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8話投稿しました。
「本当に何も言わないで行っていいんですか?」
「ん、まあな。別にわざわざ伝えることもないだろう。帰ってくるのが何日後かもわからないしな。」
ミーアを連れていくと決めた日から2日が過ぎた。
今まで住んでいた部屋は引き払い、使っていた家具などは、次に住む人がそのまま使えるように置いてきた。そして、今ミーアとギルドから出てきたところである。
俺達は何年も世話になったギルドにあいさつをしてから旅に出ようということに決めた。
ギルドでは受付の人などと話をしてきた。
どうやら今俺とミーアがこの町からいなくなっても、冒険者の人数的にはさほど問題はないらしい。
まあこれも冒険者を多く登録する方向に持っていったギルドマスターであるユイナのおかげってのが大きかった。
ちなみにユイナはいなかった。
ケンイチ=カミヤも。
どうやら二人とも重要な用事が出来たらしく、しばらくは帰ってこないのではないかということだ。
イライラもするし、その重要な用事っていうものが何なのかもすごい気になるが、隣で笑みを浮かべているミーアを見ていると、イライラも少し収まった気がした。
あと笑みを浮かべていたのは受付の人もだった。
入ってきた俺の顔を見るなりにやにやと怪しい笑みをこっちに向けてきた。
その後も終始笑顔で、ギルドを出るときに、
「お幸せに。」
とか言われたが、どうして幸せになのかわからなかった。
「じゃあ必要なものは持ったよな。」
旅をするにあたって必要なものは思いつく限りは全てそろえた。
大量の食糧や生活用品、戦闘で使うポーションなども買った。
この町に打っているポーションは5等級が限界であるが、多少体が傷ついたくらいでは十分問題にならないだろう。
部位欠損などの怪我を治すのには2等級以上のめちゃくちゃ高いポーションが必要ではあるが、この町にいる限りほとんど需要は無いので売っていない。
というか、作れる人が少なすぎてこんな小さな町で売ってくれるわけがなかった。
しかも仲間に僧侶のミーアがいる。
回復についてはかなり安心だった。
「じゃあ行くか。」
早めの昼飯を行きなれた定食屋で食べた俺達は、昼を知らせる鐘の前に出発した。
俺達は町を出てまず、西側の町を目指そうということになった。
と、失礼。俺は今まで自分のいた集落と、この町しか拠点にすることがなく、クエストで出かけた時もほとんど村や町の名前を気にしなかった。しかし、今度からそうはいかないと思うので、名前をちゃんと憶えていこうと思う。
まず手始めに、今までお世話になったこの町の名前はオオルリ。
そして、これから向かう町の名前はアサイである。
「……ホントそれ便利だよな。」
町を出てから1時間ほどが経過した。
まだまだここら辺は町の警備が行き届いているから魔物もほとんど出ない。
地面も比較的平らであり歩きやすい。
俺は隣で軽い足取りで歩くミーアを見て言った。
「ん、そうですよー。魔法使いや僧侶にとってまずこれは最初に覚えなければいけない必須の魔法です。」
そう言うミーアの
後ろには半透明の糸で結ばれた荷物が地面から20cm離れた空中に浮かんでいた。
運搬という魔法だ。
ミーアの指先から出ている糸状の魔法線が空中に浮いている荷物を引っ張っているのだ。
「この魔法がないと体力無い人はクエストどころではないですから。運搬と強歩の魔法を覚えて、とりあえず冒険者になれるって感じですもんね。」
強歩の魔法は歩みを強く、速くして長い距離を歩くことが出来る魔法だ。
難易度としては魔法の中で相当に簡単なものである。
ちなみに俺も強歩の魔法は使っている。この魔法は自分以外には使えない自己魔法の一つだ。
だから誰か一人この魔法が使えないと、クエストでは足手まといになってしまう。
俺も町に来て最初に覚えた魔法だ。かなり必死に覚えたような思い出がある。
運搬の魔法は共通魔法、まあ人にかける魔法ではないので少し意味は違うが、ミーアが俺の分の荷物にも使って持ってくれている。
へたれとか言わないでくれ。
運搬の魔法には限界があり、ミーアが運べなかったものを俺が背負って歩いている。
本当に運搬の魔法に熟練した人だと家を持って運ぶというのを聞いたことがある。
なので、人によって運べる重さ、大きさが違うみたいだ。
先程共通魔法といったが、これは自己魔法以外の全ての魔法のことをさし、他者に使うことのできる魔法という分類である。
「それにしても魔物全然いないですね。」
「そうだな。4年前はもう少しいた気がするよ。」
このまま進む方向を少し南西に変化させて進んでいけば俺の集落に辿り着く。
だからここら辺の道は何回も通っているのだ。
ちなみに動物はちらほら見かける。
動物と魔物の違いは何かといわれると、正直困る。
ぶっちゃけこれは人族が決めた基準なのだ。
脅威があるから魔物。大したことないから動物にするか、的な感じ。
だから地域によって魔物として扱われている生き物が、違う場所では動物として扱われているなんてことは結構あるのだ。
「あ、ウサギがいっぱいいますよ。可愛いなぁ。」
そう言って遠巻きにウサギを見ているミーアもウサギみたいだな、とか思ってしまった。
なんかウサギの耳とかあったらせわしなく動いていたかもしれない。
「狩るか?」
「もーう。」
食料は買ってあるので無駄な狩りはせず、どんどん歩いていく。
二人とも歩くのが早いので、アサイの町には明日の午後にはつくだろう。
そして、さらに西に進み王都に行こうと思っている。
王都ギネスクリア。
この国ギネスクリア王国の首都である都市は大きな壁に覆われ、その中や近辺には20万人もの人が住んでいるらしい。
オオルリの町の人口は8000人を超さない程度だったため、その差は歴然。
そう考えると俺の集落は塵同然であった。
――ワン、ワン
何処からか鳴き声が聞こえてきた。
これはあれだろう。
「たぶんパンドッグですよね。」
ミーアが俺に目配せする。
「そうだろうな。」
そんな会話をしてから10分後、俺達は8匹のパンドッグに囲まれていた。