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異邦人14

 マヒル達四人は、人の手があまり入っていなさそうな荒れた山を苦労して登った。その頂の上から、夜半過ぎに山向こうの街を見下ろす。

 夜目の利かないマヒルは、カズサが指差した先を見ても、どこに街があるのかさえ分からなかった。

 夜通し緊張を強いられながらその後もしばらく歩き続け、マヒルとミユリがついに体力の限界を訴える。マヒル達はその場で日が昇るまで仮眠することにした。

「ガーゴ。手分けして、街の有力者を捜そう」

「ああ。敵の接近を知らせないとな」

 日が昇りマヒルが目を覚ますと、いつの間にか簡単な朝食が用意されていた。マヒルとミユリが寝ている間に、カズサとガーゴがやはりウサギを獲ってきたらしい。

 二人がいつ眠ったのかもマヒルには分からない。それなのにもう次の行動に出ようとしている。

「ちゃんと睡眠とったの?」

 マヒルがそう訊くと、

「ああ…… ガーゴと交代で……」

 と、カズサは何気ない様子で答える。

 マヒルは申し訳ない気持ちになりながら、急いでウサギの肉をお腹にかき込んだ。

 山を降り街に入ると、もう昼近くになっていた。

 この街は軍の駐留がないようだ。それ故に先ずは敵軍が近いことを、皆に伝えなくてはならない。その為ガーゴが街の税収官に会いにいき、カズサが街の人の集まるところにいくことにした。

 上と下に情報を与えることで、街全体に知らせる効果を狙うとのことだった。マヒルとミユリはカズサについて、街の中心の繁華街と思しき街路に向かった。

 舗装もされていなければ、石畳も道の真ん中にしか敷かれていない。高くても二階建てしかない家屋が並び、似たような屋台が出ている質素な道だ。

 そしてその屋台の向こうに、一際にぎやかな声が漏れてくるお店があった。

「ここでいいか」

 カズサは中を覗き込んでそう言った。

「何よこのお店。どう見ても、未成年立ち入り禁止じゃない」

 マヒルも店の奥を背伸びして確かめた。

 華やかな――とは言いがたいが、それでも色気がこぼれてくれる酒場だ。

 そして昼の日中から酒をくらい、少なからずの客が席を埋めている。皆ほろ酔いで、店の出し物に興じているようだ。

 酒場の中央で若い女性が腰を震わせて踊っていた。挑発的な動きだ。実際見せつけられた男の客は、今にもふざけて飛びつこうとし、周りに腕を掴まれていた。

 その若い細身のダンサーは軽やかに舞い、己の四肢を見せつけるように周囲の男性の前に差し出す。

 周囲の男達は皆そのダンサーの虜になったように、鼻の下を伸ばしてその動きを目で追った。

「ミセイネン? 何だ?」

「成人前ってことよ」

「十五の成人の儀式なら、俺は去年やったぞ。足に紐をくくりつけて、崖から飛び降りるんだ。お前もやったろ? 十五は超えてるだろ?」

「確かに十六だけど、女性に歳訊かないでよ。あ、そうそう何と私の誕生日は、五月三日のけんぽ――」

「じゃあ、入ろうぜ」

 マヒルに皆まで言わせず、カズサがその手を引いた。

「ちょっと! 待ってって! 私の国ではこういうは十八からなの! お酒なら二十からなの! てか、崖から飛び降りたりしないの!」

 マヒルはその場に踏ん張り、カズサの手を振り払う。

「お兄ちゃん。それに、こっちでも女の人は飛び降りの儀はしないよ」

「おう。そういえば忘れていたな」

「は、物忘れのひどい新成人さんだこと。もう老化――」

「マヒルが女だってこと!」

 マヒルに皆まで言わせず、カズサは意地悪げな顔を向けて言った。

「何ですって!」

「でもまあ、確かにあのお姉さんのような、大人の色気はマヒルにはないな。悪かった悪かった。マヒルはお子様だ」

「何ですって! 刑法――モガッ!」

 カズサはマヒルに皆まで言わせず、その口を手で覆ってしまう。

「なる程。これがマヒルの弱点か。今度からもこうしよう」

「モガッ! フガッ!」

「じゃあ、話をしてくる。ここで待ってろ」

「ブハッ! ちょちょちょ、ちょっと。こんなところに女子二人――」

 マヒルが息を吹き返して抗議に声を荒らげると、

「何かあったら大声を出せ! 得意だろ? ケーホーとか何とか叫んで、俺を呼べ!」

 カズサはスタスタとカウンターに向かってしまう。

「たく……」

 酒場をそれでも入り口から覗き込むと、マヒルは中から声をかけられた。

「マヒルちゃん!」

 酒場の中央で驚きに目を見開いている人物がいた。その身にぴったりと張りつくドレスを、これ見よがし震わせて踊っていた、先程目に止まったダンサーだ。

 この異世界で自分の名を呼ぶ女性がいるとは、マヒルは思いもよらなかった。

 相手以上に驚いた顔でマヒルはその女性を見返すと、

「えっ? ハルキ先輩?」

 そう素っ頓狂な声を上げた。

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