛けてある、一番高価でデッカイ両手剣を掴んで、そのまま金も払わず外に出ようとした。
「お、お客さん。お金も払わず、商品を持ち去るなんて、狡いぞ!!」
「ああ? どうせ俺の金は狡いんだろ? なら、金を払う必要なんかないよな?」
「そ、そんな、狡い! 狡いぞ!!」
俺は自棄になって叫んだ。
「そんなに狡いって言うなら、衛兵でも何でも呼べば良いだろっっ!!」
「衛兵の現状を知ってるだろ!? 狡い!」
はぁ?
衛兵の現状って、今朝も普通に見回りしてたぞ?
「何言ってんだよ! さては、お前がズルしてやがるな?」
「そんな言い方狡いぞ!!」
それからも、おっさんは「狡い! 狡い!」と言うだけで、俺を本気で咎めようともしなかった。
……あっ、わかったぞ。
それから、俺は自分のチート能力を検証して、今は魔王城の玉座でゆっくりワインを飲んでいる。
魔王?
魔王なら俺の隣でメイドさんをやってるぞ。
「今晩はお前で決まりだな。元魔王のマーリンちゃん」
俺はぷるぷる震えるメイド魔王の手を握り、ゆっくりと撫でてやる。
「くっ、狡いぞ。我が断れないと知りながら、そのようなことを……。親父は……狡い……」
「はっ、格好いい親父ってのは、狡いぐらいで丁度いいんだよ。なあ、お前達?」
俺の目の前には、金銀財宝や食べきれない程の美食、美酒。
そして……
「はい、チイト様は狡いお方です」
「チイトってほんとズルいよね」
「……狡い」
「フゥー! ズルすぎるニャ」
…………などなど、目についた美女、耳にした美人がずらりと目の前に並んでいる。
「くっくっく、はっはっは…………」
こうして俺のチート人生は始まった。
狡いって?
俺の能力チートだもん。