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放課後の魔法使い

その頃、あり得ないって思うかも知れないけれど二人の魔法使い…一人は正確には大魔法使いが地球に行く準備をしていた。

「ここが地球ね。日本はー、えーっとどこ??」

「ここだよ。」

くいっ。天体望遠鏡の様なクリスタルの杖の角度と、少女の顎をずらす若い男性。

「きゃあっ!しっ、シグマさまぁ!!」

「こらエレン、大きな声を出すなよ。ここが何処だか分かっているだろう?」

「はい…天体移動ルームです。」

「ここは日本でいう図書館みたいなものなんだ。だから静かに、な。」

「はい…ごめんなさい。それにしてもシグマさまって地球の―特に日本の事に詳しいですよね。どうしてですか?」

「…昔いたからね。」

「へ?」

「ほーら。お喋りしない!」

耳元でそっと囁かれ、ドキドキしてしまう。

ガラス越しに映る二人の姿は、兄妹みたいでエレンは少しだけ切なくなった。

(別に、憧れてるだけだもん…。)

シグマさまが私の教育担当になったと聞いた時はとても嬉しかった。

だって、それってシグマさまを独占出来るって事だから!

早く一緒に魔法を使いたいな。シグマさまに教わった魔法をすべて覚えたい。

そして、私もいつか大魔法使いになって世界を癒したい。

シグマさまの様に―。


「行き先は木浦様の旅館だ。準備は出来たか?」

「えっ、もう行くんですか?」

「先方からは今夜来て欲しいと言われている。」

「はっ、はい!今すぐ着替えて来ます!」

「時間がない。これを羽織っておけ。」

「ありがとうございます!!」

それはシグマさまがとお揃いで、魔法使いの証である白いマントだった。

シグマさまの香りがする…なんて変態な事を考えていると。

「俺の匂いでも付いてた?」

「!」

心を読まれてしまった。

「別に、臭くないです!むしろ良い香りというか…好きです。」

「俺の事が?匂いが?どっちにしても、エレンは変わってるな!」

「シグマさまを好きになってしまったら教育担当が変えられてしまいます!!そんなの嫌です。」

涙目のエレンを見て、シグマは純情だなぁと思った。

「大丈夫だよ。」

「え?」

「教官に頼んであるから。『エレンを最後まで面倒見させて下さい』ってね。」

「シグマさまぁ!」

抱き付くエレン。それを拒まないシグマ。

それはシグマはエレンを妹の様に思っているから。

エレンも気づいている。自分はシグマに妹みたいに思われているって。

それがちょっと、淋しい。


「出発するぞ。手を繋いで。」

エレンはまだ一人で星への移動が出来ない。

だからシグマの背中を掴んだ。

「手を繋いでって言ってる。」

シグマは振り向くと、エレンの小さな手を取った。

「大丈夫だから。」

「…はい。」

星への移動は一瞬だけれど、手を繋いでいる時間はとても長く感じた。


「着いたぞ。…懐かしいな。」

「え?」

そこは以前シグマさまがおっしゃってた温泉宿の前だった。

「…どこから入るんですか?」

「女将には裏口から入るように言われている。」

「裏口…?」

「中居さん…旅館の従業員さん達が出入りする所だよ。」

「へぇ。」


「ごめんください。今夜約束したシグマとエレンです。」

すると、老夫婦がゆったりとした足取りで出てきた。

「わざわざ遠くからありがとうございます。」

「いえ、気になさらないで下さい。」

「杏果さんを…どうか宜しくお願いします。」

夫婦揃って頭を下げられたので、エレンはまさかお見合いでもするのかと思った。

けれど、そうではなくて。

もっと深刻な事だった―。


「あのっ、シグマさま…。」

「うん?」

「お、お部屋は…私達の。」

「一緒だよ。この旅館は人気で、別館もあるけれど…出来るだけ杏果さんの側にいて欲しいとの事だから、同じ部屋にしてもらった。嫌だったらごめんな?」

「…嫌じゃないです!シグマさまのお側にいられて嬉しいです。」

満面の笑みを浮かべて言うと。

何も言わず、少し照れた様な笑顔を返してくれた。

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