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星の巫女  作者: 赦縷々
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第一話 ここは異世界

 ほんの一瞬の出来事だった。

 目の前が暗くなったと思うともう景色は変わっていた。

 見慣れた父親の書斎から木で出来た部屋へと。


 あまりのことに体が固まってしまった。人は自分の許容範囲を超えると固まってしまうようだ。

 しばらくは呆然としていたがそのままというわけにもいかない。とりあえずゆっくりと、体の動きを確かめるように動かし、しゃがんだ姿勢から立ち上がる。妙な違和感を感じるがとりあえず動くようだ。


 次に辺りを見回す。簡素な机一つに椅子が二つ、暖炉が一つ、ベッドが二つ、後は本棚が幾つか、中身はぎっしり詰まっている。

 扉は一つでその両サイドの壁に窓がある。たぶんここは小屋なのだろう。

 ついでに足元には自分が紙に描いたものと同じ魔法陣が床に直に描かれていた。

 全体的に埃っぽくなく、手入れも行き届いているようだ。おそらく人が住んでいるのだろう。


 「……異世界……なのか?」


 そう言った自分の声に驚く。確かに声は自分の口から出ていたが明らかに自分の声とは異なっていた。まるで鈴の音のような少女の声。声変わり前ならいざ知らず今の俺の声は高校に入る前に声変わりを終えていたはず。どう間違ってもこんな少女のような声が出るはずがなかった。

 驚き自分の姿を確かめようと目線を下げる。自分の身長は170ちょっとだったはずだがどうにも床が近く感じる。

 また着ていたのは白のシャツにジーンズといった室内着だったはずだが、今はワンピースのような服の上に何かを羽織った状態になっている。……ファッションについてはよくわからん。よって細かいことは省く。

 それとさっきから視界の隅でチラチラと動いていた物が頭を下げたことによって何か分かった。自分の髪の毛だった。真っ黒で短かったはずの髪は栗色で肩甲骨あたりまで伸びている。

 髪が長いことに気が付くとすさまじく邪魔に感じてしまう。髪を括るようなものは持っていないのでとりあえず後ろに流そうと手を挙げて気が付いた。肌が白い。色白とかそういうレベルではなく、まるで雪のような白さだ。

 髪を後ろに流し改めて自分の姿を眺めてみる。鏡があれば良かったのだが、あいにくここにそんな物は無いので目線を下げるだけだが。

 自分の体のはずがどう見ても女の子にしか見えない。


 「いったいどうなってんだ……?」


 そう言ってから思い出した。

 あの本には確かこう書いてあった『魂のみを移動させる』と。

 つまりあの本が正しければ異世界にいる自分と同質の魂とやらを持つ人間と中身だけ入れ替わってしまったのだろう。

 あまりの出来事に驚いて忘れてしまっていた。


 「ということは、ここは本当に異世界なのか……」


 世界移動魔法なのだからもっと派手なものかと思っていたがそうでもないらしい。あまりにあっけなくきてしまい拍子抜けしてしまった。

 しかし、段々と実感がわいてくる。

 ここは自分の知らない世界だと。

 声が出ない。体が震える。本当に、本当に魔法があった。心臓がうるさいぐらいに鳴っている。


 ここは異世界なんだ、本当に異世界なんだ!


 「ひゃっほぉぉぉぉぉぅ!」


 女の子の声で奇声を上げる俺。しかし、そんなことは全く気にならなかった。

 異世界に来る。それだけで自分が漫画や小説の主人公になった気分だった。

 予想外に女の子になってしまったが、そんなことは些細な問題だった。

 

 異世界にいる。

 今はただその事実だけで十分だった。


また主人公の名前が……

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