表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

第1章 ニューヨーク編 ~白き幕開け~

 これは、世界平和を願う青年ホワイト・ローズとその同志たちの物語である。


「追いかけっこはここまでだ!観念しろ、バッドホーク!!」

 ホワイト・ローズの力強い声がブルックリンの路地裏に響き渡る。

「ぐっ・・・」

 前方は行き止まり。後方にはローズ。

 この状況ではストリートギャング気取りの暴漢・バッドホークといえどもなす術は見出せそうになかった。

「こ、この俺様が大人しく連行されると思ったら大間違いだぞ!」

「おっと、悪あがきかい?怪我をする前にやめといた方が身のためだと思うけどな。」

「うるせェ!喰らいやがれ!!」

 やぶれかぶれで拳をくり出したバッドホークだったがその一撃はローズの左手にがっちりと受け止められていた。

「な・・・な・・・!」

「貧相な攻撃をありがとう。ならば次は僕の拳を君が受け止める番だな。」

「ちょ、ちょっと待て・・・」

「ローズパンチ!」

 ガゴッ!

「ぐがっ!」

 ローズの拳が顎に直撃し、バッドホークは気を失ってその場に崩れ落ちた。

「ローズさん!」

「ローズさん、無事でしたか!」

 程なくしてローズの仲間たちが駆け寄ってくる。

「ああ、君たちも大丈夫だったかい?」

「もちろんです!ちょっと怪我はしたけれどバッドホークの手下たちは一人残らず捕獲して市警に突き出してやりました!!」

「ご苦労!じゃあ後は彼の身柄を警察に引き渡して今日は解散だ!」

「はい!」

 こうして、ニューヨークの町に一つ平和が訪れたのであった。


「ただいま。」

 ブロンクスの自宅に帰ったローズは、手洗いとうがいをすませると足早に居間へと向かった。

「パパー!」

「おかえりなさい。そして今日もご苦労様。」

 居間では娘のマゼンタと妻のナンシーが笑顔で出迎えてくれた。

「なに、町の平和のためならどうってことないさ。それに・・・近々遂行される大型ミッションの前ではこんなもの準備運動の段階に過ぎないよ。」

「パパ、大型ミッションってなーに?」

 マゼンタが不思議そうな表情でローズの顔を覗き込む。

「マゼンタには関係のない話だよ。ほら、あっちでララやラックと遊んでおいで。」

「はーい!」

 聞き分けの良いマゼンタは、一家の愛猫ララ(アメリカンショートヘアー・♀)とラック(オシキャット・♂)を両脇に抱えると、そのまま子供部屋と戻っていった。

 そして後にはローズとナンシーと、最年長の愛猫ラブ(アメリカンショートヘアー・♀)が残ったのである。

「市長からの要請でね。今現在ニューヨークの犯罪の全てを操っているという悪の組織“ドラゴン”を市警と僕たち自警団の共同戦線で殲滅(せんめつ)するよう依頼を受けたんだよ。」

 ソファに腰掛け、膝元に飛び乗ってきたラブの喉をゴロゴロ鳴らしながらローズは話を続ける。

「市警の入念な捜査によると彼らのアジトはマンハッタン。組織の親玉は・・・マイケル・ドラゴン!」

「な、なんですって!」

 その名前を耳にした途端、ナンシーの顔色がいささか青ざめたかのようだった。

「だって彼は以前あなたが・・・」

「ああ。前に彼がこの町で悪事を働いていた時に僕と僕の仲間たちで組織を壊滅させて彼を投獄させることに成功したはずだったんだけど・・・程なくしてまんまと脱獄されてしまったみたいでね。」

「脱獄・・・」

 驚きの事実にナンシーはただただ驚愕する。

「僕も最初に聞いたときは驚き呆れたものさ。でも、心配はいらない。君もマゼンタも、ニューヨークの人々も僕らが必ず守ってみせるから。」

「あなた・・・」

 心なしかナンシーの顔に赤みが戻ってきたかのようだった。

「さて・・・堅苦しい話はここまでにして食事の支度をしてくれないか。そろそろ君の手料理が恋しくなってきた。」

「ふふ、そういう事なら喜んで作っちゃおうかな。デザートにはアップルパイを用意しておくから期待して待っててね☆」

 すっかり気を良くしたナンシーは、そのまま厨房へと姿を消した。

 そんな彼女に安堵したローズはラブを抱きかかえてそのまま自室へと引き上げたのである。


 それから3日後の早朝、(くだん)の大型ミッションが幕を開けたのであった。


 自警団“アップルパイ”。

 自警団を名乗るにはいささか微笑ましい名称の一団が、ニューヨーク市警たちと徒党を組んでマンハッタンの一角にそびえ立つ犯罪組織のアジト・ドラゴンタワーへと進撃を開始する。

「僕らの町が世界の模範都市であり続けるために彼らを退治して治安を守るぞー!」

「オー!!」

「善良な一般市民の生活を守るために彼らを退治して平和を取り戻すぞー!」

「オー!!」

 ローズが先頭で鼓舞しながら勇ましく歩みは進んで行く。

「USA!!USA!!」

 しかし、その歩みはドラゴンタワーの手前で停止を余儀なくされる。

「お前ら・・・楽しそうじゃねェか。」

 そこには数多の軍勢が待ち構えていた。

「これはまた随分と大勢でのお出迎えだね。悪いけど僕たちが用があるのはあの5階建ての悪趣味な塔であって君たちではないんだよ。道を開けてくれないかな?」

 少し先に見える塔を指差しながらローズが尋ねる。

「そいつは出来ねェ相談だ。何せこの一帯は俺ら“ドラゴン”構成員の縄張りでな。組織の人間でもない奴らは好き勝手に動けない決まりになってんだ。分かったら金目の物を置いてとっとと出て行きな。」

「じゃあ、金目の物もよこさずに出て行かないならどうなるのかな?」

「そりゃあお前、抵抗も出来ずにこのハングリービースト様のサンドバッグになるんだ・・・よっ!」

 ドゴオッ!!

 “ハングリービースト”を名乗る男が拳を振り下ろした1秒後、右の側頭部を蹴り上げる鈍い音が辺りに響き渡った。

 ローズの振り上げた左足が見事に炸裂したのである。

「うが・・・が・・・」

 “ハングリービースト”を名乗る男は目を剥いてその場に崩れ落ちた。

「やれやれ、サンドバッグにする前にノックアウトされちゃあ抵抗のしようもないってね。」

 一つため息を吐くとローズは仲間の方を向き直る。

「さあ、この調子で残りの構成員たちも倒していこう!」

「オー!!」

 一度は歩みを止めた一同だったがローズの一声で再び進撃を開始して“ドラゴン”の構成員たちへと突撃を仕掛けたのであった。

「ひ、ひるむなー!返り討ちだー!!」

 そして、全面対決の火蓋が切って落とされた。


 アップルパイとニューヨーク市警の精鋭たちは次々とドラゴンの構成員たちを圧倒した。

 しかし、多勢に無勢で次から次へと敵が現れてくるので息つく間もなく、目の前のドラゴンタワーにたどり着けない状況が続いていた。

「どうやら・・・単独行動やむなしという事か。」

 事態を重く見たローズは眼前の構成員と戦闘を繰り広げながらも数名の仲間たちに目配せをする。

「・・・・・」

 目配せを受けた仲間たちが全員首を縦に振って親指を立てる。

「・・・感謝!」

 そう言って、眼前の構成員を一本背負いで投げ飛ばすとローズは快足を飛ばして他の構成員たちの目をかいくぐり、ドラゴンタワーの中へと単身で潜入を果たしたのであった。


「よく来たな。俺はドラゴンタワー1階の番人デービス・マーチンだ。」

 自己紹介とともに鋭い目つきをした中年男性がローズを睨みつける。

「僕はホワイト・ローズ。この塔の最上階で悪事を企てているマイケル・ドラゴンに用があってここに来た。」

「それは残念だ。貴様は今からドラゴン様に会うこともかなわずここで朽ち果てるのだからな!」

 デービスは拳を構えると間髪入れずにローズに襲い掛かった。

「くらえっ、アイアンストレート!」

「おっと!」

 ボゴ!

 寸前のところでローズは回避してデービスの拳は壁に命中した。

 その一撃で壁には小さなヒビが入っていた。

「ふん、かわしたか・・・まぁいい。どの道この俺の鉄の拳をどうにかしない限りお前に勝機などないのだからな。」

「なんだ。その拳を砕けば勝てるのなら思ったより簡単な相手だという事か。」

 軽々しい口調で言い放ったローズの言葉をデービスは聞き逃さなかった。

「何だと・・・ならばこの鉄の拳を思う存分味わってみろっ、アイアンストレート!!」

 ガシッ!!

「な、何だとっ・・・!」

 怒り心頭で放ったデービスの拳は、ローズの左手にがっちりと受け止められていた。

「は、離せ!」

「あなたの自慢の鉄拳も僕の骨にヒビを入れることは不可能だったみたいですね・・・今度はお返しに、僕の握力を思う存分味わってもらいましょう、ローズアイアンクロー!!」

 受け止めた左手にローズは力を込める。

「ぐあぁぁぁっ!!」

 悲鳴とともにデービスの拳の骨はメキメキと音を立てて砕けた。

「・・・悪に肩入れしたあなたの責任だ。」

 激痛によるショックで気を失ったデービスを壁際に寝かせると、ローズは2階へと進んだ。


「ほぉ・・・デービスを倒してしまうとは面白い奴だ。だが貴様とてこのわしは倒せまい。」

 大男がローズを見下ろしながらニヤリと笑う。

「あなたもすぐにデービスのようにしてあげるから心配はいらないよ。」

「その言葉、このパワフル・キラー様がすぐに後悔させてやる!くらえ、ハンマードロップ!!」

 大男パワフル・キラーは肉厚の両手を組むとそれを振り上げ、ローズめがけて一気に落下させた。

 ガッ!

 頭部に直撃する寸前でローズは自身の両手を使ってそれを受け止めた。

「なるほど、確かに見かけのとおりパワーに関してはなかなかのものを持っているみたいだな・・・だけど、それだけで僕に勝てると思ったら大間違いだ!」

「ななっ!」

 そして、それを両手でがっしりとつかむとパワフル・キラーごと投げ飛ばしてしまった。

 ゴオォォォォン!!!

 頭から壁に突っ込んだパワフル・キラーがそのまま起き上がってくることはなかった。

「そこで力任せの格闘スタイルを後悔し続けるがいいさ。」

 誰に聞かせるでもなくそうつぶやきながら、ローズは3階へと進んだ。


 ビシュッ!

「!」

 3階に上がるや否やいきなり飛んできたその弓矢をローズは間一髪でかわした。

「ここで飛び道具のお出ましとは随分と素敵な歓迎だね、お嬢さん。」

 眼前で強張った表情を浮かべるネイティブ・アメリカンの少女を見据えながらローズが片膝をついた姿勢からゆっくりと立ち上がる。

「わたし、お前倒す。そしてマイケル様からギャラもらう。だから覚悟する!」

 少女が弓矢を構えて再びローズへと放つ。

「悪いけど、こっちも無条件でやられるワケにはいかないんでね!」

 ローズが再びかわすもまたすぐに矢が飛んでくる。

「かわしてもムダ。わたしいくらでも矢、持ってる。お前、男なら潔く射抜かれる。」

 発射から数秒で次の発射。そしてまた数秒で次の発射。

 矢継ぎ早に飛んでくるその攻撃でローズは少女に近づくことも出来ずにいた。

 ~このままでは埒が明かないな・・・彼女の弓矢攻撃が発射から次の発射までに要する時間は推定2秒。ならば、その間に彼女の注意を逸らして隙を作ることが出来れば・・・よし!!~

「お前、いい加減観念するっ!」

 ビシュッ!

 少女が放ったその一発をよけた次の瞬間、ローズは両手を叩いて大きな音を立てた。

 パァァァァン!!!

「!」

 一瞬、音に驚いた少女の動きが止まる。

「今だ!!」

 その一瞬をローズは見逃さなかった。

「ローズスライディング!!」

 ドコッ!

 ローズのスライディングタックルを受けた少女はその場に転倒した。

「悪いけど、これは没収だ!!」

「やだ、やめる!」

 そして、ローズは背後から少女が持っていた矢を入れている牛革製のケースを取り上げたのである。

「・・・さて、君の生命線であるこの攻撃道具は僕の手に落ちてしまったワケだけど・・・まだ続けるかい?」

 少しイタズラな笑みを浮かべてローズが問う。

「もう終わり。わたし、それないともう打つ手、ない。・・・わたし、負けた。」

 少女は転倒した状態から起き上がろうともせずにそのまま仰向けに大の字となる。

「わたし、負けた。だから煮る焼くお前決める。」

「いや、煮る気も焼く気も全くないんだけど・・・良かったら、君の名前と君がどうしてこんな組織で活動をしているのかを僕に教えてもらえないかな?」

「・・・お前、わたし、殺さない?」

「もちろん。さぁ、女の子なんだからそんなところで寝そべってないで早く起きて。」

 ローズが手を貸して少女を起こしてやる。

「・・・ありがとう、お前、良い奴。」

 ローズに礼を言うと、少女は自分の素性をゆっくりと語り始めた。

「わたし名前ユマ・ハートソン。アリゾナ州ある先住民居住区生まれた。中学まで普通、暮らしてた。でも家、お金ない。だから高校行ってない。だけど地元、仕事無い。だからわたし、仕事探しニューヨーク来た。でも、どこもわたし相手してくれない。そしてある日マイケル様出会った。」

「そうか・・・この大不況で君には辛い日々が続いていたんだね・・・」

 少女ユマ・ハートソンがさらに続ける。

「マイケル様仕事ないわたし、組織、入れてくれた。わたし、雑用、なんでもした。でも・・・でも、わたし給料もらえなかった。」

 ユマの声がやや涙ぐむ。

「わたし、大した仕事してない。だからお金もらえない。パンもらう、おわり。水もらう、おわり。そんな時マイケル様言った。お前倒せ、言った。そしたら給料払う、言った・・・」

 その先は涙で詰まり、言葉にならなかった。

「分かった、もう十分だ。」

 ユマの肩に手を置いて、ローズは話を遮った。

「本来ならば君の今後の処遇を今すぐにでも決めておきたいところだけどその前にやるべき事が残っているからね。しばらくここで待っていてほしい。」

「・・・分かった。わたし待つ。おまえ戻るの待つ。」

「それと、これは君に返しておくよ。」

 没収したケースをそのままユマに返すと、ローズは4階へと進んだのであった。


 屈強そうな男がローズを待ち受けていた。

「俺の名はダークタイガー。“ドラゴン”のNO.2にしてマイケル・ドラゴンの腹心だ!我が組織に仇を成す命知らずのホワイト・ローズ!今日であの世に消えてもらうぜ!!」

「残念だけど消えてなくなるのは君たちの組織の方だ!」

 両者が構えて戦闘が開始した。

「受けてみろ、ローズパンチ!」

 ビュッ!

 ローズの放った一撃はダークにあたることなく空を切る。

「おせーんだよ!タイガーストレート!!」

 ビシィッ!!

「ぐあっ!」

 組織“ドラゴン”構成員たちとの戦いで、今回初めてローズは敵の攻撃をまともにくらってしまった。

「まだまだ!ジャンピングタイガードロップだ!!」

 ドゴッ!!

 ダークのドロップキックが胸部を直撃してふっ飛ばされたローズは壁に背中を強く打ちつけた。

「どうだこの野郎!ケンカ慣れしてる俺様の前じゃあお前の攻撃なんぞ一つも通用しねーんだよ!!」

「・・・果たしてそうかな?」

 蹴りを受けた胸部をさすりながらもローズにはどこか余裕そうな雰囲気が漂っていた。

「ダークタイガー。確かに君の攻撃には威力もスピードも備わっていて申し分はない。今までの相手との違和感もあって僕も対処できなかったワケだが・・・もう見切ってしまったよ!」

「ふん、下らんハッタリはやめておけ。後でいらぬ恥をかくだけだぞ。」

「ハッタリかどうか今から試してみるといい。さっきの攻撃をもう一度僕にやってみろ!」

「おもしれェ!!ならば二度とその減らず口が叩けねエぐらいに痛めつけてやるよ!!」

 ローズの挑発に刺激されたダークは自慢のドロップキックを何度も繰り出した。

 しかし、ローズはそれをいとも簡単に回避し続けたのである。

「ちっ、こざかしい野郎だ・・・ならばこれでKOにしてやるよ!」

 ダークが右の拳を強く握りしめる。

「くらえっ!タイガーストレート!!」

「・・・ローズヒールクラッシュ!!」

 その一撃こそがローズの狙い目だった。

ここぞとばかりにダークの拳めがけて右足のかかとを振り下ろす。

グシャァッ・・・!

「・・・っ!!」

 鈍い音が響き渡った次の瞬間、ダークの拳の骨は粉々に砕けていた。

「ローズエルボー!」

 苦痛で動けないダークめがけてローズはすかさず追い討ちをかける。

 ドゴッ!

 ローズの肘撃ちが胸部を直撃して、今度はダークが壁に背中を強く打ちつける番だった。

「形勢逆転、というヤツだね。」

 満面の笑顔とともにローズはダークへと歩み寄る。

「・・・悔しいが、降参だ。」

 左手を上げてダークは観念した。

「マイケル・ドラゴンへのご奉仕はもう終わりにするのかい?」

「ああ、もう悪事は懲り懲りだ。就職難でいつの間にかこんなところに来てこんな事をし続けていたがもう終わりにするよ。・・・また、どっかに居ついて一から出直しだ。」

「そうか・・・どこに居つくのかは知らないけど、頑張りな。」

「・・・お前もな、ホワイト・ローズ!」

 余力を振り絞って立ち上がると、ダークはおぼつかない足取りで階下へと下りて行き、ドラゴンタワーから姿を消した。

 そして、ローズはためらう事なく5階へと進んだのであった。


「ここまでたどり着くとは大したものだ。あの時から少しも力が衰えていない辺り流石はホワイト・ローズと言ったところかな。」

 組織“ドラゴン”創始者にして親玉のマイケル・ドラゴンはそう言ってローズの登場を出迎えた。

「マイケル・ドラゴン・・・大人しく罪に服していれば良かったものを脱獄をした上に性懲りもなくこのような組織を作って悪行を重ね続けるなんて見下げ果てた男だ。」 

「そう軽蔑してくれるな。今回私はお前と一つ取り引きをしたいと思っているのだよ。」

 玉座に腰掛けたままマイケルが続ける。

「ローズよ、この私の新たなる腹心となるのだ。そうすれば組織の半分をお前にやると約束する。悪い話ではないだろう?」

「・・・起きたまま寝言を言えるなんてやはりあなたはただ者ではないみたいだな、マイケル。」

 しかし、ローズはその取引に応じようとは一切しなかった。

「一つだけ言っておく。組織もあなたも今日で終わりだ!」

 力強い声で右の人差し指を突き付けながらローズが言い放つ。

「ほう・・・あくまであの時のようにこの私を倒すというワケか。」

その一言と仕草に激昂したマイケルはゆっくりと玉座から立ち上がった。

「愚か者め!思い知らせてくれるっ、ドラゴン脚!!」

 即座にマイケルの回し蹴りが飛んでくる。

「おっと!」

 うまくかわしたローズがすかさず反撃に転じる。

「ローズパンチ!」

 ビュッ!

「ローズエルボー!」

 ビュッ!

「ローズハイキック!」

 ブンッ!

 だが、マイケルの怪しい動きにそれらは全てよけられて、あたりそうな気配はどこにも見受けられなかった。

「無駄だ!この“ルーンウォーク”の前では全ての攻撃は無効化されてしまうのだからな!!」

「へぇ、脱獄後にこんな技をあみ出していたとは恐れ入る限りだね!」

「その通り!全ての者がこの私に畏怖と敬意の念を持ち、この私の駒となって思うがままに動くのだ!くらえっ、ドラゴン高速拳!!」

 マイケルの無数の拳がローズに容赦なく襲い掛かってきた。

 バシッ!ドコッ!

 拳の雨が次々とローズを打つ。

 ローズは懸命にガードするもののそれでも間に合わない状況が続いていた。

「なるほど、当時に勝るとも劣らないこのスピードには確かに脅威を感じる。だけど・・・それでも勝機は僕にある!!」

 痛めつけられながらもローズは言葉を紡いだ。

「まだそのような戯れ言をぬかすか!ならばもっと我が拳の雨に打たれ続けるがいい!!うおぉぉ~っ!!」

 威勢良く拳を繰り出し続けていたマイケルだったが、その勢いは10分ともたなかった。

 ローズのガードは次第にマイケルの拳に追いつき始め、ついには全ての攻撃を防ぐようになったのである。

「はぁ、はぁ・・・何故だ、何故あたらんのだっ!!」

「あなたの攻撃が僕をとらえられなくなったその理由・・・それは二つ!!」

 ガードをしながらローズが言葉を続ける。

「一つ!後先考えずに高速拳を繰り出し続けていたあなたはスタミナ切れとなり知らぬ間に高速拳はスピードダウンを起こしていた!」

「何だと・・・」

「そして二つ目は・・・」

 ガシッ!

 マイケルの両の拳を両手でつかみ、ローズは力を込める。

「ぐあぁぁぁっ!!」

 苦痛に表情が歪むマイケルを尻目にローズがさらに言葉を続ける。

「単調な動きに僕が攻撃のパターンを覚えてしまったという事だ!!」

 ドゴオッ!!

 そしてそのままマイケルを壁に投げ飛ばしてしまったのである。

「おのれ・・・まだ終わりではないぞ、ドラゴン脚!!」

 ガシッ!

 深手を負いながらも再び回し蹴りを繰り出したマイケルだったが今度は完全にローズの右腕に防がれてしまっていた。

「さあ、次は僕の番だ!」

「バカめ!ルーンウォークで全てかわしきってくれるわ!」

「ローズスライディング!!」

 ガッ!

 またしても意気揚々と怪しい動きを繰り出していたマイケルだったが今回はその一撃で簡単に転倒してしまった。

「その技は足元の攻撃には全く意味を成さなかったみたいだね。」

「ぐ、ぐぬぬ・・・ニューヨークの支配者は私だぞ・・・」

 起き上がろうとするマイケルの前にローズが立ち塞がる。

「な・・・」

「マイケル・ドラゴン・・・これで終わりだ!!ローズヒールクラッシュ!!」

 ガゴォォッ・・・!!!

「・・・世界に平和の灯火を!!」

 鈍い音が響いたその一撃は、確実にマイケルの頭蓋を直撃して骨を砕いていた。

 この一撃でマイケル・ドラゴンは絶命し、組織“ドラゴン”は終焉を迎えたのであった。


 一方その頃、アップルパイとニューヨーク市警の精鋭たちも人数的な不利をものともせずに“ドラゴン”構成員たちを圧倒していた。

「ま、参った・・・降参だ!!」

 最後の一人が投降し、戦いはローズたちの勝利をもって幕を閉じたのである。


 親玉マイケル・ドラゴンと数名の死者。

 投降したものも含む数多の逮捕者。

 どさくさに紛れて姿を消した逃亡者。(ダークタイガーを除いては後日全員身柄を確保)

 組織“ドラゴン”に携わった者の全てが散々な末路をたどりながらその報いを受けていた。


・・・ただ一人を除いては。


「ニューヨーク、夜寒い。わたし、風邪ひきそう。」

「ワン!!」

「いいかい?僕が留守の間は君たちがこの家の警備員だ。妻と娘と猫たちをよろしく頼むよ。」

 元ドラゴンタワー構成員ユマ・ハートソンは一旦警察に身柄を確保されたものの組織内での活動は雑務だけで表立った悪事に一切携わっていなかったのが幸いして程なくして無罪放免となった。そして、その日からローズの計らいでローズ家に居候の身となったのである。

「寒いのならこれを着ておくといい。」

 ローズがコートの入った袋をそっとユマに差し出す。

「おまえ、やっぱり良い奴。わたし、この家守る。こいつ、相棒してこの家守る。」

 長年ローズ家の番犬を務めるクロイツ(ドーベルマン・♂)の頭を撫でながらユマがもう片方の手で袋を受け取る。

「大事に着るんだよ。」

「ローズさん、おのろけはいいから早く!」

 アップルパイの仲間に苦笑いでせかされてローズはそっちを向き直る。

「おっと、そろそろ行かなくちゃね。じゃあ後は頼んだよ!」

 仲間たちと一緒に警備活動に出向いたローズの背中をユマは見えなくなるまで見送り続けていた。

 夜の町は肌寒かったが、人々の心はどこまでも暖かく、心に染み入るようだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ