第五話 トルメギス王国到着
王都から南の国境付近の街まで約半日。
そこでアルバーナ達一行はアンサーティーンから頂いた餞別の品を受け取り、大量の水や食料などを買い込んだ後一泊を取る。
そして明朝。
国境を越えたアルバーナ達に待ち構えていたのは想像を絶する光景だった。
「うわあ……」
「これはなんとも」
「酷いです」
「あわわ」
上から順にメイリス、フレリア、アメリアそしてクークの順である。
彼女達が絶句していたのは、荒野としか思えない場所に多くの難民がいたからである。
悪臭が充満しているのは仕方ないにせよ、最も彼女達の心を苛んだのは難民たちの眼である。
絶望。
それ以外に言い現せる言葉が無い。
瞳には全く光が無く、ただなすがままになるという諦観の念がありありと伝わってくる。
しかもそれが老人でなく、青年や子供も同じ絶望を浮かべているとなるともはや何も言えなかった。
「……フレリア、難民ってこうなの?」
恐る恐るメイリスはフレリアに尋ねる。
「いや……私は比較的安全区域内での治安維持が主な任務だったから難民をこの目で見るのは初めてだ」
メイリスの常識によると難民というのは死にたくないから逃げ出した人々であり、ゆえに何としてでも生きようという執念に満ちている。
なので身なりが良い外来人である自分達に食べ物や施しを恵んでもらおうと大挙して集まる光景を予想していたのだが、実際はただこちらを一瞥して終わるだけである。
まるで違う光景にメイリス達はただ戸惑うばかりであった。
が、唯一動じない人物がいる。
「中々の虚無具合だな」
アルバーナはメイリス達の驚愕をまるで意に介していない。
それどころか今の状況を楽しんでいる様に思えた。
「少々落ち込み過ぎだが、まあそこは俺の演説しだいで何とかなるだろう」
荒野どころか焦土状態であるこの難民達がどうして突然現れた若輩者である彼の演説で奮い立つと思うのか。
何とも傲岸不遜なセリフだが、本当に何とかしてしまいそうに見えてしまうのがアルバーナである。
「あ~、アルバーナ?」
「ユラスで良いぞ、フレリア」
「誰が名前で呼ぶか!? 私は変わらずアルバーナと呼ぶぞ!」
フレリアはアルバーナを名前で呼ぶことに抵抗があるのか顔を真っ赤にして反対する。
(自分は名前で呼ばれているのに?)
呼ばれるのは良いけど呼ぶのは駄目、そのよく分からない線引きにメイリスは首を傾げた。
「話が逸れたな、俺からすれば無の方が良い。何も無い分純粋であり、爆発的な力を生み出す」
アルバーナが言いたいのは、中途半端に拘るものがある人間はそれが邪魔をして思い通りに動いてくれない。
だったら誇りも知恵も持っていない人間の方が後々モノになると言いたかった。
「アルバーナ、それは洗脳ではないか?」
どちらにせよ己の思い通りに操る。
人間はモノでないゆえにフレリアの指摘は正しい様に思えるが。
「……フレリア、洗脳は一概に悪いと言えない」
メイリスがアルバーナの代わりに反論する。
「己の足で立つのも良い、誰かに支えられて立っても良い。大事なのは、自分の存在が周りの人間を立たせる希望になっているか否か」
生まれつき障害がある人に職場で健常者と同じ成果を求めるのは酷であるが、例え健常者よりも成果が低くても周りの人間のやる気を促しているのなら、その人は健常者よりも偉大と見て良い。
「極論になるけど何も施さないで成果を出さず、周りの人間の気分を害するのならば。洗脳なり恐怖なりを与えて成果を出し、周りの人間に何らかの影響を与えるのならば褒められるべき」
「メイリス、それは酷過ぎないか?」
「だから極論と前置きした。人の感情は複雑怪奇ゆえに理想通りにいくはずがない」
メイリスはフレリアの疑問を切った。
「――コホン。さて、始めるか」
アルバーナは咳払いを一つする。
「師匠! この上に乗ると良いです!」
マーガレットはどこから持ってきたのか木箱を抱えている。
「おお、それがあれば百人力だ。ありがとうマーガレット」
木箱の上に立てばさらに自分が注目してくれる。
此度行う演説は目立つことが最重要なためアメリアの提案は素直に嬉しかった。
「よし――聞け! 皆のもの!」
そしてアルバーナは聞く者全てを振り向かせる力の入った声を張り上げた。
「俺の名はユラス=アルバーナ! この南諸国を平定し、国を創る者だ!」
国を創る。
その言葉を聞いた難民達は二つの反応に分かれた。
圧倒的多数は単なるほら吹きだと興味を失うが、ごく少数は次は何を言うのかと期待を向ける者である。
「お前らは俺が嘘を付いていると蔑んでいるだろう!」
アルバーナは羞恥も気後れも感じさせずに続ける。
「ゆえに俺は誓おう! 一ヶ月以内に俺はここに住む難民全員に住む場所と食糧を提供する! だからその時に再度問う! 俺が作る国の国民になれと!」
断っておくが、アルバーナは何の後ろ盾もない商人の息子である。
しかもここは他国であり、周辺の地理に明るいわけでもない。
航海にあたり、食料や水も地図もなく、ただコンパスしか持っていない状況にも拘らずその自信はどこから湧いてくるのだろうか。
「「「「……」」」」
事情を知っているメイリス達でさえアルバーナの言葉に心を動かされた。
ならば無知である難民達だったらどのような心境になるのだろうか。
その答えはアルバーナが降板した直後から現れた。
「よし、さてと……人物の選別に入ろうか」
集まってきた難民達を一瞥したアルバーナはそう前置きする。
「採用条件は今から出す鉄製の槍と鎧を着て動ける者のみ。自信がある者だけ一歩前に出てくれ」
アルバーナは馬車から一式の装備を取り出そうとする。
槍や矢じりを弾く前提で造られたそれらは相当重く、アルバーナが持つとよろけていた。
「全く、軟弱者が」
武器防具を足元に落として怪我をされたら困ると判断したフレリアはため息を一つ吐くとアルバーナの持っていたそれを軽々と皆の目の前に置き、それを五回繰り返した。
「アルバーナ、お前はもう少し筋肉を付けたらどうだ?」
フレリアの挑発めいた物言いに対し、アルバーナは少し肩を竦め。
「舌を動かせる筋肉があれば十分だ」
と、返した。
アルバーナの本領は口であり、剣を持って戦うことではないのである。
「さあ! 我こそはと思う者はこれを身に着けて五分立って見せろ!」
「おう!」
集った者達はアルバーナの言葉に呼応し、それら鎧一式に殺到した。
「十八人か……まあ、それぐらいだな」
五十人以上残ったのだが、結局立っていられたのは三分の一程度。
良い年をした大人が集まって情けないと思いつつも、彼等はロクな食料も休息も取れなかったことを鑑みると仕方ないだろう。
「さて! 残った十八人には食料と水がある。前祝いだ! 存分に食べろ!」
そう声を張り上げたアルバーナは、もう用が済んだとばかりにスタスタと馬車へと引き返していくのだが。
「おいアルバーナ。展開が速すぎてついていけないぞ!? これから何するんだ?」
一昨日に王都を出て今日外国に着いたばかり。
そしてこの後彼等を連れて何をするのかフレリア達は全く聞かされていなかった。
「近隣の村々を回る」
地図を片手に携えるアルバーナは歩む速度を緩めずに答える。
「武装した彼等を背景にこちらの傘下に加わってもらう予定だ」
最終目的は国を創ることだが、そのために最低必要条件は国民の存在と産業基盤の形成である。
国民は難民で補えるものの、産業基盤となると村や町といった組織が必要不可欠。
ゆえにアルバーナは近隣の村を配下に置くべく行動するつもりだった。
「色々言いたいことがあるがとりあえず一つだけ……向こうが素直に聞くと思うのか?」
突っ込みどころ満載なアルバーナの予定にフレリアは頭を抱えつつも疑問を呈す。
「立っているだけが精一杯の兵士を背景に国を裏切ってこちらに付けと――話し合いどころか門前払いにされるのが落ちだ」
「それは違うな」
アルバーナは否定する。
「向こうはこちらの兵士が案山子とは知らない。それに元王国騎士団のフレリアに魔法使いのメイリス、そして白魔法使いのクークの存在によって向こうは聞く耳だけは向けてくれるな」
王国騎士団が受ける厳しい訓練の成果なのか、フレリアの立ち姿は達人が見れば同類だということに気付く。
それに広範囲殲滅を可能とする魔法使いに、傷を癒す白魔法使いがいれば誰だって警戒するだろう。
「なに、見ていろフレリア。あっという間に国を創ってやろう」
自信満々に笑うアルバーナの表情にフレリアは、何の根拠も持たないが一ヶ月後にはあの虚無に満ちていた難民達が笑顔で暮らしている場面が見えるような気がした。
「またか……」
カール村の村長は重い吐息を吐く。
昼ごろ。
いつも通り村の行く末を憂いていた時に入った異変を告げる鐘の音。
またもタガの外れた難民達が押し寄せてきたのだろうと村長はまず始めに考えた。
彼等を追い払うのは心苦しいが、かといって十分に養うだけの場所も食料も無い。
ゆえに鉄仮面を意識するのだが、良心を殺しきれないゆえにその日の酒の量が増えてしまう。
「誰でも良いから助けて欲しい」
何度も嘆願書を送っているのだが、国は一向に聞き入れる気配がない。
臨戦態勢に入ってもう数十年、何時になればこの地獄が終わるのかと村長はため息を吐いた。
「そ、村長! 大変です!」
その時、警備隊の一人が屋敷の中にまで駆け込んでくる。
「どうしたタールよ、普段通り門前払いせよ」
通常は村の外で追い払い、それでも聞かなければ警備隊の連中が棒で打ち据えるのだが今回はその対応が取れないようである。
どうやら向こうはある程度統制が取れているらしく、村の代表である自分が赴かなければならないらしい。
「さて、試練の時間を過ごそうか」
村長はそう己に気合いを入れ、村の出入り口へ向かった。
しかし、その予想は外れる。
通常なら疲れ果てた難民達を背にした長老格が懇願に来るのだが、今回は完全武装の兵を背景にした黒髪の若者と連れと思しき金髪の女性がやってきた。
他にも魔法使いと思われる者までいる始末。
もし彼らを無碍に断れば村は尋常でない被害を受ける。
何せこの村には侵略を防ぐ防御網は敷いているが、魔法を弱体化させる結界を張っていないので魔法を振るわれればあっという間に終わってしまう。
それゆえに向こうの要求をある程度呑まなければならなかった。
「大分洒落た装飾品だな」
広間に通した若者は周囲を見渡してそう睥睨する。
「これらを売り払えば多少の金が出てきそうだ」
「……ご冗談を、これらは全てレプリカです。売っても二束三文の値打ちしかありませんよ」
実際は全て本物なのだが、あえて卑下する。
これで「なら自分が貰おう」と食いついて来れば「偽物を飾るということは自身もまた偽物であると証明しているようなもの」と返すつもりである。
村長はすでに場の主導権を握る闘いを始めていた。
「ふーん。まあ良い」
若者はそれらに興味がないのかそれで終わる。
「……」
当てが外れた村長は肩すかしをくらうこととなった。
しかし、そのまま若者に主導権を握られるのを避けたかった村長は口を開いて。
「もし、若者よ。初対面の人にはまず敬語を使うもの。そしてそちらから名乗り上げるのがマナーであるぞ」
そう窘めるのだが。
「そうだったのか、次回から気を付けよう。俺の名はユラス=アルバーナ。そして彼女が」
ふてぶてしく頭を下げるアルバーナと名乗った若者は大して気に留めていなかった。
(こ奴は礼儀知らずの若造なのか?)
村長はアルバーナの無礼に片眉を上げるものの。
「お初にお目にかかります、フレリア=イズルードと申す者です」
恭しく礼儀を見せるイズルードという名の女性の態度に好感を持てた。
「で、村長の名前は?」
アルバーナにそう急かされた村長は彼の教養の無さにムッとくるのだが。
「アルバーナ! 先程から黙っていたが失礼の極みだぞ!」
フレリアと名乗る女性がアルバーナに一喝し。
「何か策があるのかと思って目を瞑っていたがもう限界だ! 即刻目の前の方に非を詫びろ!」
加えて己が言いたかったことを全て代弁してくれた。
心なしか胸がスーっとする。
「はいはいはいはいはい、分かった分かった。次回から気を付けよう」
が、肝心の若者はつまらなさそうに手を振るだけで終わった。
どうしてこの礼儀正しい女性がこの若者の助手なのか。
逆であったのなら良かったのにと思わなくも無かった。
「コホン――わしの名はロール=カール。ガスト村の村長じゃ」
場の空気を元に戻すため村長――カールは己の名を二人に紹介した。
「断っておくが彼等を受け入れることや、水や食料を供給しろという用件はお断りする」
カールはまず始めにそうくぎを刺す。
難民の大量発生で農耕が出来ず、訪れる行商人も少なくなった現在は数少ない蓄えで食いつないでおり、とても他人へ施すことが出来ない。
この条件だけ村長としての立場上、何としてでも死守するつもりであった。
「安心しろ、そんな非道なことはしない」
しかし、アルバーナと名乗る若者はあっさりと呑む。
またも当てが外れてしまいペースを乱される。
「俺の用件はこれ。この羊皮紙に一筆欲しい」
懐から羊皮紙を取り出したアルバーナはカールの前に広げた。
そこに書いてある内容は――。
「“このままトルメギス王国に忠誠を誓っていれば村自体が滅びる。ゆえに支配権をユラス=アルバーナへ献上したい”だと?」
要するに国を裏切ってこちらの命令に従えということである。
翻意を促す謀略にしては堂々としており、簡潔であるがゆえにカールは呆気に取られた。
「まあ、そういうことだ。今のままじゃ全てが駄目になるから、俺に権利を寄こせということだな」
若造が。
何とも簡単に言ってくれる。
村一つ運営していくのに自分がどれだけの時間と労力を注ぎ込んだのか。
カールの胸の内にそういった黒いものが湧き上がるのだが、目の前の若者の不敵な態度によって雲散する。
余りに大っぴら。
余りに清々しいゆえに、この無礼さが若者の特権だということを思い出した。
そういえば自分も若い時はこの村をトルメギス王国で一番有名にしてやると燃えていたな。
その野望を叶えるために色々無茶をやった。
当時を振り返ると、よく大人達は己の言動を笑って許してくれたなと赤面した。
「? どうかなされた?」
「いや、何でもないイズルード殿」
騎士が己の変化に気付いてしまい、慌てて首を振って誤魔化す。
そして次に居住まいを正したカールは重々しい口調で。
「アルバーナ殿。残念ながら期待に応えることは出来ぬ」
ハッキリと否を伝える。
「私はトルメギス王国からこの村の管理を拝命された者。ゆえに国を裏切るわけにはいかぬ」
どんなに腐っていても祖国である。
簡単に裏切ることなど出来るはずが無かった。
「そうか……」
目の前の若者はそっけなく頷くが、それが表面上だということが分かる。
カール自身も経験しているが、情熱を持って訴えたことが却下されると悲しくなるものである。
ゆえにカールはフォローとばかりに続けて。
「アルバーナよ、私はそなたに感謝しなければならんな」
若者のおかげで忘れていた昔のことを思い出すことが出来た。
絶望がたちこめている中で、野望に燃えていた頃の記憶というのは非常に良いものである。
「せめてもの礼じゃ。倉の一つを解放するから好きなだけ持っていけ」
村人から反感を喰らうだろうが、それでも良い。
それぐらい今のカールの機嫌は非常に良かった。
……これで終わり。
若者と騎士が退出し、戦争が終わるまで息を潜める日が続く。
カールはそう考えていた、が。
「国とはなんだ?」
「は?」
突然若者がそう口火を切った。
「村長は今、国を裏切ることが出来ないと言った。なら聞くが何故国を裏切ってはならない?」
「それは――」
問われたカールは答えようと口を開くが続く言葉が出ない。
国を護る。
それは当然のことであり、わざわざ理由を探す必要が無いからだ。
「答えることはできないだろう。何故ならそういった忠誠心は刷り込まれているからだ。“国を護れ”、“皆が笑顔なのは国を護っているからだ”といった美辞麗句によってな」
「何を言っとる」
若者の言葉に不機嫌になるカール。
愛国心を洗脳によるものと言われれば誰だってカールと同じ心境になるだろう。
「違うと言うなら何故国に対して意見を言わない? 今の惨状を放置しておけば近い将来、必ず自分達も難民になるというのに」
「王には王の考えがあるのだろう。わしらがおいそれと口にして良いはずが――」
「口にしろ!」
アルバーナは身を乗り出して怒鳴る。
「誰かが声を上げなければならない! 誰かが異を口にしなければならない! 例え死ぬことになっても、それが真の忠誠心だ!」
アルバーナと名乗る若者の論理は非常に簡単。
国を本当に愛しているのなら黙って従わず、むしろ積極的に発言をするべきだと。
「……確かにそうかもしれんが、わしらの様な末端が声を上げても無意味――」
「だから俺に権限を委譲しろと言っている」
うめき声に近い抗弁を即座に切り捨てるアルバーナは唇を舌で湿らせて続ける。
「国を完全に裏切れと言っているわけではない。ただ、思い知らせやってほしいだけだ」
「何を?」
カールの質問にアルバーナは人差し指を立てて。
「例え話をしよう。ある夫婦がいたとする。夫は酷く暴力的で度々妻に暴力を振るう、周りからも止めろと注意されても止めようとしない。何故なら夫は“妻は何をされても絶対に自分から離れない”と高を括っているからだ、ゆえに暴力を止めない。じゃあ妻はどうするべきか? 暴力を止めさせるにはどうすればよいか?」
「……絶縁状を叩き付けること」
「その通りだ」
アルバーナは大きく頷く。
「国も同じこと。村々が反旗を翻せば国も意見を聞こうとするだろう。だから一時的でも良いから俺に権利を譲ってほしい」
「しかし、国が軍隊を送り込んで来たら」
「その時は俺に脅されたと言えば良い。形とはいえ俺は武力を背景に交渉へ来たんだ、面目は十分に立つし、何よりも――」
アルバーナは羊皮紙をヒラヒラと振りながら。
「こんなものはただの紙切れだ、いざとなれば偽物だと言い切れば良い。何せこれには拘束力などないのだからな」
この内容は形だけであり、守る必要のない代物ゆえに破っても問題ない。
ましてやアルバーナと名乗る若者は外国からやってきた者である。
村長であるカールとどちらを信じるのかは火を見るより明らかであった。
「……」
これだけの条件を提示されたカールは迷う。
国を裏切るつもりは毛頭ない。
しかし、このままでは先に自分が死ぬのは火を見るより明らか。
ならば多少危険でもアルバーナの提案に乗るべきか逡巡する。
そしてそんなカールの動揺を知ったアルバーナは拳で机を叩き。
「今、この村は存亡の危機に立たされている! 黙って難民の一員となるか! それとも行動して希望を掴むか! さあ! どちらを選ぶ! ガスト村の村長、ロール=カール!」
「っ!」
その言葉に何か心を揺り動かされたカールは知らずペンに手が伸びていた。