初回トーナメント編~あきらと澪~
トーナメント前日。
夏の生ぬるい風が吹きすさぶ屋上で手すりに掴みながら俺は澪と二人でいた。別に何か話があるわけでもなく俺たちはただ隣り合うだけだった。けど俺はこんな時間が好きだった。
澪と二人きり。澪と二人きりでいるこの時間がとても好きだった。何故か?
それは俺が澪に惚れているからだ。幾度も澪と交流するにつれて澪の事を意識し始め、やがて「好き」という感情になった。
俺はチラッと澪の方をみた。風が澪の長い髪の毛をなびかせていた。澪はあっ、と言いながらもみあげ辺りの髪の毛をかきあげた。
俺はそんな澪を見ながら
「綺麗だな」
口走ってしまった。澪はえっ?、と言いこちらを向いた。
「いや、あの、ほら、あの夕焼けが…その、綺麗だと。」
俺はよく漫画や小説やドラマによくあるベタなことを言っていた。
「そうだね。夕焼け。綺麗だね」
そう言うと澪はにっこりと笑った。その顔を見て俺は顔がほんのりと赤くなった。でも澪は気づいてないみたいだ。たぶん。夕焼けのオレンジいろの明かりのおかげだな。
そしてしばらく二人、静かな時間が流れる。ただ側にいてくれる。そんな感じだ。やはりこの時間が好きだ。
だが明日からはトーナメントもあってこんな時間はしばらくとれないだろう。
嫌だな…
そう思っていた。だが時間は流れる。何をしたってその時が来てしまう。でも仕方のないことだ。それがこの世界の理なのだから。
ふとこんな事を考えていたが、隣からクスクスっていう声が聞こえたから振り返った。
「どうしたの?ブスッとしちゃって?ふふっ」
澪は微笑混じりに言う。見ていたのかと思い恥ずかしかったが、俺は返答する。
「明日からトーナメントだと思うとさ、ちょっと憂鬱だなぁとね。へへっ。」
「そっか。でも初めてのトーナメントでしょ?ワクワクしないの?」
「う~ん。するっちゃぁするけどね。でもさトーナメントが始まったら、今まで通りこうしてここで話したりするのが出来なくなるかもって。そう思ってさ。」
柄にもなくこういった本音を言ってしまった。
「大丈夫だよ。トーナメントが始まったって試合をしてないときにこうして会えるんだから。」
「そうは言っても俺は23回戦目だぞ。すぐに神無月和にボコボコにされてヒーリングルーム行きにされたら、こんな感じにはなれないだろ?」
「そんなことない。私はあきらがどんなになろうと一緒にいる。ううん。一緒にいたい!だから私はあきらの側にいるよ。」
最後は笑顔を俺に向けた。その顔と言葉はまるで女神のように優しくそして暖かいものだった。
「ありがとうな。そうだよな。お前は、そういう奴だからな」
ポンと、澪の頭に手をそえてそう言った。澪は、へへぇ~、とにっこりと歯を見せて笑っていた。―――
「あの時ね、私あきらの側にいたいって言った。どんなにボロボロになったって私は君の側にいる。今だってちゃんとあきらの側にいるよ。たとえこの先もっとボロボロにされるときが来るかも知れない。でも私は、あきらの側にいるよ。だからね、安心して。そして、次こそは神無月君に勝って!!」
俺はその澪の励ましに声が出なかった。そして、無意識に目から涙が流れ出てきた。俺は涙を両手でぬぐっていた。だけど止まらない。この涙は、全ての悲しみや苦しみを流しているように俺は感じた。
そして澪は黙ってベットで起き上がっている俺を横から優しく抱き締めた。
「私が、ついてるよ」
その言葉を受け俺の目から涙が流れ出る。
「ありが…とう」
と、途切れ途切れに言う。
俺の初めてのトーナメント。一回戦で幕を閉じた。だけど、得たものはたくさんあったのだろう…
第8話 初回トーナメント編~あきらと澪~