異邦人3
森を進むうちにすっかりと日が暮れていた。マヒル達は敵に見つかりにくそうな木陰を見つけると、そこで夜を明かすことにした。
寝息を立てるミユリを肩に乗せ、マヒルは座って焚き火にあたる。二枚しかない毛布の一枚を、ミユリと二人で肩からかぶっていた。
ここはマヒルのいた世界と同じく春のようだが、やはり夜の風は冷たかった。
カズサとガーゴは枯れ草や木切れを集めて、何気ない様子で火をおこした。マヒルはその様子に感心して見入ったことを、その結果である焚き火を見ながら思い出した。
火を起こした二人は少しだけ姿を消すと、ウサギをつかまえて帰ってきた。
ウサギは瞬く間に解体された。マヒルは最初目を背けていたが、皆がおいしそうに食べ始めるので最後は一緒になっていただいた。
ミユリが何気ない様子で摘んだハーブが、ウサギの肉汁によく合ったことも、マヒルはその味とともに思い出した。
つい先程まで生きていたものをいただく。マヒルは魚ですら、そんな経験をしたことがあっただろうかとも思う。
そして――
「人…… 死んでたね……」
そしてマヒルはもう一つの死を思い出し、唐突にぽつりと呟く。
火が起こり、辺りは静寂に包まれている。その情景にマヒルはすっかりと弱気になったようだ。戦闘と逃走がもたらす興奮が冷めると、一気に現実の問題を考えさせられた。
「そうだな……」
火の番をしながらカズサが応える。ガーゴは見回りに出て、席を外していた。
「殺さないで…… 欲しいな……」
マヒルはまたもやぽつりと呟く。
「無茶言うなよ。これは戦争だぜ」
「でも……」
マヒルは目を伏せた。殺人と戦争。そして法律。普遍的なテーマだ。
マヒルは法律の問題として考えたことはあっても、実際に直面する問題だとは思っていなかった。
そのことにも思い至り、やはりマヒルは弱気になる。
「今まさに、マヒルの背後から、あいつらが斬りかかってくるかも知れないんだぜ?」
「それは……」
マヒルは言い返そうと顔を上げる。だが何も言えなかった。
「そんな時に、法律とやらを振りかざしたら、相手は止まってくれんのか?」
「……」
「それに俺が後一人でも多く殺していたら、ラーグラは死なずに済んだかもしれないぜ?」
「何よ……」
「お前の国じゃ、こういう場合黙って殺されるのかよ?」
「違うわよ。正当防衛が認められる場合もあるし、そもそもそんな風にならないように、法律で武器を取り締まったりしているわ」
「俺らだって、日常で斬り合ってる訳じゃねえよ」
カズサはバツが悪そうに、焚き火の中を枯れ枝でかき回した。
「……」
マヒルはもう一度目を伏せる。
「……悪かった…… ちょっと言い過ぎた」
「……別に…… 謝られたって嬉しくない……」
マヒルは伏せた視線を更にそらす。
「何だよ……」
「別に……」
「だが悪いが敵襲があったら、俺もガーゴもミユリを守らなくちゃならない。もちろんマヒルもな……」
「……」
マヒルはやはり目を合わさない。
「その為には敵の命だって奪う。話し合いなんて応じてくれないからな」
「……」
マヒルは黙り込んでしまい、
「……」
カズサもそれ以上は何も言わなかった。