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2回目の投稿です。
昨日はあまり眠れなかった。
しかし朝日が昇り始めていたので、ベッドから体を起こした。
そして少し体操をすると、家を出た。
俺が住んでいるところは1階建ての長屋で、そこに何人かの人が部屋を借りて住んでいる。
家事は自分で行わなければならないが、宿よりもかなり安いので、こっちに住むようになった。
家の前に出て少しランニングをする。
それが終わったら家にある剣を取りに行き、素振りを始める。
これがいつもの日課だ。
俺がユイナよりも強くなるためにも絶対に欠かせないことだった。
「あ、ウォルスさん。おはようございます。」
素振りもそろそろ終わりにしようかと思っているところに声を掛けられた。
声をかけてきたのは、ミーアという女の子で、長い綺麗な白髪、クリッとした目の可愛いらしい子で、身長は俺よりも30センチ近く小さい。
白いローブを着ているので、とても清らかな感じに見せている彼女であるが、いつも頭に一本のくるんとしたアホ毛が飛び出ているので清楚かは微妙だ。
年は俺より2つ下である。
彼女は所謂、回復職で何回も俺と一緒にクエストを受けたことがある。
戦闘的なことはほとんど出来ないが、回復魔法に関してはかなりの実力を持ち、アンデット系の魔物に対しての聖魔法は頼りになる。
ランクはこんな小さい子でもBランクだというから驚きだ。
「あー、今小さいとか考えませんでした?こう見えて去年より1cm伸びていたんですよ。」
エッヘンと胸を張る彼女の胸は、まあ年齢的には平均的なのではないだろうか。まだこれからが期待できる。
少なくともユイナよりは小さいが。まあ、あいつのが大き過ぎるだけだろう。
「そろそろ止まりそうだな。」
そう言って、近づいてきたミーアの頭をポンポンと叩く。
なかなか弾力のあるアホ毛だ。
「もーう、まだまだ伸びますから。」
頬を膨らませて怒る彼女を見ると、俺に妹がいたらこんな感じだったのではないかと思う。
「今日は何かクエストを受けるのか?」
「そうですね、一応ギルドには行く予定ですよ。一緒に行きましょう。今から朝ご飯ですか?」
「ああ、そうだな。」
「じゃあ私作ります。何がいいですかー。」
そう言って俺の返答を待つ前に家の中に入っていく。
彼女はたまに朝食を作ってくれる。
料理の腕はなかなかなものなので、自分の作る飯よりもはるかに上手いから助かる。
「早く来てくださいよーう。」
家のドアからひょっこりと顔を出した彼女を見て、温かい気持ちになった。
「おお、ウォルス来たか。おはよう。」
ギルドの扉を開けると、すぐにユイナが話しかけてきた。
「ああ、おはようユイナ。」
「ぶー。」
俺はユイナに挨拶を返す。あとのはミーアだ。
「もうケンイチ=カミヤは来ているのか?」
ギルドの中を見渡してもいないのだから、たぶんまだだと思うが。
「いや、もうすぐ来るだろう。それで今日はあいつの実力を調べるために、実際に戦ってみようと思う。」
やはりユイナは戦う気らしい。色々と心配になってきた。
「そうか、どこで戦うんだ?」
「町の西側を出て少し歩いたところにしようと思う。オーガを13体も倒す位だ。場所は広めにとっておいた方がいいだろう。」
ケンイチ=カミヤが来たのはそれから10分後くらいのことだった。
「すいません。今どこに向かっているのですか?」
ケンイチ=カミヤを引き連れて、戦う場所まで移動中である。
彼にはまだ戦うことを言っていない。強制的に戦ってもらうつもりらしい。
「一応町を出るけど心配するな。すぐに着くよ。」
「はぁ。」
町の西側を出たところは広い平地となっているため、戦いやすいし、魔物が近くに来ても見えるのですぐに対処することが出来る。
「着いたぞ。」
「ここですか?」
「ああ、ここで私と戦ってもらう。」
「えっ?な、何でですか?」
「オーガを13体も倒したという実力を把握するためだ。大丈夫、少し実力を見るだけだ。」
そういうユイナの目は爛々と輝いている。さすが戦闘狂。
しかし、俺は一抹の不安を抱えていた。最悪の事態が拭いきれない。
「はぁ、わかりましたよ。戦います。」
最初は嫌がっていたケンイチ=カミヤは、ユイナの説得により渋々了承した。
「では行くぞ。」
ユイナの掛け声とともに、俺の人生を大きく変える戦いが始まった。
「はぁっ。」
最初に仕掛けたのはユイナだった。
まずは小手調べにと、牽制として正面から拳を突き出した。
普通戦闘において、身体強化の魔法もかけずに正面から攻撃する何て馬鹿な真似をすることはない。
そんなことをしたら、普通にカウンターを浴びる可能性があるからだ。
しかし、ユイナの場合は大丈夫であろう。
一般的な冒険者が身体強化の魔法を自分にかけるのに10秒くらいかかる。
それは魔法を発動させるのにイメージが必要だからであり、これをしっかり行わないと魔法は発動しない。
しかもそのイメージというのはなかなか難しいもので、結構時間を取られてしまうのだ。
だから、一般的に身体強化の魔法を使うときにはあらかじめ戦闘の始まる前に発動させる必要がある。
しかしユイナは違う。
ユイナは身体強化の魔法を瞬時に発動できるのだ。
だから、やばいと思ったらすぐに身体強化の魔法を使うだろう。
繰り出されたユイナの拳はあっさりと避けられた。
ランクFやEの奴らだったらここで試合終了だっただろう。
そこから空振った勢いのまま右足で横っ腹に蹴りを叩き込む。
しかし、それも左腕でガードされた。
いくら身体強化の魔法を使っていないユイナの攻撃でも、受け止めればかなり衝撃があるのだが、ケンイチ=カミヤはそれを軽々と止めて見せた。
「むっ。」
ユイナは蹴りを繰り出した状態から一気に後ろに飛びのいた。
見るとすでにユイナは身体強化の魔法を発動していた。
まだ彼は攻撃をしてはいない。
「なかなかやるようだな。本気を出していいぞ。」
ユイナはそう言うと、にやりと笑った。戦闘狂め。
「じゃあお言葉に甘えて。」
ケンイチ=カミヤはそう言った瞬間に、ユイナの懐に入っていた。
一瞬で身体強化の魔法を発動したらしい。
ユイナの目が見開く。
腹の前に手を出して彼の出した拳を受け止めた。
だがさらに彼は拳と蹴りを組み合わせてユイナを攻め立てる。
ユイナは防戦一方でなかなか反撃に移れていなかった。
一瞬の隙を見てユイナは彼と距離を取った。額には汗が流れている。
対して彼は呼吸すら乱していない。
俺は焦っていた。
まずユミナの懐に入った彼を見ることが出来なかった。
その後の連撃もかすれて良く見えなかった。嫌な予感がする。
「な、なあ、その辺でいいんじゃないか。もう実力も十分だってわかっただろ。」
俺は気が付いたらそんなことを言っていた。
声は震えていた気がする。
「いや、まだ続けるぞ。武器も使わせてもらおう。」
俺の願いもむなしく、ユイナは戦闘を続けるつもりのようだ。
「じゃあ、僕も使いますね。」
お互いに腰にある剣を抜く。
ユイナの剣は紅蓮石という真っ赤な鉱石から作られた刀身の赤いバスタードソードである。
バスタードソードは両手でも片手でも使えるため、応用が利きやすい。
さらに素材に紅蓮石を使用したのには理由がある。
ユイナの剣の刀身から炎が上がった。
ユイナの得意な魔法の属性は火属性である。
その他にも、水、風、土、雷、光、闇、無などの属性が存在するが、大体の人が使える属性は無属性と、その他に1属性のみである。
たまに2属性の魔法が使える人がいるが、本当に数は少ない。
ユイナも無属性と火属性のみである。
ちなみに身体強化は無属性に分類される。
対して、ケンイチ=カミヤは昨日宿で見た普通の両手剣だった。
「では、いくぞ。」
ユイナの体が纏う魔力が先ほどとは段違いに多くなった。
身体強化に使う魔力を多くしたのだろう。
先ほどよりも数段早いスピードで彼に近づく。
しかも多くのフェイントを入れて、素早く攻撃を繰り出していく。
さすがにケンイチ=カミヤも防戦一方に陥っている。
もはや俺には剣すら見えておらず、連続して聞こえる音ぐらいしかわからない。
彼は見た感じ、ただの変哲もない両手剣でユイナの剣をさばいている。
普通そんな剣でユイナの炎剣を受けたらたちまち刀身を切られ、一緒に体も切られてしまうだろうに。
彼の底がしれない。
俺の震えは大きくなっていた。
「そろそろ終わりにしましょう。」
今度距離を取ったのはケンイチ=カミヤの方だった。
そして距離を取るなりそう言った。
「くっ。」
突然ユイナが声を上げて跳ね上がった。
彼はその場から動いていない。
「な、何がっ。」
俺は思わず声を漏らしていた。
目の前でユイナが一人で弾き飛ばされている。
弾き飛ばされる毎に高い金属音がなっている。
「よく防げますね。」
彼がぽつりと言葉を漏らした。
ユイナへの攻撃が止まった。
「……それは空間魔法か。」
ユイナの漏らした言葉に彼は驚いた顔をした。
「何でわかったんですか。」
「何となくだ。」
そうですか。と彼は言うと、攻撃を再開した。
彼は一瞬でユイナの隣に現れる。
「はあぁぁ。」
ユイナは声を上げるとその方向に炎の波を放った。
炎の波は20メートル位突き進み地面を真っ赤に染めあげた。
しかし、その炎が放たれた時にはもう、ユイナの首筋には両手剣が突きつけられていた。
「参った。私の負けだ。」
ユイナは剣を落とし両手を上げた。
「怪我はありませんか。」
降参の意を示すユイナから剣をどけ、ユイナの怪我を確認するケンイチ=カミヤ。
「あ、ああ、大丈夫だ。全くけがはない。」
この時のユイナの顔は忘れられない。
今まで見たことのないくらい赤くなっていた。
俺は冷や汗を感じながらユイナの元へ行く。そして、声を掛けようとした。
「あ、あのユイ「ケ、ケンイチ殿、わ、私と結婚してくれないか?」
その時、俺の世界の崩れる音がした。