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6話投稿です。
目が覚めると、自分の家にいた。
寝ている腰をおこし、狭い部屋を見渡す。
周りには誰もいない。
再び目をつむり、ただ昏々と考えを巡らしていく。
あの言葉は俺への言葉ではなかった。
ただ告白してきた男への返答だった。
あの時、偶然隣に俺がいただけであり、俺なんかその空間にあるものの一つに過ぎなかった。
彼女の世界に既に俺は存在していなかったのだ。
あまりの惨めさに、唇を噛み締める。
何もかも失った気がした。
人生が終わった気がした。
気が付くと頬から涙が流れていた。
止めどなく流れる涙は枯れることを知らなかった。
どの位時間が経っただろうか、静かに扉が開いた。
「ウォルスさん……。」
入ってきたのはミーアだった。
「喉乾きましたか?」
涙で濡れた顔を拭いもせずに首を横に振る俺。
彼女はそれを見て何も言わずに水を汲み、ベッドの隣に置いた。
「……出て行ってくれ。」
俺の口からそんな言葉が漏れた。
しかし彼女はその場を動こうとしない。
「出て行ってくれ!!」
今度は大きな声が出た。
「……嫌です。」
彼女はそう言うとベッドから少し離れたところに椅子を置き、そこに座った。
場を沈黙が包んだ。
「……頼むから。」
懇願するように声を絞り出す。
「嫌です。」
そんな俺に帰ってきた返事は変わらなかった。
しかもミーアはじっと俺を見たまま目を逸らさない。
「……惨めだよな。」
再び流れた沈黙の後、俺の口からそんな言葉が漏れた。
「ずっと隣にいるのは俺だと思ってたんだ。昔からユイナの隣にいるのは俺で、俺の近くにユイナはいてくれるものだと思ってた。」
一度開いてしまった口は閉じてくれない。
「俺がユイナよりも強くなったら結婚してくれる。それまでユイナは俺が強くなるのを待ってくれているって勝手に思っていたんだ。勝手に思い上がって、馬鹿みたいに目標決めて、馬鹿みたいに努力して……、馬鹿みたいに、俺は馬鹿だった。」
言葉も流れる涙も止まってはくれない。
「でも、本気で好きだったんだ……。」
その言葉を最後に、もう言葉は出てこなかった。
「……ウォルスさんは馬鹿なんかじゃないです。」
ミーアがぽつりと声を漏らした。
「好きな人のために頑張ることは馬鹿なことなんかじゃありません。好きな人のために努力して何が悪いんですか。ユイナさんを追いかけるウォルスさんを私はずっと見てきました。毎朝訓練して、毎日魔物と戦って、汗まみれて、土にまみれて、血にまみれて……、私は、そんなウォルスさんを惨めだとは思いません。格好良いと思います。」
ミーアの声は、始めは諭すように、そこから次第に大きくなっていった。
「好きな人のために頑張ることが惨めなら私はっ!!」
そして、最後に叫ぶように言うと、そこで口をつぐんだ。
彼女がこんなに大きな声を出すのを聞いたのは初めてだった。
再び沈黙が場を包んだ。
しかし、先程のような重い空気はなくなっていた。
「……また頑張ればいいじゃないですか。ユイナさんがいなくなった訳じゃないんですから。強くなりましょう。私も協力します。」
そう言ってミーアは泣きそうな顔で笑った。
あれほど止まらなかった涙はいつの間にか止まっていた。
それからすぐにミーアは帰って行った。
俺は一人考える。
そうだ、まだユイナが遠くへ行ってしまった訳じゃない。
ユイナが俺のことを見ていないことは分かった。
けど、それなら振り向かせればいいんだ。
まだ終わった訳じゃない、と。