22
22話を投稿します。
「俺とケンイチはここに来る前は親友のようなものをやっていた。」
カイトは落ち着いた後、ケンイチについて話し出した。
「ようなもの?親友ではないのか?」
俺の質問を聞いて、カイトは鼻で笑う。
「ふっ、あいつは俺のことを親友だと思っていたみたいだが、俺はあいつのことを親友だと思ったことは一度もない。それどころか、俺はあいつのことが嫌いだ。」
カイトの口は笑ってはいるが、目は笑っていなかった。
「そんな奴なら、さっさと手を切ってしまえばいいじゃないか。」
「無理だったんだよ……。俺のいた世界では学校というものがあってな、毎日そこに行って勉強をするんだが、俺とケンイチはずっと同じ学校、同じクラスだったんだ。しかも、周りは俺とケンイチが親友だと勝手に思っていやがった。ケンイチはクラスでは人気者だ。だから、ケンイチとの仲を否定するようなことをすれば、俺みたいな人間は簡単に仲間外れにされてしまう。俺は弱いからな。ケンイチとの仲が偽りだったとしても、それを否定して他の友達を失うことは避けたかったんだよ。情けないことにな……。」
カイトの口調は次第に弱くなっていった。
自分を責めるように吐き出した言葉に、俺は何も言えなかった。
「だからあいつを本当に親友だと思おうとしたこともあった。だけど、無理だった。俺はあいつを許すことが出来ない。」
「一体何があったんだ。」
俺は思わず聞いてしまっていた。
もしかしたら、ケンイチという共通の敵を持つ仲間を作りたかったのかもしれない。
「あいつは俺の初恋を奪っていったんだ。」
カイトはそう言うとギリッと歯を噛み締めた。
「別にそれだけならいいさ。俺だって諦めることが出来た。だけどあいつは告白された彼女にこう言ったらしい。君には僕よりももっとふさわしい人間がいるよ。ほら、カイトとか。ってな。俺はプライドを踏みにじられた気がした。彼女はあいつのことが本当に好きで告白したんだぞ。なのに、何で断る理由としてそれを恋の勝負に負けた俺を出すんだ。惨めすぎるだろ。自分が好きじゃないなら普通に断ればいいじゃないか。好きならば受け入れればいいじゃないか。それをあいつはなんで俺の顔色を見ながらそんなことを言うんだ。馬鹿にしているのか。」
カイトはそこまで言うと、顔を伏せ、机をドンと叩いた。
グラスに入っている酒が揺れた。
「ふぅ……、取り乱して悪かったな。」
顔を上げたカイトは笑みを浮かべていたが、まだ笑顔は少し引きつっていた。
「いや、別に構わない。」
「そうか。……とまあ、こんな感じで?俺はお前と同じくケンイチに恋で敗れた人間でしたっと。」
カイトはわざと明るい声を出しているように感じた。
「俺はまだ恋に敗れたわけじゃない。」
俺は咄嗟にカイトの言葉を否定した。
そうしなきゃ、自分が負けてしまうような気がした。
「そうだったな。悪かった。で、今お前と話をしてみて、何となく思ったんだけどさ、たぶん糞神の目的は俺とお前をケンイチと戦わせることだと思うんだよな。一度恋に敗れた者同士VS奪っていった奴ってな所か。だからここへお前たちを転移させた。違うかな?どうだろう。」
確かにカイトの言っていることは、確信に近いような気がした。
糞神の声を聞いたとき、とても楽しんでいるように聞こえた。
だとしたら、俺とカイトを使って遊んでいるのではないだろうか。
「俺はその勝負に乗ってやろうかと思う。」
カイトはそう言うと、にやりと笑った。
「ケンイチは強敵だ。あいつは運すらも味方するほど世界に好かれているような人間だ。何をやっても大体上手くいくし、失敗しそうになっても何かしらかが助けてくれる。長年一緒にいたからわかるよ。あいつこそ本物のチートって奴なんだろうな。俺も糞神からチートスキルを貰ったが、到底あいつには及ばない何かがある。だから……」
カイトはそこまで言うと立ち上がった。
「お前が勝てウォルス!俺がお前をサポートするから、あいつに勝って彼女を取り返してやろうぜ。糞神の目的とかはどうでもいい。俺はあいつがお前に負けるとこが見てみたい。一度も負けたことのないあいつがお前に負ける姿を。」
そう言われた瞬間心が震えた。
「ああ、俺はあいつに勝つ!」
俺は勢いに任せてそう答えていた。
その後、明け方近くまで飲んでお開きとなった。
俺とカイトは自分の部屋へと帰っていく。
俺は少し酔いが残った状態で考え事をしていた。
カイトがケンイチから同情を受けたという話を聞いたとき、俺は一瞬考えてしまった。
ケンイチはユイナに対しても同じように断ってくれるのではないかと。
一瞬でもそんな考えをした自分を呪った。
カイトが弱いっていうなら、俺はいったいどれだけ弱い人間なんだろうか。
なにが、ああ、俺はあいつに勝つ、だ。
自分が情けなかった。
俺はカイトの期待に応えるだけの強さを得ることは出来るのだろうか……。




