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こんな夢を観た

こんな夢を観た「ヘリコプターの免許を取りに行く」

作者: 夢野彼方

 アマゾンで「タケコプター」を買ったら、「この商品を買われた方は、こんな商品も買っています」と言われる。

 本物のヘリコプターだった。ジャスト1億円、とある。

「高っ! 誰が買うのさ、こんな物」そう言い捨てながら、思わず「ショッピング・カート」に入れていた。


 買ってしまってから、「あ、ヘリコプターの免許持ってなかった」と気づく。お届けは明後日、クロネコヤマトにて宅配、と記されていた。

「どうしよう、それまでに免許取らなきゃ」


 ネットで調べると、近所の自動車教習所でも、ヘリコプターの操縦を教えてくれることが判明する。

 わたしはさっそく、申し込みに行った。


「すいません、ヘリコプターの免許を取りたいんですけど」受け付けに声を掛ける。

「あ、はい。それでは、こちらの書類に記入をお願いします」そう言って、数枚の用紙を渡された。

 わたしはボールペンでさらさらと必要事項を埋めていく。書類を返すと、

「はい、結構です。費用の方ですが、300万円をいただきます」

「えっ……。高いんですね」アマゾンをポチッて買ったヘリコプターは、月々6万円ずつのローンだ。教習代を併せて、計1億300万円かぁ。何年たったら、払い終わるんだろう……。


 さっそく教習場へと連れて行かれるわたし。教官は渡哲也にそっくり。びしっと軍服のような制服に身を包んでいて、真っ黒なサングラスを掛けている。

 教官は規律正しくも、どこか優しさを滲ませた声で言った。

「わたしが君を指導する。教場を出た後は、もう誰も君の面倒を見てはくれない。言い換えれば、今のうちに思う存分、失敗をしておくとよろしい。ぶつけても落としてもかまわない。ヘリの限界というものを、身をもって体感しておくんだ」

 

 一般の自動車教習が行われているコースの横を通り、ゴミ置き場のすぐそばまでやって来る。

「いきなり実機というわけには行かない。まずは、こいつで練習だ」

 乗るように促されたのは、デパートの屋上で見かける、子供用遊具そっくりのヘリコプターだった。機の横っ面には、剥がれかけたペンキで「すーぱーへり1ごう」とある。

 わたしは「すーぱーへり1号」にまたがった。傍らをゆっくりと走りすぎていく教習車の運転席で、くすくすと笑う声が漏れる。


「先生、うんともすんとも動かないんですけど」わたしは言った。

「すまん、すまん。言い忘れていた。100円を入れて欲しい。それで50分間の搭乗ができる」

 ポケットから財布を取り出すと、なけなしの100円玉を機械に投入する。

 とたんに、ヘリコプターの練習機がガックン、ガックンと揺れ始めた。

「ああ、動きました、先生」

「うむっ……」教官は満足そうにうなずく。「今日から1週間、毎時間、これに乗ってもらう。まずは基本からだ」


 ヘリコプターが届くまでに、免許は取れそうもないな。

 今年中に取得できるのかさえもわからない。そもそも、こんなことをやっていて乗れるようになるのか。先行きが心配になる。

 教官はただ、黙って見守っているばかり。まるで顔の一部のように貼り付いたサングラスのせいで、何を思っているのか1つも読めない。

 それでもわたしは、「すーぱーへり1ごう」の上で揺られているより他はなかった。

 月々6万円、それと教習代300万円。今さらやめられない。


 また1台、4輪教習車が笑いながら脇を抜けていく。 

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