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10話目を投稿します。
「見えましたー。」
両手を上げて喜ぶミーアを見て、苦笑いしながら前に視線を変える。
そこにはオオルリの町よりも少し小さいアサイの町が見えていた。
現在立っている丘の上から少し下に降りて行くとアサイの町に入れる。
アサイの町の周りには大きな森があり、綺麗な緑色で一面が染まっていた。
「あと1時間も歩けば着くか。」
俺はそう言って肩の荷物を背負いなおすと、丘を下り始めた。
「検問である。身分を確認したい。」
アサイの町に着き、中に入ろうとすると、目の前の兵士風の男が話しかけてきた。
格好は俺と同じようなもので、手には槍を持っている。
この町の兵士は冒険者がやっているのだろうか。
「Aランクのウォルスだ。」
「Bランクのミーアです。」
そう言って俺達は兵士にカードを見せた。
ギルドに所属した冒険者はギルドカードを貰い身分を保証される。
本人がカードに魔力を込めるとカードの右下の魔石と呼ばれるものが発光するので、それを見て身分証明とするのだ。
「うむ、通っていいぞ。よく来たな、アサイの町にようこそ。」
兵士はカードを確認するとにこやかにそう言った。
「とりあえず宿を探すか。」
「そうですね。」
町の中を歩き、宿を探す。
少しして目の前の2階建ての宿屋を見つけた。
穴熊亭というらしい。宿の扉には、俺の料理は美味いぜ!!と書いてあった。
「ここでいいんじゃないか。ここの親父は料理に自信があるらしいし。」
「そうですね。腕を見させてもらいましょう。」
ということでこの宿にすることにした。
「いらっしゃい。お二人かな?」
カウンターにはふくよかなおばさんが立っていた。
気の強そうな感じである。
「ああ、そうだ。」
「お二人様だとダブルで5000ギル、ツインで6000ギルになるよ。」
「1人部屋を二つにしたいんだが。」
なぜ二人部屋前提になっているんだ。
「おや、それだとシングル1部屋4000ギル、二部屋で8000ギルになるよ。」
結構違うな。2000ギルも違うのか。
「二人部屋にしましょう。あの、それの方が安いですし……ね?」
「ミーアがそれでいいなら。じゃあツインで一部屋、とりあえず3日分頼む。」
とりあえずミーアとアサイの町のギルドでいくつクエストを受けてみようという話をしていたので、この位は最低でもいるだろう。
「朝食と夕食はうちの旦那が作るから食べて行っておくれよ。1食500ギルだけどどうするかい?」
「食べる時に払うよ。とりあえず今日の夕食と明日の朝食は頂こうかな。」
どんな料理が出るか楽しみだ。
「そうかい。じゃあ20000ギルになるよ。」
おばさんの前に大銀貨を2枚出した。
「ちょうどだね、ゆっくりしていきな。それと、うちの宿は防音に自信があるから安心しなよ。」
お金を受け取るとおばさんはにやにやと笑みを浮かべてそんなことを言った。
「ああ、期待している。」
今日は静かにゆっくりと寝られそうだな。
「ばかっ。」
いきなり顔を真っ赤にしたミーアに叩かれた。
何なんだ一体?
どうやら夕食の準備か出来たようなので、荷物を置き、1階の食堂へと降りて行く。
しばらく顔を真っ赤にして、ぶつぶつと何かを言いながらこっちをちらちらと見てくるミーアは不気味だったが、ちゃんと食堂にはついてきてくれた。
「はい、おまちどおさま。」
席に着くと、おばさんが料理を出してくれた。
今夜の料理は鳥料理らしい。
綺麗に盛り付けられたサラダに、ピリ辛のたれがかけられているカリッカリに焼かれた鳥肉が食欲をそそる
そして、
「これは……米?」
「なんだ知ってるのかい?」
おばさんが目の前でにこにこしている。
「ああ、だがこれは……。」
米は俺の集落でも食べられていた。
しかし、固くてあまりおいしくなかった気がする。
「おあがりよ。」
おばさんに言われるまま鶏肉を食べ、続いてご飯を口の中に入れる。
な、なんだこれはっ!?
「うまいっ。」
飲み込んだ後に思わず声が出てしまった。
「おいしいっ。」
ミーアも声を上げていた。
「だろうだろう。どんどん食べな。」
ドヤ顔のおばさんをしり目に、俺達は一心不乱にご飯を食べるのであった。
そして、
「気に入ってくれたようで嬉しいよ~。」
米という食べ物の本当の美味しさに感動し、作った人を見たいという俺達の前に現れた、ヒョロヒョロのおじさんを見てあまりの予想外さに唖然とするのであった。
この人は絶対に俺の飯が旨いぜなんて言いそうな人じゃなかった。




