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ぽっちゃり聖女、女神から引導を渡される〜だって王子が美味しいものを食べさせるんだもん!〜

作者:
掲載日:2026/05/09

5月9日はアイスの日だそうです。

そういうわけで(どういうわけだ)短編を一つ。

連載はお休みします。


「あ〜、アイス食べたい」

 季節外れの暑さの中、庭園を日傘をさして散歩していた私はうっかりとつぶやいてしまった。

 この世界、身分が高いものが肌を出すのは許されない。薄手の服ではあるが、身体全体を覆っている服がいけないのだ。決してもっちりした腕とかぷっくりした腹とかのせいではない。決して。


「サラ様。あいす……とはなんでしょうか。」

 隣を歩くクレメンテ王子が足を止めた。王子の名に恥じぬ超絶イケメンである。背も高い。

 私のうっかり発言を聞かなかったことにしてくれないかとチラリと見てみたが、そんな気はないようで、目を輝かせている。私は仕方なく答えた。


「冷たいお菓子です。食べると口の中で溶けてしまうのです。今日みたいな暑い日にはピッタリなんです。」

「ソルベとは違うのですか?」

 怪訝そうに首を傾げる王子に私は指を振る。


「あれはあれで美味しいのですが、私が食べたいのは、牛乳と砂糖で作ったアイスなのです。」

「なるほど。では、作りましょう。」


 王子が手を上げると、どこからか、さささっと人が集まってくる。その人たちを見回して、王子は宣言した。

「これから『あいす』なるものを作る!準備をせよ!」

「はっ!」


 こうなると王子は止まらない。アイスができるまでひたすら進み続けるのだ。

「ではサラ様。いつものように作り方の説明をお願いいたします。お部屋に戻りましょう。」

「はーい……。」



 私はこの国に聖女として召喚された。聖女が幸せになると国全体に幸せが満ち溢れると女神から託宣があったそうで、それはそれは大事にされている。

 初対面の王子に

「一生幸せにします。」

 と言われた時はプロポーズかと思った。うっかり「はい」と言いかけたのは秘密だ。


 私の幸せは、食欲と直結している。食べるのが好きなのだ。特にデザートには目がない。ビュッフェに行った時は、デザートの全制覇はマストである。


 しかし、この国は貧しく、最初は食べ物が美味しくなかった。

 そこでついうっかりと、私はつぶやいてしまったのだ。

「プリン食べたい……。」

 と。


「プリンとはなんですか?」から始まり、試行錯誤して作られたプリンが私の前に差し出された時の感動がわかるだろうか。


「ん〜〜〜!」

 ふるりと震えながら口の中で抵抗もなく崩れていくプリン。そしてほろ苦いカラメル。私がその幸せに身悶えていると、ブワッと私の体から光がほとばしった。


「な、なに?」

 慌てる私に王子が跪く。なぜか涙目だ。

「それが聖女様の力なのです。お気に召していただけて良かったです……!」


 後で聞いた話によると、その光で国民の病気が治ったらしい。すごいね、聖女の力。


 しかし、毎日プリンでは飽きる。飽きますよね?他のもの食べたくなりますよね?

 ということで、私がうっかりと「食べたいなあ。」という度に、同じことが繰り返された。


 その度に光がほとばしり、土地が肥えたり、野菜の品質が良くなったり、家畜が元気になったりと国がどんどん豊かになっていった。


 もちろん私が食べたいと言ったもののレシピは国中に広まり、諸外国からもそれが食べたいと旅行客が殺到している。


 そして私も毎日美味しいものが食べられて、満足していた。

 満足していたの、だが。


 察しの良い方はお分かりだろう。美味しいものを食べ続けたらどうなるかを。


 一週間くらいすると、ドレスが入らなくなるとか。

(王子は一週間ごとにドレスを贈れるとなぜか喜んでいる)


 バスタブから流れ落ちるお湯の量が増えるとか。

(侍女たちが上手に誤魔化してくれている)


 一番いけないのは、毎日お茶の時間に美味しいデザートを山ほど持ってきて、私が食べるのを笑顔で見ている王子だと思う。


 そんなある日。私は夢を見た。どこかであったような女神が憂い顔をしている。


「サラ……。あなたは聖女としての勤めをしっかり果たしている。とても素晴らしいことです。しかし、このままではいけません。あなたの健康に害が及びます。」


「……それは、なんとなく、わかってました。」


 誤魔化していたが、今の私はかなりの巨体だ。


「そこで、制限を設けます。」


 女神から差し出されたのはまさかの体重計だ。デジタルではなく昔ながらの針のやつ。数値が書いていないのは、女神の慈悲か。


「乗ってみなさい。」

「はい……。」


 乗ると、後ろの表示がぐるぐるっと回った後、黄色の表示になった。右の方からちょっぴり赤いラインが見えている。


「赤のラインと針が重なった時、あなたの聖女としての力はなくなります。その後はこの国で普通の娘として暮らすのか、他の世界へ転移するかを選んでもらいます。」


「えええええ!」


 叫んだ途端、目が覚めた。


「サラ様?お目覚めですか?」

 どうやら本当に叫んでしまっていたらしい。侍女が声をかけて、天蓋の布をそっと開けた。と、足元を見て不思議そうな顔をした。

「これはなんでございますか?」

 侍女が持ち上げたものは、夢の中で見た体重計だった。

 なんてことだ。あれはただの夢ではなかったらしい。

 私の目の前は真っ暗になった。


 聖女として生きていくことを選ぶなら、ダイエットを始めなくてはならない。一番いいのは食事を見直すことだ。わかっている。


 だからこそ、庭園の散歩もしていたのだが、うっかりアイスの話をしてしまったのだ。


「サラ様!アイスの試食が出来上がりました!確認をお願いいたします!」

「サラ様!アイスにチョコを混ぜてみました!」

「トーストにアイスを!」

「いや!プリンとアイス!それに生クリームで贅沢に!」



 次から次へと襲ってくるアイスの試食で、赤いラインが近づいてくる。

「で、では一口だけ……。」

「なんと。お気に召されませんでしたか!作り直してまいります!」

 食事の量を減らそうとすると、病気かと心配される。


 とうとう私は、全てを王子に打ち明けることにした。


「これ以上、体重が増えると、私の聖女の力がなくなってしまうのです。」


 それを聞いた王子は切なげな顔をしながら、私のぷよぷよとした手を取った。


「それはすまなかった。サラ様がいつも幸せな顔で食べてくれるのが嬉しくて私もつい……。ただ、これだけはわかってほしい。たとえ聖女の力がなくなったとしても、君はこの国の恩人だ。生涯幸せにするといった言葉に嘘はないよ。」


「クレメンテ様……。」


 激甘な言葉だけで体重オーバーになりそうだ。

 しかし、私もこの国の人たちには良くしてもらった。できればこの国で聖女としてまだまだ頑張りたい。


「では、ダイエット食を作りましょう!普通の食事よりもヘルシーな料理です。ティータイムのおやつもカロリー少なめのものにします。」


「素晴らしい考えだね!では早速メニューを考えよう。」


 結局食べるんかい!というツッコミがどこからか聞こえた気もしたが、きっと気のせいだろう。


 なにしろ私の幸せはこの国の幸せなのだから。

主人公の体重の具体的数値は内緒です。乙女の秘密です。


読んでくださり、ありがとうございます。「面白い」と思われましたら、下記にあるブックマーク登録・レビュー・評価(広告の下にある☆☆☆☆☆→★★★★★)、リアクションなどしていただけると嬉しいです。

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