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最終章:沈黙の牢獄
修は、静かに玄関のドアを閉め、外に出た。
夜の街を彷徨いながら、彼は悟った。
自分にできることは、この「幸福な家庭」という名の地獄を、最後まで演じ続けることだけなのだと。
数ヶ月後、元気な男の子が生まれた。
名前は康夫が付けた。
「一真」。
修は、その子が自分に全く似ていないことを知りながら、誰よりも大きな声で喜び、誰よりも熱心にその子を抱き上げた。
病院の特別室。
赤ん坊を抱く修。
その横で満足げに微笑む康夫。
そして、虚ろな瞳で二人を見つめる瑠美。
一見、どこにでもある幸せな家族の風景。
しかし、その実態は、一人の支配者と、魂を売った女、そして全てを知りながら沈黙を選んだ男による、完成された共犯関係の檻だった。
康夫は、修の肩を親しげに抱き、耳元で囁いた。
「よかったな、修くん。これで秋山家は安泰だ。これからも、私がずっと君たちを守ってあげるよ」
修は、震える唇を噛み締め、精一杯の笑顔で答えた。
「はい…お義父さん。よろしくお願いします」
窓の外には、抜けるような青空が広がっていた。
しかし、この家の中に降り積もる闇が晴れることは、二度とない。
赤ん坊の産声が、地獄の完成を祝うファンファーレのように、静かな病室に響き渡っていた。




