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異邦人1

 マヒルとカズサ達は、流れの早い川を渡ることにした。カズサが自力で泳ぎ切り、焼け残った馬車から持ってきたロープで向こう岸とこちらを結んだ。

 ラーグラの遺体は埋葬すらあきらめた。川岸の人目につかないところに横たえ、腕だけ組んでやる。

 せめてもと思いマヒルと意識を取り戻したミユリが、拾ってきた花をその身にかけてやった。カズサが布で顔を隠してやると、それ以上は何も、この戦友にしてやれなかった。

 ガーゴに支えられ、マヒルとミユリがそのロープを伝って川を渡る。幸い最も深いところでも、マヒルの肩程しか深さがなかった。

 マヒルは法律書が濡れないようにと、手を挙げながら何とか渡り切る。

 川の向こうもやはり立木は生えていた。こちらはもう森といった感じだ。鬱蒼と生えた木々が方々に枝を伸ばし、まるで立体的な迷路のようにマヒルには見えた。

 服を乾かす暇もなく、せき立てられるようにマヒルは森の中に連れていかれる。

 ガーゴはこの森を突きって、向こうにある街に向かうと言う。カズサも同意した。

 マヒルは透けるシャツに気を取られながら、カズサ達三人に何とかついていった。ビニールカバーがついているのを幸いにと、胸元を法律書で隠してマヒルは森をいく。

 マヒル以外の三人は、森を歩き慣れているようだ。両手で法律書を抱え、覚束ない足取りで進むマヒルに皆が時折立ち止まって待ってくれた。

「それは魔導書ではないのか?」

 追いついたマヒルに、何度目かの同じ質問をカズサがした。

「しつこいわね? 何も起こらなかったでしょ? これは法律書なの。そんな怪しげなものじゃないの」

「国の法律が書いてあるのか?」

 カズサがまじまじとマヒルの手元を覗き込む。

「そうよ。まぁ、これはポケット判だから、全部じゃないけど」

 マヒルは法律書より、自分の胸元を見られている気がして、身を捩りながら答える。

「ポケットバン?」

「そうよ。全部なら持てないぐらいになるもの。ポケットに入る大きさになるように、重要な法律だけ抜き出してあるの」

「入るのですか?」

 ポケットという割には、少々大きいその本にガーゴが興味深げに見入る。ガーゴは延焼を免れた馬車から持ってきた、野営の道具を背負っていた。

「入るわよ…… まあ、大きいポケットなら……」

 カズサの時と違い、不思議とガーゴはちゃんと法律書を見ているような気がした。二人の違いは、その顔の作りのせいだとマヒルは己に言い聞かせる。

 ガーゴはその四角い顔と細い目が相まって、見るからに真面目そうだ。

 カズサは凛々しい――

 マヒルは素直にそう思う。それ故にか、マヒルはカズサの視線を、まともに受けることができなかった。

「魔法か何かで小さくして入れるんじゃないのか?」

 そのカズサはなおも訊いてくる。

「だから法律書だって」

「やっぱり、魔導書じゃ……」

「ないわよ」

「法律書ぐらいこっちにだってあるんだぞ! 見たことないけどよ! 豚を盗んだものは、その足の数だけむち打ちに処す――とか、色々書いてあるやつだろ? 何でそれが救国の力なんだよ?」

「知らないわよ。てか、何まじまじ見てんのよ」

 マヒルはやはり法律書の脇から見える、透けたシャツを見られているような気がした。

「何だよ…… 法律書ってのが珍しいだけだよ」

「えっ、そう? 法律に興味があるのなら、私が色々と教えて――」

「それにこっちの下着とは、随分と違うみたいだし」

「なっ!」

「カズサ…… 本音が出てるぞ……」

「あっ!」

「あっ! じゃないわよ! 刑法第百七十四条! こ、公然わいせつ!」

 マヒルは音を立てて法律書をめくった。

「なっ?」

「『公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する』!」

「ギャン!」

 カズサが悲鳴を上げて、飛び上がる。

「あれ?」

「あれ? じゃねえよ! やっぱり魔導書じゃないのか!」

「そんなはずは……」

「なあ、ミユリ? あれどう見ても、魔導書だよな?」

 カズサは巫女でもある妹のミユリに振り返る。

「そんなことよりお兄ちゃん……」

「何だ? 巫女なら分かるよな?」

「恥ずかしい真似しないで!」

 ミユリは幌の馬車で見せたように、

「グワッ!」

 カズサの前で炎を爆発させた。

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