放課後の真偽
「あれっ?シグマさまのマントが無い!」
脱衣場に忘れてきちゃったのかな?
部屋で横になっていたエレンは身を起こしてシグマの姿を探した。
(シグマさま、いない!どうしよう…)
―その頃、シグマは休憩所に佇んでいる杏果に。
「僕が着ているこの白いマント、杏果さんは何処にあるかご存知ですね?」
いつもの淡々とした口調で訊ねた。
「さぁ、分かりかねます。」
杏果は風の様にはぐらかす。
「嘘ですね。それは今あなたが隠し持っている。」
シグマは続けた。
「しかもあなたはその女性にしては大きいサイズからして、そのマントを僕の物だと判断した。
「…どうして?どうして私が所持していると?」
「その訳はあなたは知っている筈です。」
「魔法使い…それも大魔法使いだから?」
「分かっているなら返してくれませんか?」
「嫌よ!」
「返しなさい!!」
滅多に感情を大きく出さないシグマが声を張り上げた。
「なら、条件があるわ。圭吾の、私の婚約者の元に私を行かせて。彼と同じ世界に私も行きたい!!」
「やっぱり…いや、何でもない。」
空気を変えたいと思い、シグマは杏を誘い出した。
「杏果さん、少し外に出て星でも眺めませんか?」
シグマは紳士の様な言葉づかいで、杏果を庭へと誘い出した。
「…ええ。少しでしたら。」
冬の大三角を見たかった。
それにシグマと歩いていると何故かそんなに寒くなかった。
旅館の別館の庭から見える夜空は輝く星たちでいっぱいだった。
「わあっ!綺麗ですね!!」
「杏果さんもお綺麗です。」
「そんな事を言ってもマントは返しませんよ。」
「必ず取り返します。」
そして笑顔を消すシグマ。
まっすぐに杏果に向き合った。
「杏果さんは、成仏されないのですか?」
少し探る様な言い方だ。
「…出来ないんです。」
「どうして?」
詰め寄るシグマに圧倒されて杏果はたじろいた。
「自分でも分からないけれど…多分、この世に未練があるから―。」
瞬間、シグマは杏果を抱きしめた。
「違いますよ。あなたがいつまでも成仏出来ないのは、あなたが人間だからです…!」
「!?やめてください!放してっ!」
杏果は必死で抵抗するが、男の力には敵わない。
「こんなに体温を感じる幽霊なんていない!」
「それは温泉で…」
「それでも人並みの体温にはならない!」
シグマは杏果を抱きしめながら続けた。
「もう一つ質問して良いですか?それに答えて頂けたらこの手を離します。」
「な、なんでしょう…。」
シグマは射抜く様な眼差しで問いかけた。
「あなたは本当は自分が幽霊などではなくて、生きている人間なのだと自覚している―違いますか?」
杏果は俯いた。
暫く沈黙した後、口を開いた。
「シグマさん、すべて合ってます。あなたの言うとおり、私は幽霊ではない。生きた人間。葉月さまや、かんなさまと同じ人間です。―ただ、事情があって生きてはいけなくなったんです。私は死ななきゃいけなかった。『あの人』だけを死なせたくなかった…!」
急に降りだした雨の様に杏果は泣いてしまった。
「圭吾の元に行けないのなら、圭吾を生き返らせてよ!!」
「それは不可能ではありませんが―。」
「だったら!」
「我々はすべての願いを叶える事は出来ないんです。」
「どういうこと?」
「善の願いと悪の願いを両方叶えようとしたら、どうなると思われますか?」
「あ…。」
「あなたは圭吾さまを生き返らせてどうするのですか?歴史は繰り返されます。一時的に彼が生き返ったとしても、数日後、再び彼は亡くなってしまうでしょう。それでも良いのですか、杏果さん?」
「嫌よ!!どちらも嫌!でも、もういいです…受け入れるように努力します。こちらはお返しします。ごめんなさい。」
深くお辞儀をするとシグマに白いマントを返すと宿へ向かって走って行った。




