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 今日は朝から目が回ってしまうほどでてんてこ舞いでした。

 風呂に入れられて色々な物を擦り込まれ、上がれば髪を散々弄られています。

 中々決まらない髪型に辟易していました。適当でいいと思ってもそうはいけません。

 何せ王妃様の誕生を祝う為の舞踏会ですから、力を入れないと軽んじていると言う事になり我が家は村八分にされてしまいます。

 それだけは避けなければいけません。ですから欠伸を噛み殺して耐えます。

 そうして出来た髪型はサイドを編んで後ろに纏めたものになりました。

 化粧は自然に見えるように手早く行われ、額に薔薇をモチーフした模様が描かれます。

 これは初めての舞踏会なのでお手柔らかにというメッセージが込められていたりします。もし多少の粗相をしてしまっても国花の薔薇が守ってくれるのです。

 失敗するつもりは全くないけれど、保険があるのとないのでは精神的な負担が違います。

 今度は桃色のシフォン素材を使ったAラインのドレスと私の色に合う宝石選びがはじまりました。

 数あるアクセサリーを近づけてああでもないこうでもないとしてようやく、花の形を象ったインペリアルトパーズのネックレスにイヤリング、それらに決まりました。

 石言葉は誠実、友情、潔癖という私に似合わないものに内心苦笑いしました。

 それに薄い桃色のショールを羽織って完成です。勿論微笑みを携えて完璧な子爵令嬢の出来上がりに密かに満足します。

 部屋を出る時は戦場に向かう気持ちで身を引き締めます。




 今夜の私のエスコートは幼馴染のライレッド・ストークスのようです。

 アルバーレ家の紋章の入った馬車の前にいました。

 この国の舞踏会デビューには必ずエスコートする男性が居なければいけないのです。

 私の従兄弟に男の子がいるのですが、まだ幼い為に幼馴染の彼に白羽の矢が立てられたのでしょう。

 彼は赤髪をオールバックにしており、目つきの悪いオリーブ色の目をこちらに向けました。

「ライル、今夜はどうぞよろしくお願いします。」

 愛称で呼ぶと彼は目を細めた。ライルは親しい人間には愛称で呼ばれる事を喜ぶ質らしくてそうしているのです。

 彼は堅物で言葉数は少ないですが目は口程物を言うという事を体現した人でした。

 目を見れば何を思っているか分かりやすいので、接しやすいのです。

 とはいえ分かりやすいだけでそれだけで、人が本当は何を思っているのかなんて分からないですから油断は禁物です。

 そんな彼は伯爵令息です。歳は私の二つ上なのです。

「嗚呼、ブラン綺麗だな。」

 彼のお世辞に礼を言って馬車に乗り込む。

 馬車が動きだした。



 馬車の中でライルと世間話をしている間に到着したようだ。

 ライルが先に降りて手を出されたので、それに手を乗せて降りる。

 降りるとそのままライルの腕にそっと手を沿わせる。

 真っ直ぐに会場に向かって歩く。

 煌びやかな会場だった。大きなシャンデリアの下、人が蠢いている。私には地獄絵図のように見えてたまりません。

 隙を決して見せてはいけない。隣に立つライルにでさえ気を許してはいけないようなもはや強迫観念とでも言うものが私の中にはありました。

「あら、ブランチェスカさん御機嫌よう。」

 現れた彼女は私よりも二つ上でピンクゴールドの髪にサファイアの瞳。髪はコテで巻いたのだろう。いつもより一層派手になっています。

 彼女の名前はリッチェル・フランゾールド。伯爵令嬢だ。ぞろぞろと三人の取り巻きを連れて歩いて来ました。ちなみに私も彼女の取り巻きの一人だったりします。

 この人はいつも私に構ってくるから苦手です。五年前にお父様の付き添いで彼女の家にお邪魔した時からお茶会にもよく誘われるので仕方なくいつも行くのです。

 何故私のようなつまらない人間につきまとうのか理解出来ません。

 何を考えているのか分からなくて恐いです。そんな事をおくびにも出さずに完璧な淑女の礼をします。

「リッチェル様、皆様御機嫌よう。」

 片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ背筋を伸ばす。

 ちゃんと出来てホッとしました。勿論表情はいつもの微笑みを乗せています。

 その時ライルも知り合いに声をかけられていましたので、リッチェル様とお話しする事になってしまいました。

 嗚呼早くこの地獄が終わればいいのに。


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