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少し短いかもしれませんが、投稿します。

あと何話かでやっと物語が始まりそうです。


ユイナが、困った表情を浮かべているあの男に言い寄っている。

真っ赤な顔をして何かを言っているようだが、何も聞こえない。

目の前が眩む。体が寒い、いや熱い。わからない。

脳が煮えたぎりそうだ。腹も煮えくり返っている。

恐れていたことが起きてしまった。

何度も起こることが無いだろうと決めつけ、目を背けていたことが起きてしまった。

ああ、終わりだ。これを止める方法は一つしかない。


「あ、あのウォルスさ「ケンイチ=カミヤぁぁあ、俺と戦えぇぇ。」


自分から出たとは思えない声がした。


「なにを言い出すんだウォルス。」


「うるさい。関係ないだろ。」


関係大有りだ。ユイナがあの男と結婚するのを防ぐには俺がウォルスに勝つしかない。

実際、ユイナが結婚を申し込んでもあの男が断ればそれで終わりなのだが、ユイナは相当なレベルの美人だ。たぶん断らないような気がしていた。


「さあ、俺と戦え。」


「い、いや、何で。」


「いいから戦え。」


俺の視界にはケンイチ=カミヤしか映っていない。ユイナは豹変した俺に驚いたのか、言葉を出せずにいる様だった。


「剣を抜け。」


ケンイチ=カミヤは戸惑っているようだった。が、俺には関係ない。

「剣を抜けぇぇえ。」


俺はありったけの声量で叫ぶと、剣を抜き、ケンイチ=カミヤに切りかかった。


金属が弾ける音が鳴った。あの男も剣を抜いていた。


「それでいい。」


「何を言っても無駄そうですね。わかりました。相手しましょう。」


俺は剣を構え、あの男と相対する。


「ユイナ合図をしろ。」


「あ、ああ、は、始めっ。」


ただ茫然と合図するユイナの声を聴いて、弾かれるように前に出た。

俺は走りながら、瞬間的にとは言えないが1秒ほどで身体強化の魔法をかける。そしてフェイントを掛けつつ、切りかかる。

全力の身体強化の魔法によって上がった全力の剣は、いとも簡単に受け止められた。

だが、そのまま、次を繰り出す。

1合、2合、……、俺の全力の攻撃も5合打ち合う間に攻守が入れ替わっていた。

あの男の剣によって、体ごと弾かれる。


「くっそ。」


体制を立て直し、前に出ようとしたときには目の前にケンイチ=カミヤがいた。

振り下ろされる剣を見て、咄嗟に自分の剣で受け止めた。甲高い音が鳴り、剣が軽くなった。俺の剣の刀身が真っ二つに弾け飛んでいた。

俺は呆然とする。

その間にあの男が俺の鳩尾に蹴りを入れた。崩れ落ちて膝を着く。


そして冒頭に戻るのだった。






どうしてこんなことになってしまったのだろうか。


「あたし大きくなったらウォルス君と結婚するの。」


小さい頃のユイナはずっと俺と一緒だった。

村ともいえないほど小さな集落では子供が少なく、俺と同じ年の子供はユイナだけだったのだ。

一緒に遊び、一緒に畑仕事をし、一緒にご飯を食べたりもした。

もしかしたらユイナの近くにいる同じ年頃の男の子なんて俺しかいなかったから、ユイナは俺と結婚するなんて言っていたのかもしれない。

たぶんユイナの世界での男の子は俺ただ一人だけだった。

もちろん俺の世界での女の子もユイナ一人だけだったし、結婚するという言葉も本気で信じていた。

俺たちの世界はこの集落の中だけだったのだ。





しかし、転機は突然訪れた。


俺もユイナも12歳になった頃年の夏、ユイスの父親が死んだ。

ユイナを生んだ時に死んでしまった母親の代わりにずっとユイナを育ててきた優しい父親だった人だ。

俺は森から運ばれてきたおじさんの遺体を見た。

右肩から先が丸々無くなっており、そこは真っ黒に変色した血で染まっていた。

また足首を噛まれて引きずられたのか、足首にはくっきりと深い歯形があり、背中には引きずられたような跡があった。

俺は込み上げる吐き気を堪えられず、その場で吐いた。

だけど目を逸らすことは出来なかった。

ユイナは俺の隣でただ茫然と立ち尽くしていた。


その日からユイナは俺の家で一緒に暮らすことになった。

父親を失ったユイナは、あまり笑顔を見せることがなくなった。

たまに笑うことはあるが、その後に影が差したかのように表情は暗くなった。

俺も俺の両親もユイナを励ましたがあまり意味はなく、何も変わらないまま2カ月近くが立った。


そんなある日。


「私、冒険者になりたい。」


夕食の最中に突然ユイナはそんなことを言った。

あまりに驚いた俺と俺の両親は少しの間呆然としていた。

俺の両親は当然女の子にそんなことはさせられないと反対した。

しかし、ユイナの意思は揺らがなかった。

その日は話が進まないまま、寝ることになった。


その夜、ベットに入って眠りに着こうとしている頃に、ユイナは俺の部屋に入ってきた。

眠れないのだという。有無を言わさずベッドの中に入ってきた。


「なあ、どうしていきなり冒険者になるなんて言い出したんだ?」


少しドキドキしながら、気になっていたことを訊いてみた。

ユイナは少し沈黙した後、言葉を紡ぎ出した。


原因は偶然のようなものだった。

その日の昼間にユイナが隣の家付近を歩いていた時に話し声が聞こえてきたらしい。

内容は冒険者はこの村に来てくれないからユイナの父親は魔物に殺された、というものだった。

確かにこの村に冒険者はほとんど来ない。

ギルドのある町から距離の離れているこの集落に来る冒険者は物好きしかいないのだ。

しかも、周りの村や町とほとんど交易を持っていないこの集落では当然お金もほとんど持っていない。

だからそんなところに来る冒険やはほとんど皆無と言っていいものだった。


「だから私が冒険者になって、ここを守れるようにしたい。」


そう言ってギュッと身を固めたユイナに、俺は何も言うことが出来なかった。

この日からユイナはこの集落以外の世界を知ることになった。


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