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戦争と平和12

 血に滑った剣を片手に、カズサは突如現れた少女に近づく。少女は耳をつんざく悲鳴を上げた。興奮状態のようだ。先ずは落ち着かせなくてはならない。

「落ち着け…… 俺は……」

「いや…… こないで…… じゅ、銃砲刀剣類所持等取締法二十二条――刃体の長さが……」

 少女は停止しそうな思考を何とか奮い立たせ、目の前の現実と向き合おうとしているようだ。そしてその為に、祈りのような言葉をそらんじている。

「何だ!」

 カズサが雷に打たれたように、一瞬だけ身をすくませた。

「やっぱり魔力か? 今のが呪文か?」

「ひっ!」

「落ち着けって! 俺は味方だ! 今の呪文をあいつらに!」

 カズサは怯える少女に更に詰め寄る。

「イヤッ! 刑法第二百八条の三! 凶器準備集合及び結集!」

「グッ!」

「グオッ!」

 少女の声を耳にするや、カズサとガーゴ、そして敵兵が一斉に身をすくませた。その様子はやはり、雷にでも打たれたかのようだ。

 敵はその突然の魔力に互いに目配せをし出した。その身の内に与えられたダメージに、相手の魔力の大きさを見て驚いているようだ。

 カズサはそう判断し、自身も内に残るダメージに耐えながら敵に向かって剣を構える。このままいけば、押し返せるかもしれない。

「おい……」

 カズサは呼びかけると、少女を後ろに隠してやる。

「俺は味方だ。あいつらを倒すのを手伝って――」

「何を言ってるの!」

 少女はそう叫び上げるや、またもや分厚い本をめくり始めた。そしてあるページを開くと、その呪文のような文言を一息に唱えた。

「これは犯罪よ! 立派な刑法違反よ! 刑法第二百八条の三――凶器準備集合及び結集! 『二人以上の者が他人の生命、身体又は財産に対し共同して害を加える目的で集合した場合において、凶器を準備して又はその準備があることを知って集合した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する』!」

 少女は長々とした呪文を一気に唱え切った。そしてその呪文に、敵味方構わず周りの兵士は身を強ばらせた。まるで、その魔力に直接打たれたかのようだ。

「――ッ!」

 敵味方問わずにやはりその魔力に皆が打たれる。

「カズサ!」

「おうよ! やっぱり本物の力だ! 救国の力だ!」

「だがオレらまで……」

「とりあえず今は――耐えろ……」

 カズサはそう意地悪げ笑うと、誰よりも早く剣を構え直した。


「……」

 残り三人になった敵兵は、互いに目配せをしながら後ずさりを始める。未知なる力に怖じ気づいたようだ。

「逃げるぞ……」

 ガーゴは一息吐きたい欲求と戦いながら、その様子を油断なく見守る。

 そしてただ逃げるだけだともガーゴには思えない。彼らはおそらく斥候だ。体勢を整え直し、援軍を呼びに戻るのだろう。

 彼らは炎を乗り越えると、自らが乗ってきた馬に駆け出した。やはりひとまずは退いてくれるようだ。

「あんた誰だ? あれ本当に血か? それ、もしかして本当に死ん……」

 拓也は地面に転がる兵士の一人を指差す。

 その拓也の口の中に、火にあおられて舞い上がった下草が入り込んだ。苦い味が拓也の口の中に広がる。

 足下の火も熱い。何より血の匂いと思しき、すえた異臭がしている。

 これは現実だ。拓也はそう己に言い聞かせながら口を開いた。

「死んだんだよな…… 人が……」

「当たり前だ。手応えがあった。心配するな、もう死んでる」

「ひぃ……」

 マヒルはその最後の一言に、怯えたように後ずさる。

「俺はカズサだ。あんたらこそ何者だ? やはり異界の民か?」

「異界って何だよ。こっちの方がよっぽど異世界だぜ! あんた何だ? 兵隊か?」

 拓也は口に入ってしまった下草を吐き出しながら、毒づくようにカズサと名乗った兵士に答えた。

「ああ、俺達はこの国の兵士……」

 カズサはそう口を開きかけて言い淀む。『俺達』とは言ったが、残っている兵士はカズサとガーゴだけのようだ。他は殺され、そして逃げ出している。確かにヒヨコの新兵だ。カズサはラーグラの言葉を思い出す。

 ガーゴは動かなくなったそのラーグラに近寄り、その身を敵兵から剥がしてやっていた。敵兵の盾とラーグラの体を担ぎ上げ、こちらに戻ってくる。

「ん……」

 マヒルの足下で少女が呻いた。

「君、大丈夫?」

 マヒルが慌てて少女の身を助け起こすと、

「その娘に触るな!」

 カズサが慌てて制止しようとした。

「何よ……」

 もう既に抱え起こしていたマヒルの前で、少女の胸元から黒く丸く――ぞっとする程冷たい、水晶のような塊が転げ落ちてきた。

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