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こんにちは。モノクロです。稚拙な文章かもしれませんが、よろしくお願いします。感想があるとやる気が出ます。
ずっと彼女を幸せにするのは俺だと思っていた。
しかし、今目の前に映る光景は、無常にもお人好しそうな美少年が膝をつく俺に剣の切っ先を向けているというものだった。
一体どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
試合終了の合図があり、美少年の元へ駆け寄っていく幼馴染。
幼い頃よく見た笑顔をあの男に向けている。
いつからか俺に対して向けられなくなったその笑顔。
ずっとあの笑顔は俺のもので、きっと彼女と結婚するのは俺で、将来幸せな生活が待っているのだと夢見ていた。
しかし現実は非情だ……。
笑っている彼女に腹が立った。あの男に腹が立った。
「あああああああああ。」
刀身を半分に折られた剣を持ち、あの男の元へと走る。
そして苛立ちを剣にのせて振り下ろした。
ああなんて惨めだ。暗くなる視界に抗うことなく意識が落ちていく。
やっぱり一番腹が立ったのは自分に対してだった。
やたら凄い新人の冒険者がいると聞いたのはギルドで次のクエストを探しているときだった。
つい最近Aランクになった俺は、まだ戦ったことのない魔物と戦うためにちょっと遠出してみようかなと考え、張り出されたクエストを見ていた。
どうやらその冒険者は、つい昨日10体以上のオーガをギルドに持ち帰ってきたらしい。
つい一週間前に冒険者になったばかりでしかもソロ。
そんなやつがBランクの冒険者4,5人集まってやっと倒せるオーガを一人で倒してしまうなんて前代未聞のことだった。
たぶんAランクの俺でも一人じゃ5体がいいところだろう。
信じられない。
「おーいウォルス、ちょっと来てくれないか。」
後ろから話しかけてきたのはギルドマスターであるユイナだった。
俺の唯一の幼馴染で小さい頃から一緒に過ごしてきた女の子。
昔から強い目つきと長く伸ばした真っ赤な髪が綺麗な、まさに美人と呼ばれる容姿をもった女の子である。
年は俺と同じで今年18歳になった。
昔は何処にでもいる普通の女の子であったが、15歳を過ぎた頃から徐々に頭角を現し始め、昨年ギルドマスターに抜擢された。
ランクはSランクであり、この町で彼女に勝てる人間はたぶんいないだろう。
そんな彼女は俺の初恋であり、彼女に勝つことは人生の目標である。
何故かというと、彼女の理想の結婚相手は自分より強い男であり、自分より弱い男とは結婚しないというのだ。
この発言からわかるかもしれないがに彼女は戦闘狂と呼ばれる部類の人間である。
今のところ彼女より強い男など一人もおらず、結婚する予定もない。
だから早く俺が彼女より強くなって幸せにしてあげるのが俺の目標というわけだ。
「どうしたんだユイナ?」
俺はクエスト発注のカウンターにいたユイナの元に歩いて行き、椅子に座り書類と奮闘している彼女に話しかけた。
「おおウォルス。えーと、最近ギルド登録した新人の話を知っているか?」
「オーガを10体以上倒したっていう?」
たぶん噂になっている新人のことだろう。
「そうだ。実際にはオーガ13体らしいのだが、私が仕事の関係でまだ何も把握できていないのだ。何かそいつに知っていることはないか?」
「いや、俺もさっき知ったばかりだ。」
「そうか……、その新人の話が本当である場合、そいつのことを把握しないとまずいのだが、ほとんど情報が集まらない。どうやらオーガの素材を売るだけ売ってすぐいなくなってしまったらしいからな。」
「そうなのか。で、そいつの名前はなんて言うんだ?」
「ああ、どうやらケンイチ=カミヤというらしい。」
家名持ち?貴族なのか?
「……変な名前だな。貴族か?」
「いや、貴族ではないらしい。しかも出身地は不明だし、最初に来た時の服装はここら辺で見たことのないものだったらしいのだ。」
「怪しいやつだな……。」
「ああ、だからこれからそいつを探してみようと思う。宿を回ろうと思うのだが、一緒に着いてきてくれないか?」
「いいぞ、すぐ行くのか?」
「ああ、今準備してくる。少し待っててくれ。」
彼女はそう言うと席を立ち、2階へと上がって行った。
準備を終えたユイナが来たところでギルドを出た。
この町の宿は全部で10より少し多いくらいだ。そんなに時間もかからないだろう。
俺とユイナは一つ目の宿に歩いて行った。
遅れたが一応自己紹介をしておく。
俺はウォルスという。家名はない。
基本的に家名を持つのは王族、貴族と決まっているため、この町の人のほとんどは家名を持っていない。もちろんユイナもだ。
俺の容姿は短い茶髪に、やや着やせして見える体系だ。
顔は悪くないと思う。何回か告白されたこともある。
身長は180cmにギリギリ届かないくらいで、もう成長は止まってしまった。
両手剣を愛用しているので、それを腰に下げ、上下に革製の防具を着ている。まあ、そんなところだ。
一つ目の宿に着いた。一つ目と言っても宿の大きい順に回っているだけで、それ以外に特に意味はない。
「少し聞きたいのだが、ここにケンイチ=カミヤという人物は宿泊しているだろうか?」
ユイナがカウンターの人に聞いている。
普通家名を持たない人を探すと同じ名前の人が結構いるので、探すのに苦労するのだが、今回は家名がある人なので見つけやすいだろう。
ユイナは話を終えたのか俺のところに来た。
「どうやら3階に泊まっているらしい。」
さっそく見つけたようだ。
そのケンイチ=カミヤなる人物の第一印象は、こんな奴がオーガを10体以上も倒せるわけがない、だった。
「ど、どうも。」
部屋の中にいたのは体の線の細い、お人好しのような印象を与える人物だった。
薄手の一見上質な見たこともない服を着ていた。
少し緊張しているようである。まあいきなり知らない人に尋ねてこられたらそうなるだろう。
「君はケンイチ=カミヤという人物で間違いないだろうか。」
「そうですけど、えーと、どちら様で?」
質問するのはユミナの仕事だ。
俺は後ろに立っているだけ。ユミナに危険が迫った時だけ動けばいいのだ。
そんなことはまず起こらないが。
「おお、失礼した。私はこの町のギルドマスターをやっている者でユミナという。よろしくたのむ。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
先ほどまで緊張していた様子の青年に、もう緊張は見られなかった。
意外と強い精神力を持っているのかもしれない。
「さっそく本題だが、昨日ギルドに一人でオーガ13体を持ち込んだという話を聞いたのだがそれは間違いないな?」
「……間違いないです。」
一瞬青年の顔が焦りを帯びた。
何かやましいことでもあるのだろうか。
「そのオーガは全部自分で倒したのか?」
「えーと、そうですね。」
とてもじゃないが目の前の少年がオーガを倒せるようには見えない。
もしかして魔法使いなのか?
しかし、壁に両手剣が立てかけてあるので、その線は薄いだろう。
「そうか、強いのだな。わかった、では最後にケンイチ殿の出身地は何処か教えてくれるか?」
ユミナがその質問をした瞬間、青年の顔から血の気が引いた。
「えーと、実は僕少し前から記憶が無いのです……。」
「……。」
「……。」
「……本当か。」
「……はい。」
怪しい。怪し過ぎるだろこいつ!!
その後青年に覚えている範囲で話を聴いた。
どうやら気が付いたら近く、と言っても1,2日はかかる森の中にいたらしい。
そしてそこから森を彷徨い、辿り着いたのがこの町だった、ということだ。
この町には検問が無いため普通に町の中に入り、まずギルド登録をしたようだ。
登録にはお金がかかるが、後払いでもよいので登録も問題なかったらしい。
とりあえずそんなことを聴いて今日は帰ることになった。
さらに詳しいこと明日ギルドで聴くらしい。
俺はあの青年が記憶喪失だということを信じていない。
話しているときの様子からそんな気がしたのだ。何か言いようのない嫌な予感がした。
しかも、帰り道でユイナが、
「……一度戦ってみればいいかもしれないな。」
とか言っているのを聞いて、さらに嫌な予感がした。