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パンドッグとは耳がコッペパンの様なイヌ型の魔物である。
群れでの行動を好み、大体6~10匹、多いときには30匹の群れで現れたりする。
「8匹か。ミーア問題ないか?」
「大丈夫です。」
ミーアはそう言って右手に杖持ち、構える。
パンドッグは下から2番目のFランクに相当する魔物である。
大きさも体長1メートルに程に過ぎず、魔物の中では最も小さい部類に入る。
さらに顎の力も弱いため、殺傷能力も少ない。
しかし、あくまでも1匹のランクがFランクなのであって、8匹グループ討伐の時にはランクはDランクまで上がる。
何故かというとパンドッグには華麗な連携攻撃があるからである。
パンドッグは俺達を綺麗な円状に囲んだ。均等に8方向にばらけて徐々に距離を近づけてくる。
それに対し、俺とミーアもお互いに背を向け、反対方向を見るようにした。
俺達を囲む円が半径10メートルより小さくなる。
そこで俺も剣を構え、身体強化の魔法をかけた。
「来ます。」
ミーアの声と共に、8方向からパンドッグが突っ込んでくる。
そして、4匹が上半身、もう4匹が下半身に向かって牙をむけた。
「ふんっ!!」
上半身に飛び込んできた1匹を剣で真っ二つにし、もう一匹は右手の小手に噛ませた。
そして下半身の1匹を蹴飛ばし、もう一匹は躱す。
――ギャワン
蹴飛ばされたパンドッグが悲鳴を上げた。
「ミーア。」
俺はそれだけ言って、ミーアが魔法壁で弾いた4匹に向かい3度剣を振るい真っ二つ、もう一匹は顔を蹴飛ばした。
さらに右腕に噛みついていたパンドッグを地面に叩き付け、頭を踏み砕く。
その間にミーアは俺が躱したパンドッグに向かい杖の先端を叩き付けた。
頭蓋を砕かれたパンドッグは即死した。
そして最後に蹴飛ばされてふらついている最後の一匹の首を跳ね飛ばすと、一息ついた。
「まあこんなもんか……。」
「結構楽でしたね。」
剣と靴についた血を洗浄魔法によって綺麗にする。
血は煙のように消えていった。
パンドッグは一度に全匹で攻撃を仕掛け、さらに攻撃する場所が死角になるように分散する。
これがランクが上がり始めてすぐの冒険者には辛く、小さい魔物だからといってなめていると大怪我や最悪死に至る可能性がある。
しかし、AランクとBランクの二人には全く問題なかった。
ちなみに魔物に定められているランクは、同じランクの冒険者が4人のパーティーを組むことで、ほぼ失敗することが無いものだとして決められている。
いくら冒険者の仕事が危険だと言っても、クエストのたびに死傷者を出していては人がすぐに足りなくなってしまう。
よって安全にクエストをこなせる指標をランクとして定めているのである。
このランク制度によって今出ている死傷者は、昔出ていた死傷者の四分の一以下になったとされている。
「さて、今夜はこいつの肉料理にするか。」
「はい、腕を振るいますよ。」
俺とミーアはそんな会話をしながら、散らばっているパンドッグを処理していった。
パンドッグの後に魔物と戦うことはなかった。
小型魔物はいたのだが、パンドッグの血の匂いがしているのが遠巻きにこちらを見ているだけで、近寄って来ようともしなかった。
「そろそろ野営の準備でもしようか。」
しばらく歩き続け、辺りが暗くなり始めたところで野営の準備をはじめた。
周りから燃えそうな枯れ木を集め、火をつける。
寝袋は火から少し離れたところに置いて、準備は終了した。
人は暗い中で視界が悪くなると、一気に戦闘力が落ちる。
中には夜中でもよく見える者もいるらしいが、そんなのは本当にまれだ。
なので、暗くなったらむやみに動き回ろうとはしない。それは冒険者の鉄則であった。
「どうぞ。」
火の周りで料理をしていたミーアが、夕飯の入った木皿を渡してくれる。
今日の料理は、きのこと山菜とパンドッグを炒めたものとパンである。
「おお、これは美味そうだ。」
ミーアは笑みを浮かべながら、夕食を食べている俺を見た後に、自分の分を食べ始めるのであった。